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「第十六話」仲直りの閃き

「……」


 間合いに入るが、反撃はない。あくまでこの女は、私の命だけではなく魔法使いとしての尊厳も全て奪う気だ……だが、それでいい。──これなら、勝てる! 集めろ、練り上げろ! テントの中に留まらず意識を集中させ、ありったけの魔力を握り締める。すると、突き出される拳から溢れ出る魔力の残滓が、虹のような輝きを放ったのだ。


(──来た、あの時と同じ!)


 ゼファーが呪いを受けたことに対する怒りに身を任せ、周囲の魔力をありったけ取り込んだあの時。拳一つに押し込んだ魔力には妙な違和感があった。──溢れ出す虹の残滓。あれ以来はどうやっても出せていなかったが……今回は、捻り出せた。


「──貴様」

「遅い! 飛べぇぇえええぇぇええっっっッッ!!」


 マーリンの余裕の表情を崩す。重ねられた防御魔法を突き破り、棒立ちの顔面に渾身の一撃を叩き込む。全体重を乗せた拳は容赦なくマーリンを殴り飛ばし、テントを突き破ってぶっ飛んでいった。


「──バン、逃げるよ!」

「えっ、ええっ!?」


 すかさず、私は背を向ける。きょとんとしているバンを担ぎ、足腰に魔力を流して飛ぶ。勢い余ってテントの屋根を突き破った私は、そのままふわりと温かい風を受けた。──ふと、ゼファーの顔が脳裏に浮かぶ。こんな風よりも、もっと暖かかった笑顔だ。


「アリーシャさん着地! 落ちてますっ!」

「はっ!? ごめんごめん考え事してた!」


 こんな状況で何考えてたんですか!? バンの悲痛な叫びに適当な謝罪を挟み込みながら、私は街の中を疾走した。目指すはあの階段だ。あんな一撃をノーガードで顔面に受けたのだ、直ぐには追って来やしないだろう。


(それに、多分あれは分身。藁人形か何かで作った仮初めの身体……あんだけぶち込んでおけば、いくらマーリンが作ったやつでも壊れる)


 憶測、不安……それらを鎮めるために無理やり立てた予想。

 だが、とにかく地上に出てしまえば、あとはいくらでも逃げることができる。


「どけどけどけぇえええ!」


 野次馬を蹴散らしながら、階段の直ぐ側に付く。私はそのままの勢いで駆け上がり、一気に上を目指す。──あれ、そういえばあの『からくり』ってやつ……どうやって開けるんだっけ? 天井らしき何かが見えた頃には、私は既に拳を構えていた。


「作った人、ごめんなさい!」


 物悲しい音を立てながら、私は天井ごと『からくり』をぶっ壊した。小さかったり大きかったりする鉄の丸いギザギザしたやつがそこら中に散乱しており、私はとにかく……外に出ることが出来たのだと理解した。


「……助かった」


 バンを抱えたまま、私はその場にへたりこんだ。

 騒ぎになる前に離れたほうが良いのは分かっているが、今はまだ……『生きている』を感じていたかった。


「……その、アリーシャさん」

「ん?」

「本当に、ごめんなさい。僕、その……ああ、どうお詫びをすれば……!」


 心の底から、申し訳ないという気持ちが伝わってくる。

 それでも私はまだ、完全にこの子を許せるわけがない。

 さてどうしたものか……そう思った私は、天才的な閃きを得た。


「……じゃあ、少し休んだら行こうか」

「ど、どこにですか……?」


 怯えるバンの頭を撫でながら、私はにんまりと笑ってみせた。


「ごはんだよ、ごはん。お礼……してくれるんでしょ?」




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