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アレックスの溺愛



 セシルが無事に10歳を迎え、晴れて師としてお目見えがかなったアレックスは、日々上機嫌であった。基本アレックスはあまり表情を表に出すことはないのだが、魔法研究所内でも副所長がよく笑っているというのは恐怖と共に噂になった。

 恐怖と共にというのは、今までアレックスが微笑んでみせるのは、鬼畜な依頼を取り付けるときにする無言の圧力である場合が多かったためである。

 アレックスは、セシルに会うためにと考えると厄介な案件でもそつなくこなすことができ、またセシルのためにしてあげたいことが新しい魔法研究の推進力となり、日々の仕事はとても順調であった。


 また、諜報活動にも余念がない。今まではあまりやりたがらなかった、遠方の属国の様子も進んで見に行くようになった。特にセシルの住んでいる国に近い辺境の国々に対しては、宗主の望む以上に目を光らせて情報収集に勤しんだ。

 万が一その周辺で戦争など起こって、セシルの身に何かがあったら困るから、と分厚い報告書を宗主に提出するアレックスを見て、宗主も宰相も嫁は決まりだな、と笑うしかなかった。逆にセシルがアレックスを受け入れなかった場合、こやつが何をやらかすかが心配だ、と言われる始末。


 確かにセシルの魔力は膨大だが、魔力の使い方及び移転魔法の速さはアレックスは群を抜いている。それこそ所長であるフォスターよりもはるかに精度が高く、また距離の制限もないようで、目印さえあればどこへでも跳ぶことが可能だ。アレックスが前世の異世界の記憶を頼りに、こことは全く異なる場所へ跳ぶことも場合によっては可能かもしれない。万が一セシルがアレックスを拒んだ場合、アレックスはセシルをどこへ閉じ込める気だろう……と考えると、宰相はまだ会ったこともないセシルという娘が無事に義娘となることを了承してくれるよう祈るしかなかった。


 更にアレックスはこの頃、魔法研究所の近くにある治安のよい場所に一軒家を探しているらしい。セシルと共に暮らす気満々である。せめて相手の希望を聞いてからにした方がいいのではないか、と研究所内でも言われたらしいのだが、本人は意に介せず、セシルの好みは把握しているとばかりに気になる何軒かを下見しているようだ。



 そんなこんなで平穏に過ごしていたある日、ルーベルグ王国がセシルに王命を出したとアレックスがフォスターと共に宗主に急ぎの謁見を願ってきた。何度かルーベルグ王国の影がセシルの様子を見に来ていたのは知っていたが、下手に手を出すと却って自分の存在がばれて悪手になるかと思い、放っておいたのだとアレックスは言う。


 消しておくべきだった! と喚き、やっぱり今から殺ってくるというアレックスを宥め、宗主と宰相、フォスター及びアレックスの4名で話し合いを行う。


 結果として、というか最初から結論ありきであったが、セシルはルーベルグ王国には渡さないということで話は付いた。

 セシルはアレックスの安定剤としてもぜひとも魔法研究所、そしてアレックスの隣にいてもらいたい。そうでなければ、アレックスが暴れだして大変なこととなる、ということを今回の件で皆身に染みた。セシルは何としても無事にアレックスの元まで連れてこなくてはいけない。

 そのための会議が続けられ、アレックスはセシルがルーベルク王国王太子と婚約を反故にした上で、無事に貴族籍返還ができるようにあらゆる手を尽くす権利を宗主から得た。勿論秘密裏に、という条件は付くが。


 そうして1年。アレックスは精力的に動くこととなった。本来であれば王太子に洗脳魔法をかけるという手もあったが、あくまで本人にやらかした実感がないと、後々異議を唱える可能性がある。そのため、アリーナへの魅了魔法もある程度力を絞ったものにしておいたから、王太子はいざとなればアリーナの希望を断る権利も有していたのだ。それをしなかったのは、日々魅了魔法に晒されていたのもあるが、それ以上に本人の心の弱さが原因だ。

 王太子には、最初からセシルに誠実に接するという道もないわけではなかった。セシルが王太子を望むなら、アレックスはセシルのためであれば自分は身を引くことも吝かではないと思ってはいた。勿論王太子以上に自分の方が魅力的であることをしっかりアピールするつもりではあったが。だが、セシルを選ばなかったのは、それどころか虐げたのは王太子だ。そんな奴は、自らの弱さを糾弾され地獄まで落ちていくべきだとアレックスは思っている。セシルを傷つけるものに、幸せな未来など与えるものか!


