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「第二十四話」操縦室にて

 しばらく呆然としていたグリシャだったが、やがて正気に戻った。目を若干泳がせながら、私に恐る恐る尋ねてくる。


「……えーっと、つまりだけどさ。あなたは『あの』ゼファーとなんかこう、親しい関係があったり……?」


 なんだかこう、よそよそしい。さっきまでガンガンタメ口と言うかそういう上から目線の態度を取っていたのに、若干敬語も混じっている。一体何がそんなに気になるのだろうか? まぁ、取り敢えず答えておこう。


「弟子だけど」

「……まじか」


 そのままグリシャは立ち上がり、室内をウロウロし始める。右に左に、前に後ろに……なんだか落ち着かないらしく、顎に手を添えながらぶつぶつと何かを呟いている。考え事だろうか?


「弟子って言うと、やっぱ魔法とか習ってたりしたのか?」

「う、うん。いっぱい教えてくれた」


 グリシャの顔が険しくなる。若干の怖さを感じさせるような、そんな顔。更にしばらく考える素振りを見せながら、歩く。その長いような短いような間が、なんとなく嫌だった。


「……」

「ね、ねぇ。さっきから何?」

「ずっと気になってたんだけどさ、お前はなんで魔法使いなのに杖を持ってないんだ?」

「……うーん、なんて言えば良いのかな」


 言語化するのが難しい質問が来てしまった。感覚的なことを、頭の中で一生懸命言葉に表す……じっくりと考え込むふりをしてグリシャの顔を伺うと、やはり怖い顔をしている。思わず私は、不完全な状態のまま口から言葉を発する。


「えっと、なんかね……杖を持った時よりも、普通に拳で殴ったほうが早いっていうか……その、しっくりくるの。なんでかわかんないけど」

「……そうなのか」


 そう言うと、グリシャは私から離れて階段を登った。私はなんとなく、その後についていく。──そこは、下の階とはまるで違う場所だった。


 ガラス張りに見える景色、色とりどりの出っ張りやらなんやら……先程の蛇口のような不思議な感じがするそれらは、私の好奇心をくすぐった。


「っと……あんま触ったりすんなよ?」

「あっ、ごめん」


 いつの間にか伸ばしていた手を引っ込め、自分の手癖の悪さにちょっと疑問を抱く。それにしても不思議な部屋だ……ここは一体、なんのための部屋なのだろう?


「ねぇグリシャ、ここって何をする部屋なの?」

「操縦席だよ。ここで家の進行方向とか、スピードを変えてるんだ」

「……動かせるってこと?」

「まぁな」


 なにそれ、超面白いじゃん。理屈とかそういうのは全然理解できないけど。


「……そう言えば、この家って今何処に向かってるの?」

「本当なら街に行く予定だったんだけどな、ちょっと寄り道したくなったんだ」

「……」

「そんな怖い顔するなよ。もしかしたら、あのバンってやつを呪った野郎を倒さなくてもいいかもしれねぇんだ」

「ほんとに!?」

「あくまで可能性だけどな」


 そう付け足したグリシャは、床から出ている出っ張りを踏んだり、横の棒を手前に引いたり押したり……私には何がなんだか分からなかったが、とにかく面白そうだった。


 ……それにしても、やはりゼファーは有名な魔法使いのようだ。まぁ、私が思っていたよりもなんだか反応が違ったが……あれ、そういえば。


(私、ゼファーが何したのかあんまり知らないな)


 今度グリシャに聞いてみよう。硝子張りの向こう側に広がる景色を見ながら、ぼんやりとそう思った。



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