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  第6章  【初陣と10人の魔王】

第1章は短編小説「その日、女の子になった私 〜序章編〜」のエンディングの続きから始まります。

宜しければ、併せて読んで頂けると、主人公・神崎瑞稀がどの様にして、女性になったのか?より深く物語に入れると思います。

宜しくお願い致します。

 あれから数日が経ち、両軍は対峙たいじしていた。

敵の斥候せっこうを兼ねた先遣隊せんけんたいおよそ1万5千だ。

此方こちらは国の守りもあるから、4人それぞれが5千ずつ率いている。

中央に私、右にクラスタ、左にフレイア、後詰にロードと言う布陣だ。

敵は魚鱗の陣を敷いて突撃態勢に入っている。


「突撃ー!」

ほぼ両軍同時に突撃を開始した。

騎兵が乗ってるのは馬ではない。

飛竜だ。

とは言ってもドラゴンみたいな顔ではなくて、どちらかと言うとトカゲみたいだ。

背中に生えている翼は蝙蝠の羽に似ている。


実はこれに乗れる様になるまで苦労した。

練習の時、バランスが取り辛くて、何度も振り落とされた。

例えるなら、初めて自転車に乗ろうとして、転びながら何度も練習する感じだ。

バランスを身体で覚えさせてからは簡単に乗れる様になった。

何にでもコツがあるが、それを習得するまで時間はかかるよね。


怒声にまぎれて剣戟けんげきの音があちこちで響く。

向かって来る敵兵の槍をかわし、受け流して敵陣奥深く目指して突撃を繰り返す。

敵将を見つけて駆け寄せると、相手も私に気付いて槍を構え直して向かって来る。


「うーらぁ!」

渾身の力を込めて打ち合う。

火花が散り、相手の2撃目を身体の柔らかさとバネで背に沿ってギリギリでかわす。

反撃の2撃目を相手の顔目掛けて槍を繰り出すが、首をひねってかわされた。

態勢を整えて3撃目を繰り出すが槍で弾かれた。

槍を振り回して渾身の4撃目を頭上から振り下ろしたが、槍を横に持って受け止められた。

繰り出された反撃の先が、私のほおかすめた。

突き、受け、弾き、かわし、叩き、殴る。

さらに十数合も打ち合ったが勝負がつかない。

周りを見ると配下の兵は押されて、壊走寸前だ。

それもそのはずで此方こちらは5千、敵は1万5千で3倍の兵力だ。


「退け、退けー!」


「退却ー!」


「全軍、突撃ー!」


怒号が入り乱れ、敗走する私の背に無数の矢が飛んで来る。

追って来る敵に追い付かれそうになった時、敵の背後が色めき立った。

左右からクラスタとフレイアが挟撃し、突っ込んで来たのだ。


「ここだぁ、全軍反転突撃!」

私はきびすを返して再び正面に突撃した。

後詰のロードも突撃して来た。


「うぉらぁ!」

私と互角に打ち合った敵将を、ロードは一撃で討ち取った。

将を討ち取られ、退却する敵軍に追い討ちを掛けて、撃ち破った。


前哨戦ぜんしょうせんは大勝に終わった。

「釣り野伏」が上手く機能した。

危ない所もあったけど。

味方も敵も全員生き返らせ、負傷者も治療した。

途中で何度も意識が飛び掛けたが、魔石で魔力を回復されながら行った。

我が軍は3万3千に兵力は膨らんだ。

単純計算で2千の敵兵に逃げられた事になるが、瓦解して敗走した兵が自陣に向かうとは限らない。

野に降って、戦役から逃れようとする者もいるからだ。

何はともあれ、次は敵の本隊が相手だ。

聞けば10万を超えると言う。

兵は増えたがそれでも3倍の相手だ。


2日後、敵の本隊が現れて鶴翼かくよくの陣を敷いた。

此方こちらも兵を率いてにらみ合った。


紡錘ぼうすいの陣形を組め!」

大将である私を中心に三角形になる形を取る。


「皆んな良く聞いて!鶴翼かくよくの陣は大軍で包み込み、兵を削って勝利を得る陣だ。しかし唯一の弱点は、中央の兵が薄く、両翼が包み込むよりも速く中央に辿たどり着き、突破して敵将を討てば必ず瓦解する!両翼が迫って来ても臆するな!恐れず、ただただ猪の如く前進突撃あるのみ!必ず鶴翼の陣は破れる」


