「第二十話」誠意100%の謝罪
クソ広い平原を彷徨っていると、現れたのはでっかい鉄の怪物。いい匂いがしたから穴をぶち開けて中に入ってみれば、その中にはなんとなんと普通の少年が一人……しかも「ここは俺の家だ!」とブチギレてきている。いやいやびっくり、こんな住みづらそうなビックリハウスに住んでいるとは、相当な変態趣味のご様子。
さて、よく分からない状況だがこんな時でも欠かしてはいけないことがある。初対面と初対面、そしてなにより……このよく分かんないヘンテコハウスをぶっ壊してしまったことへの謝罪である。──そう、きちんと誠意をもって謝れば許してくれる。ゼファーも拳骨一発で許してくれた。
私は、ひどく素直に……それでいて心から反省しながら、頭を下げた。
「はじめまして! あなたの家を壊してごめんなさい! そのソーセージ私にくれませんか!?」
「取り敢えず喧嘩売ってるんだなよしお前をぶっ飛ばすッ!」
どうやら私の誠意100%の謝罪は通用しなかったらしい。怒りのままに少年は勢いよく席から立ち上がり、勢いよくその両掌を合わせた。──その瞬間、少年の胸元から眩い光が現れ、それが手の先に収束していく。
「……!」
瞬時に私は魔力を込め、真横にタックルをぶちかまして外に逃げ出す。空中に放り出され、風を感じた次の瞬間……なんと家の中が大爆発したのである。吹き飛んでいく鉄の残骸やら生活用品やら、それに混じって光の束のようなものが見えた。魔法か何かだろうか? それにしたって、私よりも家をぶっ壊している気がするのだが。
とまぁ、そんな事を思いながら着地。空を見ると、そこには何やらブチギレてる様子の少年がいた。私は適度に拳を構えながら、彼が着地してくる辺りを予測して足を運んだ。
「っ……てめぇ避けるんじゃねぇよ!」
「避けなかったら死ぬじゃん」
「……そういうことじゃなくてだな」
「じゃあ何なの?」
「うるせぇいくぞオラァ!!」
埒が明かないと判断したのか、少年はそのまま間合いを詰めてきた。なんだか魔力の流れが普通な気がするが……優秀な近接系の魔法使いなのだろうか? どちらにせよ、まずは落ち着いてもらわなければ。──死なない程度に、ぶん殴る。
直撃、鳩尾に突き刺さる私の拳。ノーガードのまま突っ込んできた相手の勢いも利用した、不意打ちに近い一撃。──だが、その手応えは予想していたものとは大きく違った。
「硬っ……!?」
「素手で戦う魔法使いなんて、初めて見たぜ」
再び光り出す少年の胸元。その瞬間、いっそのこと冷ややかさすら感じるほどの暑さが拳に伝わる。私は思わず拳を引っ込めてしまったが、その隙を狩られてしまう。私はその場に組み伏せられ、頭を地面に押さえつけられた。
抵抗しようとするが、その力は凄まじかった。魔力の流れも依然として普通……体の硬さ、魔法を使っていないのに以上すぎる身体能力。困惑する私が、紛れもなくピンチに直面していることだけは確かだった。
「これに懲りたら、二度と人の家ぶっ壊すんじゃねぇぞ……!」
まずい、攻撃が来る! なんとかして、なんとかして抜け出さねば! だが抵抗も虚しく、組み伏せられた状態でも分かる逆光が……私の明確な「敗北」と、その向こうにある「死」を暗示していた。──もう駄目だ、そう思った瞬間だった。
「待ってください! お願い待って! 話せば分かります!」
「獣人……?」
先程置いてけぼりにしたバンの声。血相を変えて走ってきた彼に気を取られたのか、一瞬の隙と高速の緩みが生じる。すかさず私は一撃を入れ込み、その場から逃れて距離を取った。
「……」
「……」
睨む、睨み合う。
そんな私達を遮るように、荒い息を吐きながらバンが間に入った。
「ま、まずは……話し合いましょう、よ……」
「え、ちょっと……バン!?」
「ちょ、おい!」
いきなり倒れ込むバン。どうやらフリや冗談とかではなく、真面目に気絶していた。
「バン! ねぇちょっとしっかりして!
「……はぁ。仕方ねぇ、俺の家でそいつを休ませる。話はそれからだ」
深いため息をつく少年。私はどうしようかと思ったが、今は彼を頼るしかなさそうだった。ぐったりとしたバンを抱えながら、私は再び鉄の化け物もとい彼の家の中にお邪魔した。




