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第十話 夜から朝へ

「主人、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫……だよ……」


 強がってはみたものの、気分が悪い。

 アクラムとの戦闘をなんとか切り抜けて、金の音をじゃらじゃらと鳴らせながらなんとか宿に帰れた良いものの、先ほどから激しい頭痛やめまいに襲われている。


 森でキノコ型モンスターの胞子でも浴びていたのだろうか。

 それとも何か最近の食事に体調不良を引き起こすようなものがあった?


 回復ポーションを飲んではみたが、やはり効果はなかった。

 飲む前にしょうがないと割り切ってはいたが、こうやって失敗したという現状を受け止めると飲まなきゃ良かったという後悔が生まれてしまう。


 今日飲んだ回復ポーションがあれば、もしかしたら未来で物事を良い方に持って行けたかもしれない。

 そんなあり得るかも分からない未来について語りたくなってしまうのだ。


 いくら割り切っていようと、やはり後悔は生まれてしまう。

 ……。


 やっぱり、飲まなきゃ良かった……。


「でも、どうみても大丈夫そうな見た目じゃありませんよ!」


「そ、そうかい? 俺は元気だよ」


「だったらそんな触覚がおられて気分が落ち込んだ芋虫型のモンスターみたいな顔しないでくださいよ!」


「そ、それ……」


「?」


「どんな顔だよ!!!!」


 そう、レナに発言にツッコミを入れたが最後。

 俺はそれに残った全部の力を使い切り、気を失った。



               ☆☆☆



 なんだか、おなかが重たい。

 すごく圧迫感があり、不快感が俺を襲っている。


 ほどよい暖かさが、余計に気持ち悪さを加速させ。

 寝起きだというのに、俺の思考が既に全開で働いている。


「てか、何!?」


 ガバッと、勢いよく上半身を上げると腹に乗っていたものが足の辺りに流れ落ちる。

 ずるずる~と転がり、止まった。


「……レナ? なんでこんなところで───」


 そこまで言ったとき、俺は昨日あったことを思いだした。

 昨日の夜、宿で何をしていたのかを思い出した。


「気分が悪くなって、最後にレナの発言にツッコんで力尽きたんだ」


 自分の口で言ってて意味が分からないが、そんな事が起こった。

 それ以外のことは特に起こっていなさそう。


 視界の端の机には少し量が減ってしまったが、大金が依然として入っている袋がある。

 大金が盗まれる大事件が始まり、探偵業が始まる……という展開はなさそうで安心した。


「んん……主人、おはようございます」


「え、ああ、おはよう」


 昨日劇的な終わり方をしていた割に、とっても日常的な起床で少し拍子抜けだ。

 もっと大きなリアクションが帰ってくると思ったのに。


「昨日は迷惑かけてごめん。あれから何もなかった?」


「昨日……ああ、問題ありませんよ! 主人の問題とあればそれは私の大問題ですからね!!」


 よく意味は分からないが、とりあえず何もなかったようだ。

(しもべ)魂と言えば良いのだろうか、それ的には問題だったらしいが、すなわち特に何もなかったと捉えても、問題ないのだろう。


「じゃあ、とりあえずどいてもらってもいい?」


「は! 私としたことが、主人を枕に使うなど!!」


 なにげにずっと俺の足を枕にしながら離していたレナにどいてもらい、俺は立ち上がる。

 立ち上がってもふらつくことはないし、頭痛等も感じられなかったので昨日の体調不良は完治したと言って良さそうだ。


 すみませんすみませんと先ほどから謝罪を続けているレナをテキトーに対応しつつ、俺は袋に入った数枚手に取った。

 昨日使ったポーション用と、いくつか装備を買いそろえる用だ。


 多分、これぐらいあれば足りないなんてことにはならない。

 よっぽど高価なものに手を出しさえしなければ。


「レナ、ささっと準備して組合に行こうか。依頼を受けてから、いくつかお店を回ろう」


「かしこまりました、主人! レナ、すぐに準備いたします!」


 ビシッと、かっこよく敬礼して部屋を駆け巡りながら衣服を着替えるレナ。

 着替えると同時進行で、鞄の中身の確認と武器の状態の確認も済ませていた。


 器用だな~と眺めながら、俺も着替えより先に荷物を確認する。

 先ほど買おうと決めた物以外で、買っておきたい物がないか確認する。


「これとこれは……数あるし。こっちはこれ以上持っても重量が重くなっちゃうか」


 様々な物を手に持っては鞄に入れ、手に取っては鞄に入れる。

 不足している物はなさそうだった。精々、遭難したに備えて保存食を買いそろえるぐらいだろうか。レナが新しくパーティーに加わったので、単純に人一人分の食糧がいる。


 その分の重さを考えると、荷物をいくつか処分するべきかもしれない。

 正直買ったはいいものの、改めて考えると使い道が限りなく限られている物がいくつかある。


 それを置いていけば、多分いつもと変わらないぐらいの重さになると思う。

 道具を減らすのは恐ろしいが、優先順位で考えると食糧の方が優先だ。


「主人! 準備できました!」


「ん、あ~、そういえばレナの装備も買わないとな」


 準備ができたと敬礼をしながら言うレナの姿を見て、その軽装さに驚かされる。

 彼女の戦闘スタイル的に軽装が良いのだろうけど、いくらなんでも軽装過ぎる。ただの服と何の違いもない薄さだ。


 袋から新たに何枚か硬貨をとる。

 防具の値段は物によるので、少し多めに手に取っておく。


「俺も着替えたらすぐに行けるからちょっと待っといて」


「はい、分かりました。主人!」


 寝間着から着替え、防具を着込む。

 約半年修理をしながら使っているのでかなりボロボロだ。


 ついでに俺の防具も新調しようかな。

 命のためと考えれば、お金を使うのを渋るのもなんとも馬鹿馬鹿しい。


 金がいくらあったところで、死んでは意味がない。

 うーん。


 買っておくか。

 なくなってからあれやこれや後悔してもしょうがない。


 あるんだから使ってしまおう。

 さらに数枚硬貨を手に取る。


「じゃ、行こうか」


「はい! 行きましょう!!」


 レナが、元気よく扉を開けて出て行った。

 最後に部屋にないか大切な物を残していないか確認して、俺も部屋を後にする。


 金を残すのはとても不安だが、一応鍵はかかっているし、持ち出したところでさらに盗まれやすくなるだけだろう。

 置いていった方が、きっと安全だ。


 と。

 いうことにして金は置いていくことにした。

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