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「おー!!なかなか良い所じゃん!!これがお前らの拠点かぁ。あっ、美咲ちゃんだ!生き残ってたんだね?久しぶり!!」
想定外の事態に唖然とする。
服装で直ぐに分かる。やってきたのは異世界に来てから初めて会うクラスメイトだった。戸田君も一緒にいるので戸田君が連れてきたってことだよな。
制服はドロドロで髪は乱れているし髭が伸びていてまるで別人だが、それでも面影からクラスメイトの西東だと分かった。
それにしても、「美咲ちゃん」だと?教室ではそんな呼び方してなかっただろう。異世界に来て調子にのってるな。あまり好きではないタイプだ。
・・・。よく考えるまでも無く、ハーレムを築こうとしている俺が一番調子にのっているよな。彼への軽蔑はブーメランとなって俺に突き刺さるので控えよう。
声を掛けられた美咲さんが立ち上がって応対してくれている。さすがのコミュ力だ。
俺は美咲さんに気を取られている間に情報収集だ。小声でスキルを唱える。
「【マーキング】、27番。」
「【ロックオン】、27番。」
「【ステータス】。」
『西東大地
HP 315/342
MP 128/289
SP 151/301
状態異常:呪い(囚われの森)
スキル:時間加速』
スキルは【時間加速】か。
時間操作系のスキルは取得しようとしてもボーナスポイントが足らずに取得が難しかった印象がある。相当効果を弱めるか、何らかのデメリットを付けないと取得できないはずだ。だが西東は調子にのっているので、効果が弱いスキルということは無いだろう。だとすると相応のデメリットがあるスキルということになる。
スキル【時間加速】のデメリット。・・・。寿命が縮むとかかな。それだと見かけ上ノーリスクか。強力なスキルと考えて行動しないといけないな。
西東と美咲さんの会話は迷彩服の話に移っている。
「迷彩服は汚れが目立たなくていいよな。制服がボロボロだから俺も欲しいよ。」
「確かに汚れは目立たないよね。」
「でも女子は制服の方がいいんじゃない?これじゃあ色気が無いぞ。」
「制服だと活動し難いからね。」
「俺のとこにも女子がいるけど、戦闘や肉体労働は男の担当だからさ。」
「そうなんだぁ。女子は誰がいるの?」
「女子は水上。回復スキルを持ってるんだ。男は俺と田辺と板野。他の二人とも守備型で俺が攻撃型なんだよ。結構バランス良いだろう?」
「そうだね。何だか強そう。」
「美咲ちゃんもおいでよ。いや、ここも良さそうだし俺たちが来ようかな。」
「それはみんなと相談してからじゃないと駄目だよ。」
「うん?あいつらなら俺より弱いから俺の言うことに従うよ。」
「こっちのみんなね。寝る場所とか色々大変だから相談せずに引き入れたりできないの。」
「こっちは女子ばっかりだよね。俺強いから問題無いでしょ。」
強さに対する凄い自信だな。そして空気が読めない。隣の七菜さんがイライラしているのが伝わってくる。美咲さんが相談してからと食い下がっているが、西東は問題無いの一点圧しだ。
そろそろ話に加わりますか。インパクトのある話題で気を逸らそう。
「西東君。強さに自信があるなら良い情報があるよ。」
「うん?なんだ大和、居たのか。良い情報ってなんだよ。」
「ここから北に5kmちょっと行ったところに崖があってね。そこにプレートが埋められていたんだ。プレートには、崖の上に「北の守護者」がいるらしきことが書いてあったんだよ。」
「おおっ!面白そうな話じゃねぇか!?」
「どうもその「北の守護者」を倒すとアイテムが手に入るらしいんだ。あ、ちょっと待ってね。美咲さんは奥に行って二人を呼んできてあげてよ。夕飯食べたいでしょう。」
「うん!分かった!」
美咲さんを送り出す。
このまま西東と話していると遅くなる。あの二人を待たせると面倒そうだからMPの節約はいいから二人を呼んできてほしい。西東に扉を見られたくないから、ここから見えない奥で扉を開けて欲しいのだが、きっとその意図は伝わっているだろう。
「それで続きだけど、手に入るアイテムの名前は「キーストーン」。でもただ「北の守護者」を倒せば手に入るわけじゃなくて、プレートが指し示す場所に埋まっているって書かれていたんだ。まだその意味は分かって無いんだけど、単純な強さだけじゃなくて謎解き要素もあるみたいなんだよね。とりあえず「北の守護者」を倒せないことには何もできないんだけど。」
「「北の守護者」はどんな奴なんだ?」
「分からない。崖を登って見る勇気は無かったね。俺たちはそれよりももっと北、森の外れを見に行くことを優先したんだ。森の外れ、どうなってたと思う?」
「勿体ぶらずに教えろよ。」
「バリアみたいなのがあった。それで森から出られなくなってたよ。「北の守護者」、「キーストーン」、森から出られないようにする「バリア」。これらを合わせてどう考える?」
