第二十一話 ヴァンパイアハンター
人気のない家の間を、一人の男が音を消しながら駆ける。
身につけている武器を壁に当てないように器用に走っている。
「必要以上に危害を加える気はなかったが……そうも言っていられないかもな……」
ポケットに手を突っ込み、残りの銃弾を確認する。
残りは11発。むやみやたらに撃てないと思いつつ、撃つことを躊躇してもいけないと自らに言い聞かせる。
残りは少ないが、だからと言って温存できるほどの状況でもないのは明白だった。
少なくともヴァンパイアは三人を支配下に入れており、そのどれもが実力者だった。
ならば、あの男も彼ら以上の実力があるに違いない。
そう考えている男にとって、ためらいほどするべきではない行動はない。
今だって、実は気配を消して追われているのかもしれない。
今までに会った二回。その二回ともヴァンパイアの実力を見ることのできなかった男は、警戒心を今までで最も高めていた。
このままでは街全体を支配下におかれてしまう危険がある。
が、だからと言ってむやみに姿を現しては三人に袋だたきにされてしまう。それでは、男がここまで来た意味がない。
わざわざ辺境の街にまで来て、その辺境で私腹を肥やしたヴァンパイアに負けるなど、中央から派遣されたヴァンパイアハンターの名誉を傷つける。
なにより、まだ男には帰るべき家がある。
名誉も、自分もこんなところで終わらせるわけにはいかなかった。
「作戦……」
何かできることがあるだろうかと、未だ少ししっかりとしていない思考を働かせる。
人気の多い時間だと配下の人間が邪魔をしてくる。なら夜にするかと考えるが、それではヴァンパイアに本領を発揮させる場を作ってしまうだけだと否定する。
わざわざ敵に有利な戦場に飛び込む意味はない。
戦いは自分が最も強くなれる場が一番だと、昼の場合を考える。
ヴァンパイアの力を最大限まで削ることができ、また配下の人間が街の外にできてる状況もやりようによっては作ることができる。
が、広い場所で戦闘をする場合嫌でも人目があり、憲兵に手を出されかねない。
もちろん、自分がヴァンパイアハンターだと証明さえしてしまえば味方につけることはできる。
しかし、それでは街中に大きな混乱を生み出してしまう。
ヴァンパイアが人間を支配下に置くことができることはもはや一般常識とかしており、街に一匹のヴァンパイアがいるという噂を流しただけで、一つの都市が崩壊した過去もある以上、男はそれだけは避けるべきだと考えている。
守るべき人間がいなくなってしまっては本末転倒。なので、ヴァンパイアハンターは存在こそ知られているものの、基本的には給料泥棒という体裁を保ちながら活動するように言われている。
旅人のように街中を闊歩し、市民から蔑まれながら目的の人物を刈り取る。
一部の層には人気があるそうだが、基本的にヴァンパイアハンターを続ける人間は少ない。
他者から認められることは少なく、常に命の危機に瀕しているのだ。
そのことは長年ヴァンパイアハンターをやっている人間ほど理解しているし、そこまで重要視もしていない。
そこまでしてヴァンパイアハンターをやる人間にとって、名声やら地位やらは関係ないのだ。
宗教的な心情とか、復讐とか、なにか他者に自らの心をかき混ぜられても絶対に溶けることない何かを持っている者が残る。
そして、熟練のハンターができる上がるのだ。
ヴァンパイアの血肉と、蔑むような人の視線からできあがった職業。
だから、ヴァンパイアハンターは昼だから戦いやすいのかと言われると絶対にそうだと言えない。
間違いなく、人々の混乱を与えるか反発を受ける羽目になる。憲兵も協力するようにと言われてはいるだろうが、してくれるかどうかは別問題なのだ。
だから、男はどちらも渋っていた。
昼も夜も、どちらも適切ではない。
だから、いつも時間帯を気にすることなくあった瞬間ハルバードでたたき切っていた。
何も考えず、目の前にいるそれを半分にする作業をこなすことにしていた。
そうしていたせいで。
彼はいま窮地に陥っている。
真面目に作戦を考えたのはいつぶりだろうと、現実から少し逃げながら彼は思考を働かせる。
まだヴァンパイアハンターを始めたばかりの頃、自分の教育係になっていた者の言っていたことを思い出しながら、作戦を練ろうとしてみる。
「…………性に合わないな……分からん」
だが、考えたからと言って何かが決まることはなく、作戦らしいことも決まらなかった。
昼も夜もだめ。
今までの狩りを思い出したところで、時間帯を気にしていたことは一度もないため参考にならない。
「うぅむ……朝方を狙うか……?」
昼も夜もダメならば、朝ならどうだ。
そう口に出して、脳みそを動かす。
朝ならば冒険者の奴らも少ないだろうし、街の住民も起きている奴らは少ないはずだ。
ヴァンパイアの力も間違いなく弱まっているし、その場で瞬殺することも可能かもしれない。
「よし……ならば……」
持っていた回復ポーションを手に取り、蓋をあける。
それをグビッと一気に飲みきって、投げ捨てる。
口元から垂れたポーションが床に落ちて、赤い跡を残す。
独特な風味のするポーションからくる吐き気に押さえるために口元を押さえながら、男は暗い路地から大通りを見つめる
「まずは……奴の根城を見つけることとしよう……」
帽子を深くかぶり、何食わぬ顔をしながら大通りへと足を運ぶ。
目的の人物は変わらない。
ただ一匹のヴァンパイアを殺すため。
静かに息を潜めるのだ。