この時、私は自らの指揮で前哨戦ぜんしょうせんに勝利したので浮かれていたのかも知れない。

この後、私は思い知る事になる。

私の知識など、書物から得ただけの机上の空論でしか無かった事を。

臥竜がりょう鳳雛ほうすうと並び立てずとも、周瑜しゅうゆや徐庶には匹敵したかもなどと自惚うぬぼれていた。

説明など要らないだろうが、臥竜がりょうは三国時代の天才軍師と名高い諸葛亮孔明の事で、鳳雛ほうすうは孔明に匹敵すると言われた龐統ほうとうの事だ。


魔界に来て初めて雨が降った。

とは言っても、土砂降りではなく、シトシトと降っている。

魔界にも雨が降るんだな、と思っていると急激に気温が下がった気がする。


私は振り上げた手を下ろして突撃の号令をかけた。

敵は両翼を閉じ様と進軍を開始したが、目にも暮れずただただ敵本陣を目指す。

敵の旗の文字が肉眼で見える距離まで迫ると、一斉に矢が飛んで来た。

剣で打ち払いながら、速度を緩めるどころか更に加速させた。


「おぉぉぉぉ!」

トップスピードに乗った味方の突進で、敵本陣が崩れる。


私は槍を構えて、敵兵に体当たりを食らわす。

相手がバランスを崩した所をぎ払い、喉をき切った。

次の標的に対して、槍を素早く繰り出す。

敵兵4〜5人が私を取り囲んで、槍を突き出した。

それを薙ぎ払い、受け流しながら反撃し、1人1人を確実に仕留めていく。


背後で強力な魔力を感じて、頭を下げてけた。

頭上を巨大な火球が飛んで行くのが見えた。

フレイアの魔法だ。

敵本陣に文字通り風穴が開き、そこを目掛けて突撃した。

しかし本陣は、もぬけのからだった。


「敵将は?ビゼルは?」

められたと悟って青ざめる。


「報告!ロード様が後方の敵に投降した模様」


「馬鹿言わないで!」

報せてきた兵を怒鳴った。

ロードが投降などするはずがない。

恐らく私を逃す為の時間を稼ぐ為に、殿しんがりとなって食い止めに行ったのだ。


「まだだ、このまま迂回うかいし、敵の後方に回れ!」

蛇が尻尾を食い合い、ドーナツ状態になるのは、寡兵である我々が圧倒的に不利で、反転攻撃されれば挟撃される形となり、全滅する可能性がある。

それでも現状の危機を乗り切る為には、その形を取った後に逃げるのが得策だと考えた。


だが、考えが甘かった。

此方こちらの策を、全て見通した知恵者が敵にはいるのだ。

敵の背後に回り掛けた時、右横から伏兵が突っ込んで来た。

こうなると最早もはや収拾など不可能で、ただ逃げる事しか出来なかった。


執拗しつように追撃して来る敵を薙ぎ払い、這々《ほうほう》のていでクラスタ領まで逃げ帰って来た。

私と共に帰還出来たのは、わずかか128騎だった。

ロードもフレイアもクラスタもまだ戻らず、依然として生死不明だ。


「惨敗だ…」

膝から崩れ落ち、あふれて来る涙を、両手で顔をおおって受け止めた。


私と共に帰還した兵士の傷を治療して、今後の事を思案していた。

「皆殺しになるくらいなら降伏した方が良い。ただ降伏しても殺されない保証がない」


不意に歓声が上がったので、よろめきながら見ると、ロードが帰還して来た。

ボロボロになったロードに走って駆け寄り、直ぐに回復魔法を唱えて全快した。

その間にクラスタも帰還し、半刻遅れてフレイアも帰還した。


共に連れて帰還出来た兵は、併せて2千弱。

「3万3千が2千…」

全員が戦死した訳ではないだろう。

投降した兵もいるはずだ。


「報告!敵軍が我城を囲んでおります!」

息を切らせながら報告をした兵士を下がらせた。


「報告!敵より使者が参っております」

ロードと目が合ってうなずいた。

恐らく降伏勧告だろう。


「魔王ミズキに拝謁はいえつ致します」

使者は拝礼を取った。


「使者殿、要件は降伏勧告に来たのか?」