「そりゃあ、「キーストーン」が「バリア」を解く鍵になっているんだろうな。」
「そうだろうね。崖のある詳しい場所、知りたい?」
「だから教えろって。」
「俺は【鳥瞰図】っていうスキルを持ってるんだ。ちょっと待ってね。」
「【ロックオン】、40番。」
「【マップウィンドウ】。」
手の平に【鳥瞰図】が表示される。40番、鶏を中心にした地図だ。これならこの拠点の位置と円形の台地の一部が表示できる。
「小さいけど、ここが現在値。上が北で、ここに円形の下弦が見えるだろう。これが崖。現地まで行って【鳥瞰図】を見たけど、だいたい直径1kmの円形をしている台状の地形になっていたよ。ここからはほぼ真北に進めばいい。」
「森で真北って言われてもなぁ。」
美咲さんが甘野さんと井家田さんを連れて戻ってきた。そろそろいいか。
「ところで、「北の守護者」の「北の」って部分に注目すると、「南の」とか「西の」とかも居そうだと思わない?」
「居そうだな。」
「しかも早い者勝ちだって知ってた?」
「そうなのか?」
「森から出られる人数に制限があるんだ。たぶん6人まで。もし森から出たいなら気を付けてね。」
「悪いが、早い者勝ちなら俺が圧倒的に有利だぞ。」
「俺はもう競争には参加しないことを決めたから、森でも生きられるように生活基盤を整えることに注力しているんだ。森の中で店でも開こうかと思っているよ。とは言ってもここではお金はあまり意味ないから物々交換が主体になるけどね。西東君もご利用お待ちしております。」
「ん?ああ、分かった。でも何を持ってくればいいんだ?」
「モンスターの死体とか、薬草とか、木の実とか、あとスキルで作れる物があればそれでもいいけど、価値の判断が難しくて値段設定はできないから、最初のうちは毎回交渉だね。多分、私情を挟みまくりになるけどしょうがないよね。」
「食料はみんな必要だから手放さないぜ。商売になるのか?」
「引き取る物は食べ物に限らないよ。例えば、大ムカデ知ってる?あれは身は食べられるんだけど、頭は食べないだろう?大ムカデの頭は薬になるから食料との交換でも応じるよ。」
「大ムカデは見たことないが、薬を作れるのか。」
「そう。うちにはその技術があるからね。食料でも余った時に売ってもらい、不足した時に買って貰えばいい。もちろん利鞘はとるけど。」
「なるほどな。」
「戻ったら仲間にも店をやるつもりだって紹介しておいてよ。宣伝のためにうちの商品第一号をサンプルで渡そうか。七菜さん、いい?」
七菜さんは「用意します」と言って洞穴の奥へと消えてから、直ぐに戻ってきた。手には白いシーツを小さく切って作った包みを持っている。七菜さんがそれを西東に手渡す。
「サンプルです。どうぞ。私が作った飴を8粒入れてあります。卸値は1個100円ですが、今回だけ無料でお配りします。」
「ふーん。飴かありがとう。」
あまり感動は無いようだ。まあ、俺達からしたら飴なんて極ありふれた駄菓子だからな。街の人たちの方が喜んでくれるから、街に卸す方がいいな。
「宣伝よろしくね。」
「ん?おう。じゃあ貰って帰るか。」
おお、帰ってくれるらしい。是非そうしてください。調子にのってる人を見ると我が事の様で心が痛いんです。
帰ろうとする西東に美咲さんが声を掛ける。
「暗いけど大丈夫?」
「俺のスキルは移動にも向いてるから問題無いね。それじゃあ美咲さん、またね。」
あっ、呼び方が「美咲ちゃん」から「美咲さん」に変わった。調子にのり過ぎてた痛い自分に気付いたな。可哀想に。
「【アクセル】。」
西東は一言呟くと走り出すと、あっと言う間に姿が見えなくなった。
あれが【時間加速】のスキルか。発動のキーワードが【アクセル】なんだろうな。
動きはかなり速かった。エネルギーが速さの二乗に比例すると考えると攻撃力もかなり高くなっているのかもしれない。いきなり使ったところから考えると効果時間も長いのだろう。西東はなかなか良いスキルを得たみたいだな。
西東を見送っていた美咲さんが呟く。
「行っちゃったね。」
何となく寂しそうに見えたので美咲さんの隣に立って声を掛ける。
「寂しい?」
「ううん。何だか疲れたなと思って。みんな森に来て変になっているよね。」
「環境が激変したのは間違いないからね。しかも悪い方に。みんな教室で勉強していた時と同じでは居られないんだと思う。俺も含めてね。」
「大和君は良い方に変わったよ。」
「そうかな?ありがとう。これからもそう思って貰えるように努力するよ。」
「私も!頑張るね!」
美咲さんの笑顔が眩しい!!
今のはなんだか、良い感じだったよな!?
あ~、やばい。にやけてくる。格好つけて「これからもそう思って貰えるように」なんて言ったのに、その後ニヤニヤしてたら格好悪い。気を引き締めねば。




