「第二十二話」その名はグリシャ
目を見開き、私を見る少年。その表情には驚きこそあったが、怒りのような感情は一切なかった。寧ろなんというか、喜びの一歩手前のような……そんな、剥き出しの感情がそこにはあった。
「……お前、あいつを呪った魔法使いに目星がついてるのか?」
「うん。実際に戦ったしね」
まぁ、不意打ちに加えて私のあの虹の拳……とにかくイレギュラーや多くの奇跡に支えられた勝利だったのは黙っておこう。あの場で魔力の流れは覚えた、近くにいけば絶対に分かる。
「でも、居場所が分からないから間に合う保証がない。だからあなたには、こっちでどうにかして呪いを解いてほしいの。それに……」
「それに、なんだ? まさかだが、そいつに勝てるかどうかが分からないとか言うんじゃねぇだろうな?」
「えっ、なんでバレちゃったの?」
「顔だよ顔、めっちゃ歪んでるぞ」
思わず触ってみると、右頬がかなり引きつっていたことに気づく。成る程、ポーカーフェイスではゼファーを笑い死にさせかけた私をこうも簡単に見破るとは……この男、できるな?
「……なぁ、なんでここまでするんだ?」
「? どゆこと?」
突然の質問の意味が分からず、反射的に聞き返す。少年は唖然としながらも、再度具体的な問いを投げかけてきた。
「なんで他人のために、そこまでできるんだよ」
何故か苦しげで、まるで叱られた子供のような顔で聞いてきた。どうしてそんな顔をするのかは私には分からない。でも、この問いにはワンパンで答えることができる。
「なんでって、そりゃあもう」
笑いながら答える。
自分の口から、こんな台詞が出てくること。こんな素敵な言葉を理由として述べられることに感謝しながら。
「ただの他人じゃなくて、友達だからだよ」
そう、彼は友達なのだ。
私がこの人生の中で、初めて作った友達。──だから、助ける。
「……そうか」
少年は納得した様子だった、引き受けてくれるという意味で受け取っても良いのだろうか?
しかし、私の予想は大きく裏切られることになる。
「なら、俺も連れて行きな」
「……へ?」
「なんだよ、悪いか? ダチのために命張るお前の心意気、俺にも手伝わせてくれよ」
「じゃ、じゃあ……誰がバンを」
「それなら心配いらねぇよ、この家ごと移動すれば良い。医者として、コイツは完治するまで絶対に見捨てねぇ」
もう、頭が真っ白だ。
一人の度に戻ると思っていた、辛いものになると思っていた……なのに、なのに。
「自己紹介がまだだったな」
差し出された手を見てから、私は少年の顔を見る。
「俺はグリシャ。いつかこの世界を救う、未来の大発明家だ!」
晴れやかで、無邪気で……根っからの善人だということが分かる、いい笑顔だった。




