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第六話  洞窟の秘密

「これで、身動きできない状態のまま、私を殺せる者はいなくなりましたね」



 血だまりに沈む魔術師を見ながら、店主は笑みを浮かべた。


 店主は自分が弱いことを知っている。なにしろ、宿屋の店主として、勇者を名乗る何百人という冒険者を見てきたのだ。それらに比べて、能力が劣っていることを理解していた。


 それゆえに、逆に目が肥えた。誰がどれだけの力を有し、自分とどれほどの差があるのか、それを正確に認識できていた。


 この五人組は勇者チームを名乗るだけあって、かなりの手練れだ。しかも、【魔剣ミステルテイン】を闇市場から買い上げれるほどの財を有するくらい場数を踏み、蓄財に励んだ連中だ。


 文句なしに最高峰の冒険者チームと呼んでも差し支えない。


 そうであるならば、魔術師は最大の脅威となる。もし、魔術師が金縛りに動じることなく、冷静に対処して初手から店主を殺しにかかっていれば、この状況を脱することができたであろう。


 だが、それをやる前に店主に殺された。誰を真っ先に殺すべきか、最初から目星を付けていたのだ。



「魔術師殿、首から下げておられる【賢者の石】は特に高額ですから、あとできっちり回収いたしますよ。届けてくれてありがとう」



 それからは淡々とした作業の連続だった。倒れている者の側によっては、首を狙って黒い短剣を一振り。誰も彼も血を噴き出し、血だまりに沈んでいった。


 泣き叫ぶ者、命乞いをする者、あらん限りの罵声を浴びせる者、様々であったが、店主はどれにも耳を貸さず、まな板の上で肉を切る程度の感覚で、次々と調理していった。


 魔術師に続き、神官、盗賊、拳士、四人の女性が黒い短剣によって命を落とした。手練れの冒険者が、粗末な装備しか持たぬたった一人の男になす術もなく殺されてしまったのだ。



「さて、それでは最後の一人と参りましょうか、剣士殿」



 返り血に染まる店主は不気味な笑みを浮かべながら、残った剣士の下へとゆっくりと歩み寄った。



「すまない、みんな。すまない、すまない……!」



 つい先程まで会話を交わしていた長年の戦友であり、恋人でもあった四人の仲間をすべて失った。皆が皆、魅力的で実力も申し分ない仲間であったのに、今は動かぬ躯と化した。


 自然と剣士の瞳からは涙が零れ落ちたが、滴り落ちる地面はすでに仲間の血で満たされ、その中に僅かな水滴が加わろうと、何も変化はなかった。



「店主……、お前は一体……、一体何が目的なのだ!?」



「お金です」



 店主はきっぱりと言い切り、空いている左手の親指と人差し指で輪を作り、ニヤリと笑った。



「冒険者というものは、練度が上がれば上がるほど、それにふさわしい装備を得るものです。そうでなければ実力は発揮できませんし、実力をさらに伸ばしてくれるのも良質な装備なのですから。もし、高練度の冒険者を一網打尽にできるのであれば、その装備品をそっくりそのままいただけます。素晴らしいと思いませんか?」



 一切悪びれた風もなく、店主は面白おかしく笑うだけであった。



「そうか……。宿屋で妙に目利きの利いた説明をしていたのは、以前に“同じ”装備品を扱ったことがあったからか!?」



「ご明察。百の勇者を仕留め、その装備品を売り払い、それを買い取った者がまたやって来て、それを仕留めて再び売り払う。これの繰り返しです」



「……! ああ、畜生! 魔剣が闇市場に流れていたのはそういうことなのか!」



 剣士は倒れ込んだまま、魔剣を睨み付けた。


 なぜ伝説級の武器が闇市場などに売られていたのか、それに対してもっと疑問に思うべきだったと今更ながらに後悔した。


 “闇”に流れていたと言う事は、真っ当な手段でそこにあるわけではない。盗品や強奪品の可能性が高く、何かしらの訳ありでそこにあるからなのだ。



「はい、お察しの通りです。私が闇商に売り飛ばしましたのですよ。さすがにあの手の高額な品をただの宿屋の店主が売ろうとしても、怪しまれたり足が付いたりするだけですからね。ゆえに、闇商に買い取ってもらいました。正規ルートと違うため、妙な詮索はなしにしてくれますが、その分値段を買い叩かれてしまうのが難点ですがね。良くて相場の三割、悪くすれば一割で買い取りなんてこともありましたぞ」



 店主は視線を床に落ちている魔剣に視線を向けた。



「その魔剣も以前の勇者がお持ちの品でしてね。ええっと、たしか……、五回前と、十一回前、それと、十九回前のパーティーが持っていたかな? あと、十一回前の時は【賢者の石】も含まれていたかな?」



「くそ……、これが“勇者の墓穴”の秘密というわけか!」



「はい、私の集金装置というわけです。もっとも、“勇者”を生贄に捧げないと開けられない、お金を下ろす苦労する貯金箱ですがね」



 店主の高笑いはなおも続き、洞窟に反響した。それが耳に突き刺さる度に、剣士の怒りもさらに増していった。



           ~ 第七話に続く ~

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