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「第十三話」魔王の言い訳

 大魔法使い、マーリン。

 その名を何度、本で目にしただろうか。


 人間には扱えないと言われていた闇の魔法を理解し、当時の魔法を全て否定した天才であり、自らを「魔王」として全ての魔法使いに宣戦布告した異常者。


 長きに渡る戦いの結果、彼女はゼファーによって封印された。何十にも重ねられた封印魔法の奥に肉体を閉じ込められ、魂は転生することなく囚われている。──だが、そんな化け物が自分の真下に、今こうして立っている。


「幾つか、言い訳をしておこうか」


 言葉一つ一つに魔力が込められているのではないか、有りもしないような錯覚をするほどの圧倒的存在感。あの日襲いかかってきた魔法使いとは比べ物にならないほどの、魔力のざわめき。


「まず、今ここにいる私は完全な私ではない」

「は……?」


 そんなはずはない、と私は耳を疑った。そこにいるだけで魔力の流れを歪ませるような存在が、全力ではない? いいや、そもそも完全ではないとはどういうことだ? 疑問が疑問を呼び、思考が更に深まっていく。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ姐さん!」


 だが、それは震えるような叫びに遮られた。

 声の主は、バンを捕まえている男の物だった。


「……なんだ?」


 不機嫌に、それでいて若干の怒りを感じさせるような声。実際に対峙していない私ですら鳥肌が立つような声だ。むしろ、震えながらもまだ立っているあの男……どうやらそこそこに肝が座っているらしい。


「あ、あのですね……俺はあのガキを連れてきたわけでぇそのぅ、報酬は……?」

「……ああ、そういうことか。そうだな、お前には──」


 マーリンと名乗る魔法使いは、落ち着いた声を発した。そのすぐ後に手を出し、男の顔面へと近づけていく。──そんな、まさか。最悪を感じ取った私は、思わず声を発していた。


「逃げて!」

「もう、用は無い」


 その瞬間、周囲の魔力が消えた。──直後、男の上半身が消し飛んだ。


「──ぁ」


 何が起きた? 何があったんだ?

 今、私の……いいや、このテントに流れる全ての魔力が消えて、あの一撃に収束していた。反応も感知も許さないような、なにかの間違いなのではないかと思うような魔法だった。だが事実、男の上半身は消し飛び……マーリンは返り血で赤黒く染まっていた。


「……バン!」


 倒れては、いる。が……どうやら直撃は免れたようで、体をブルブル震わせながら自分のみを抱きしめていた。怖いだろう、直ぐ側で人が死んで……早く助けて、側にいてやらなければ。


「──さて」


 ぞわり、背筋が凍る。


「話の続きをしようじゃないか」


 ……いいや、違う。

 側にいてやりたい、ではない。

 早く誰かと一緒に居ないと、私まで気が狂ってしまいそうなのだ。





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