 卒業パーティの様子は、セシルの身の回りの物を既に目印として認識してあるので、今回はセシルの髪飾りに薄い空間の裂け目を入れて音だけ聞こえるようにしており、状況は逐次理解していた。音に聞くだけに留めていたのは、途中でセシルの着替えがあるためだ。間違っても着替えを覗くなど、紳士にあるまじき行為はしない。アレックスはセシルに対しては常に誠実な紳士なのだ。

 セシルが髪飾りを取り外しバレッタに着け替えた音を聞いて、アレックスは髪飾りの空間魔法を取り消しバレッタにそれを切り替える。勿論あくまで音だけしか捉えない。そうしてセシルが外に出たのを確認してから初めて、空間の裂け目のサイズをもう少しだけ大きくして様子をうかがうことにした。

 もともと黒いバレッタは空間の裂け目を入れても暗くしか見えないため、よほど目を凝らしてみない限り違和感を覚えることはない。まして、外は少しずつ薄暗くなっている。学園街は小売店が立ち並ぶためそれなりに明るいが、つきはじめた街灯は仄かで、ところどころ影がかかる。異常がばれることはあるまい。

 基本はセシル一人で移動するよう話はしてあるが、万が一途中で暴漢などに遭った場合は、アレックスは直ぐにセシルの傍に飛び出せる準備はしてある。無理矢理風属性保持者からもらった魔石があるので、セシルを傷つけるものには容赦せず攻撃ができる。

 王太子から貴族籍剥奪を言いつけられたからだろう、セシルは神殿に行かずそのまま森を目指しているようだ、と見ていると、セシルの足取りがどんどん早くなっていく。

 あぁ、不安なのだなと考えたら、森でセシルを待ちながら様子を見ていたアレックスはもう我慢できなくなった。幸いセシルの傍に人通りは今はない。セシルのバレッタを基点に空間を広げ、そっとセシルの隣に立った。


「大丈夫。迎えに来たよ」


 セシルが心なしか自分に身を預けてくれた。かすかに肩が震えて見える。


「ちょうど人が途切れたからね。運がよかった」


 ここまで一人でよく頑張った、とその手をしっかりと握り、再度人通りがないことを確認して詠唱をした。空間の中に呑まれながら、そっとセシルを抱きしめてこれで全部終わったよと告げると、安堵からか、かすかにセシルの嗚咽が聞こえた。この腕の中の存在が本当に愛おしい。


 魔法研究所にセシルを連れて跳んだ。まずはセシルを皆に紹介しないと。そして、自分のものだと牽制もしないと! セシルに何かしたら許さないと皆にしっかり釘を刺し、合わせて自分の嫁だと宣言した。

 普段ほとんど表情を変えないセシルだが、真っ赤になった様子は幼子のようでとても可愛らしかった。こんなレアな表情を見せてくれるなんて、と嬉しくなっていたら、所員の一人がアレックスが新居探しで皆に多大な迷惑をかけたんだとヤジを飛ばしてきた。

 うるさい。どの物件も甲乙つけがたくて、どれが一番良いかを空き時間に見取り図を並べ唸っていたら、やんややんやと勝手にお前たちが集まってきただけじゃないか、とアレックスは反論する。

 ヤジに乗せられたようで申し訳ないが、セシルが気に入りそうな物件を押さえてあるので一緒に見に行ってほしいと告げると、セシルは嬉しそうに微笑んでくれた。表情を変えることが出来なかったセシルが、少しずつ、少しずつ、色々な表情を見せてくれる。それがとてもうれしい。


 まずは婚約者からとセシルからの言葉を受けて、より一層外堀を埋めるためにアレックスは精を出す。もともと魔法研究所の皆には事前にセシルのことをしっかりと話していたからか、コミュ障な職員たちにもセシルはきちんと受け入れられている。

 また、自分の執着ぶりを既に知っている家族は、総出でセシルを歓迎した。両親などは既にお義父様、お義母様と呼ばれてデレデレだ。セシルを篭絡するためだったのに父母が篭絡されてどうする、という気がしないでもないが、父や母と呼べる存在が出来たことでより一層セシルの心が落ち着いたと知ってアレックスは安堵する。魔法研究所、自分の家族、そして何より自分の隣は安全な場所だとセシルには常に思ってもらいたい。セシルとの幸せな生活を守るために、アレックスはこれからも仕事に励み、また宗主国の安寧に力を尽くしていく所存だ。


誤字報告いただきました。ありがとうございます。修正いたしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレックスが見守ってくれていて何とか保っていたという感じですかね。 [一言] 伯爵家にはもっと地獄をみせてやりたい。鬼畜ですね。やつらは。
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