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「第十一話」巣窟

 地下を無理矢理掘り進めた空洞に、街が形成されていた。


 骨組みに布をかぶせた、簡易式の建物。地上で見たものよりも簡素で手抜きで、何よりそこには……喜々とした活気がないように思える。寧ろ逆だ、常に互いを見張り合っているような……そんな、一時も気が休まらない場だということを肌で感じた。


 その証拠に、誰もバンを助けようとしない。それどころか、まるで獲物を見るような目で……私達の方に目を向けてきていたのだ。


「ついてきな」


 男はそう言って、躊躇なく進む。何故か荒くれ共は道の両側に移動し、ベタつくような目でこちらを見ていた。


「心配すんな、こいつらは俺達に手は出せねぇ」

「……ここは、なんなの?」

「裏の世界の入口、ってとこか? 奴隷やヤベェ品は、みんなここで取引されてる……まぁ、買われる側のお前らに言うのは皮肉かもしれねぇけどな」


 こちらに振り向いてくる男の顔を、私は思いっきり殴り飛ばしたかった。だがそれではいけない、こんな場で何か騒ぎを起こせば……野次馬連中が何をしてくるか。──その時の混沌の中で、バンが生きているイメージが湧かなかった。


「私をこんなところに連れてきて、何するつもり? 悪いけど、お金とか持ってないから」

「さぁな、俺もよく知らねぇ」

「は?」

「俺は依頼されたんだよ。赤髪の、杖を持ってない女の魔法使いを連れてこいって」

「依頼って……」


 忘れようとしていた怒りが、ぶくぶくと煮える。金のために、自分の私利私欲のために人を傷つける。関係ない人まで巻き込んで、それを悪びれもせずに口に出し、挙句の果てには笑う。──外道だ。人を踏みにじることになんの躊躇いも見せない、化け物だ。


 いや、違う。


(ここにいる人達、みんな化け物なんだ)


 微かに聞こえる下衆な言葉、舐め回すような視線……それら全てが、私にとっては気味が悪かった。それは私に、今すぐにでも逃げ出したいなどという無責任な願いを匂わせるのに十分すぎた。


 それでも、助ける。

 だってバンは、もっともっと怖いはずなのだから。


「ここだ、入れ」


 見上げると、そこにはまた建物があった。サーカス団のテントのような、それでも……一切の高揚を感じない、血の滲んだような幕に包まれたそれは、入りたくないと素直に思った。






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