「滅相もございません。その逆で、配下に加えて頂きたく参上致しました。我4国の力は身を持って体感なされたでしょう?」


「待って、負けた私達が傘下に加わるならまだしも、何故…?」


「何故…で、ごさいますか」


「それは此方こちらの魔王ロード様に聞いて頂ければ、ご理解頂けます」


「まさかまた?(出来レースだったの?)」

ロードは首を振って否定した。


「ミズキの策が読まれ、敗北が濃厚になった時、取引に向かったのよ」


ロードが敵に寝返ったと報告を受けた時、ロードは傷付きながら魔王ビゼルの元まで辿り着いた。

勝利を確信したビゼルは、話だけ聞いてやろうと王者の風格をかもした。

このまま我が軍を滅ぼし、領土を傘下に治めても、良くて魔界の覇者だろうと。

そこから先は?

神国に攻めるにはミズキが必要だと。


現在、魔王と呼ばれる存在の全ては元は神だった。

皆、ロードの様な過去を持つ。

神々に復讐するなら、我が軍の傘下に加われと、ビゼルを説得したのだ。

ビゼルの4カ国同盟が傘下に加われば、最早、魔界は征圧したも同然である。

残り3カ国は容易に降るだろう。


「何故、私が必要なの?」


「私がミズキ、お前に賭けて譲位した理由だよ」


「?」


「この魔界に来るには厚い黒雲を抜けて来たはずだ」


「えぇ、それが何か?」


「アレは神々が我々を閉じ込める為に作った、闇の牢獄の錠前なんだよ」


「…(そう言えば、自動音声ガイドが言ってた気がする)」


「我々はアレを抜けて通る事が出来ない。しかし、内側からゲートを開く事が出来れば、我々はここから出られる」


「ここを出て、神々に復讐するには、ミズキ、お前の力が必要なんだ」


「ビゼル達が傘下に加わる理由は、『神々への復讐』と言う共通目的があるからだよ」


魔王ビゼルの他に、魔王ハルバート、魔王ミューズ、魔王ルシエラが傘下に加わる事になった。

私の策を見抜いて罠にかけたのは、魔王ルシエラの智謀によるものだった。

ルシエラは、見た目がおっとりとした大人しそうな女性で、ビゼル達の軍師を務めていたのもうなずけるほど頭が切れる。

私は彼女をずっとかたわらに置いて、話し相手になってもらった。


魔王ビゼルは腹に一物いちもつかかえていそうな腹黒さがあり、心から信用してはダメだなと感じた。


魔王ハルバートは、魔界一とうたわれる怪力の持ち主で、ロードでもまともに打ち合えば数合で討ち取られるかも知れないと言っていた。


魔王ミューズも女性で、肌の色を自由に変えられ、初めて会った時は緑色だったが、今は薄紫色だ。


その後、ルシエラの進言に従って、魔王ファルゴを攻めて無血開城を迫った。

魔王ファルゴが降ると、残る2人の魔王も降伏すると使者を送って来た。


新たに加わった魔王は、アーシャとフィーロと言う名前だ。

フィーロは地水火風の4大元素魔法を極めていて、アメリカのSSSランクより上かも知れない。

戦わずに降伏してくれて良かったと思う魔王だ。


アーシャは、張玉ヂャン・ユゥの様に時空間魔法を極めていた。

相手の時を巻き戻したり、加速させて時間を進めたり出来る恐ろしい魔法だ。

何故なら、赤子にまで時間を巻き戻されれば、抵抗など出来ないし、老人ないし果ては骨になるまで時間を加速されれば、一瞬で命を失う事になるだろう。

最も魔王は全員が不老長寿なので、効かないのだけど。

不老は年齢が固定される為、増えたり減ったりしないからだ。


私はこうして、誰にも成せなかった魔界統一を果たした。

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

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