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異世界8日目。
今朝は鶏卵の採集はお休み。
代わりに昨日設置したビーカーから樹液を回収した。
次に街へと跳び、飴を卸した。今回は昨日の3倍を卸したので乾物屋のおっさんは大喜び。もっと多くても良いらしい。こちらの手持ち金も5万円を超えた。
続いて向かったのは陶器工房。作ってくれると言っていた飴の型を受け取りに行く。
工房に着くと工房長が出迎えてくれた。
「おう。来たか。もうちょっと待ってくれねぇか。出来立てで今冷却中だ。」
「どれくらい待ちますか?」
「昼前には渡せるぞ。」
「そうですか。では出直します。」
「出来だけでも見ていかねえか?」
「そうですね。じゃあお願いします。」
強面の工房長には逆らえない。言われるがままに付いて行く。
「これだ。まだ熱いから触るなよ。」
台の上に並べられた四角くて白い陶器。半球状の凹みが均等に並んでいる。1枚に10行10列、100個の凹み。1つは直径1cmより大きいが1.5cmは無いだろう。その四角形の陶器が40枚も並んでいる。
「半球状の飴にするということですか。穴がやや小さい気がしますね。」
「こいつは2枚を重ねて使うんだ。型に入れるってこたぁ溶かして流し込むんだろう?固まりかけのところで2枚重ねてくっつけりゃあ綺麗な球体ができるだろう。」
「なるほど。上手くできるか分かりませんが試してみます。ですが、料金は1枚1万円ですか?そんなに手持ちはありません。」
「ん?ああ、調子にのって作り過ぎちまったか。一晩でできたからな。全部買うなら2万円で良いぞ。」
「それなら全部買います。でもまだ持ち帰れないんですよね?お金は払っておいて昼頃取りに来ます。」
金を払ってから工房を出る。
そういえば小田さんの事を忘れていたな。その後、働き先は見つかったのだろうか。
再び乾麺屋に戻ってうどんの乾麺を購入。ついでに親父に聞いている。
「この店は売り子が足りてなかったりしないか?」
「足りてないことは無いが、お前がもっと大量に飴を卸してくれたら足りなくなるかもしれねぇな。」
「俺の知り合いの女性だが、働き口を探していたんだ。何処か無いかと思ってな。」
「女か。それは大変だろう。」
「やっぱり女性が働き口を探すのは大変なのか?」
「縁故でも無い限り雇わねえな。」
「どうしてだ?女性の方が向いてる仕事もあるだろう。この店の売り子だって女性でも構わないんじゃないのか?」
「今は俺一人で回っているからな。これが俺じゃなくて女一人だったら襲ってくれと言っているようなもんだろう。」
「マジか?こんな店が建ち並ぶ場所で、店番が襲われるのか?」
「店の中は見えないから隣や向かいが襲われても分からねえだろう。いつも女しかいない店となりゃあ狙われるだろうよ。」
そうか。この街の店は表がガラス張りになっていたり、全面開放されていたりせず、扉を潜って中に入る構造なので外からは中の様子が覗い難い。看板が出ているので店だと分かるが、無かったら民家と変わらない外観だ。この状態では店の中で事件が起きていても他の店の人は気付きようが無いのか。
「男なら多少は戦う訓練はしているだろう。実際には戦えなくても、戦えるかもしれないと思われればいいだけだからな。男だってだけで抑止になる。」
「おっさんと一緒に働く分には女でも問題無いってことか。」
「そうだ。お前が一杯卸してくれて忙しくなったら雇ってもいいぞ。」
小田さんから聞いていた話では単なる男尊女卑かと思っていたが、単に治安が悪いだけのようだ。元の世界でだって治安が悪い所で若い女性を働かせようとはしないだろう。まあ、小田さんからしたらどっちにしろこの世界は酷いということになるのだろうが。
あまり気が進まないが、小田さんにも会っていくか。
【鳥瞰図】で確認すると、小田さんはこの前の宿屋にそのまま滞在中ようだ。転移で行ったら着替え中とかだと困るので歩いて宿屋へ向かう。
宿屋だけあり周りの建物よりは大きいが、ここも建物の中を外から伺うことはできない構造だ。受付も男なのだろうな。
中に入ると予想通り男に出迎えられる。
「すみません。ここに泊っている知人に取り次いで貰えませんか?」
「宿泊者の名前は?」
「小田余梨。」
「あんたは?」
「大和です。」
「おーい。」
男が声を掛けると若い女が奥から出てくる。男が女に耳打ちすると、女が再び奥へと消えていった。
従業員全て男ということでは無いようだ。
西洋系の顔立ちだったのではっきりとは分からないが、男は40代くらいに見え、女は20代くらいに見えた。親子だろうか。
しばらくすると先ほどの女と一緒に小田さんが出てきた。女は一礼すると再び奥へと消える。
「大和君、来てくれたんだ。」
「一応様子くらいは見ようかと思って。」
「部屋で話す?」
宿泊者以外が中に入っても問題無いのだろうか。男の顔を伺うが特に咎める様子はない。
「じゃあ少しだけ。」
これから、小田さんの職探しの話をすることになる。宿泊中の宿屋の従業員の前でするべき話ではないだろう。
小田さんに案内されて部屋の中に入る。相変わらず殺風景な部屋だ。あまり長居する気は無いので早速本題へと入る。
「その後、働き口は見つかった?」
「あれから探してない。」
「お金大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。どうしよう。」
「俺たちは森に残っているメンバーに飴を作って貰って、この街の乾物屋に卸し始めたよ。まだ儲けは少ないけど徐々に拡大していこうと思ってる。それで、その乾物屋の親父に聞いたんだけど、飴の販売量が増えて忙しくなったら女性を一人雇ってもいいと言ってくれたよ。条件付だけど、小田さん働いてみない?」
「いいの?ありがとう。」
「それじゃあ上手くことが進んだらまた連絡するよ。」
「どれくらい待てばいい?あの、所持金はあと5日が限界なの。」
「ごめん。はっきりとは言えない。でも進行状況によらず2~3日後には一度顔を出すよ。」
「寂しいし不安なの。毎日来れない?」
「ごめん。忙しくて。」
「お願い!」
「ごめん。今こうしている間も、森にいるメンバーはモンスターに襲われているかもしれないんだ。安全な場所にいる小田さんを優先することはできないよ。本当に忙しいんだ。もう行くね。」
「大和君の意地悪!」
意地悪か。俺から言わせれば小田さんが我儘だよ。
気持ちは分かる。悪魔に異世界に連れてこられて不安いっぱいなのだろう。ちょっと前まで親が用意してくれた家やごはんが当たり前の生活だったのに、それが理不尽に奪われたのだ。素直に現状を受け入れて現状に見合った生活を送ることなんてできやしないだろう。森にいる人達はいつ命を落とすかもしれない状況なので、好む好まないに限らず生き残るために働かなければならないが、小田さんの場合は中途半端に安全な状態を手に入れてしまって切迫感が失われてしまっているのだ。
でも森にいるメンバーよりも恵まれているのは間違いない。俺が優先すべきは小田さんではない。
宿を出て人目につかない路地裏に隠れてから転移で拠点に戻った。




