表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/179

63

さて、気持ちを固めるために七菜さんに宣言をしよう。



「午後からは牛に挑戦してくるよ。」



いよいよ、行くのだ。今朝から俺の気持ちを盛り下げていたイベント。牛。



「無理はしないでくださいね。」


「うん。気を付ける。それじゃあ行ってきます。【トランスポート】、50番。」




視界が一瞬で入れ替わる。

当然ながら、牛の目の前だ。俺の転移はそういう仕様だ。牛の群れの中に突然現れた俺に驚き、牛たちが一斉に動き出した。



「うわぁ!ごめんごめん!落ち着いて!!」



思わず謝ってしまう。



「人間。お前、昨日も居たな。」



野太い声で話しかけてきた。え?誰が!?

直ぐに分かった。暴れる牛の中で1頭だけ俺を見て落ち着き払っている牛がいた。



「喋れるの!?」



びっくりして思わず聞いてしまった。目の前で喋っているのだから聞く意味がないのに、牛が喋ったことが異世界に来てから一番のファンタジーだ。



「何しに来た?その体で我らを食おうというのか?」



俺の質問には答えずに逆に質問をされた。もっともな問いかけだ。実際、狩って肉も食べる気だった。だけど喋る相手を食べようとは思わない。

話しかけてきた牛と俺が会話しているのを見て他の牛も落ち着いてくれたようだ。



「喋る相手を食べようとは思わないけど、乳を貰えないかと思って。」


「乳を?そうか。人間は異種の乳でも構わず食らうのだったな。」



そう言われると何だか人間が節操無しの悪食に思えてくるな。そうなんだけど。

何だか申し訳なく思えてくる。



「おい。」



喋っていた牛が呼び掛けると、俺の前に1頭の牛が歩み寄ってきた。



「そいつは運悪く飛竜に子を全て連れ去られた。乳が張って難儀している。そいつの乳なら吸ってもよいぞ。」


「直接は吸わないよ。でもお言葉に甘えさせて貰って搾らせて貰うよ。」


「うむ。」



乳絞りも目的の一つだったので鍋を持ってきている。多分6リットルくらい入るけど、体が大きいのでもっと絞れそうだ。

恐る恐る近付いて行く。軽トラック位だと思っていたが、近づいてみるともっと大きそうだ。2トン車に格上げしよう。その2トン車の下に潜り込むと、大きな乳房がある。牛の乳房って腹の真ん中あたりのイメージがあったが、思っていたよりも後ろ側に付いているのだな。乳首が4つ。元の世界の牛は、幾つだろう?そんな知識は持っていない。乳首が大きい。これは片手で絞るのは難しそうだ。清潔にしてあげる必要があるので綺麗な布と綺麗な水で乳房を丁寧に拭き、手袋を付けて搾り始める。凄い勢いで乳が出る。出始めは鍋に入れずに捨てる。意味があるかは分からないが、何となくその方が良い気がした。多分検尿の注意事項に引っ張られているな。まあいいか。俺は乳搾りの正しい知識なんて持っていないので、思いついた良さそうなことはやっておくのだ。



「満遍なく絞って欲しいそうだ。」



後ろから喋る牛に言われた。



「4つの乳首から満遍なくってことかな?」


「そうだ。」



言われた通りにしよう。でもどうして本人が言わないのだろう。



「こんな感じでいいですか?」


「うむ。良いそうだ。」




慣れてきたので話ながらでも乳を搾れそうだ。牛の王と会話して情報収集しよう。



「喋れるのはあなただけなんですか?」


「そうだ。我は群れの王。王となったことで言葉を覚えた。」


「王ではない他の牛は喋ることができないのですね?」


「そうだ。」


「王はどうやって他の方と意思疎通しているのですか?」


「互いの意思は伝わる。それが群れというものだ。」



王になる前から群れの中では意思疎通出来ていたということかな。常に一緒にいれば言葉を交わさなくともお互いの意思が分かるようになるということかもしれない。人間社会に当てはめて考えてみても全く同意は出来ないが。



「王になるのには条件があるのですか?」


「もっとも偉大なオスが群れの主となる。中でも力を持つ者が王となる。」


「つまり、群れの主でも王に成れない者もいるということですかね。」


「そうだ。王になるには力がいる。この草原には5つの群れがあるが、王に至ったのは3つだけだ。」



5分の3か。結構高確率で王に成れるのだな。本人を前にしては言えないが。



「他のモンスターも王に成ると喋れるのですか?」


「我らはモンスターではない。モンスターに王はいない。モンスターで王の様に振舞うのは別の種だ。」


「モンスターでは無いなら、動物と捉えていいのですか?」


「そうだな。広義には人間も我らも動物であろう。」


「あ~、確かに。人間も含めて動物の中には喋れる者がいるのか。」


「言葉を使うのはモンスターの中にも居よう。幻獣も言葉を使う。特別なことではない。」


「そうですか。」



喋るモンスターも居るのか。それと幻獣。幻獣ってドラゴンとかのことかな。モンスターでは無いのか。



「モンスターって何なんでしょうね。」


「人間は世界の全てを欲し、モンスターはそんな人間を絶やそうとする。モンスターは人間の仇敵であろう。」


「何だか深い言葉ですね。」


「それが理。ただそれだけの事。」



うーん。どうしよう。正直よく分かってない。この話はみんなにも伝えるべきだろうか。曖昧な部分が多いから一言一句再現しないと正しい意図が伝わらなさそうだし、そもそも信じて良いのかも分からない。それに今の話を知ったところで何が変わるわけでもない。よし、報告は省略しよう。

牛の王と話ながらも乳搾りしていたため、鍋に十分な量の牛乳が取れた。



「もう器が一杯なので帰ります。」


「まだ出して欲しいようだぞ。」


「それじゃあ器を空にしてからもう一回来ます。」


「うむ。待とう。」



牛の乳って一頭からどれだけ取れるのだろう。普通の牛よりでかいから一杯取れそうだよな。全部搾り出さなくても張りが和らげば許してくれるかな。



牛乳で満たされた鍋を慎重に持ち、拠点に転移し、七菜さんに状況を簡単に説明する。



「ざっくり言うと、牛の群れの王が喋った。牛乳が欲しいと言うと、子を失って乳が張ってる牛を紹介されて、その牛から搾ることになった。鍋が一杯になってもまだ搾って欲しいと言われたのでもう一回行きたい。そのための容器が欲しい。」


「えーと、大変なことになっていますね。取りあえず容器が欲しいことは分かりました。もう一つ鍋を出しましょう。ちなみにどんな牛でしたか?」


「白と黒のホルスタインで良いのかな。体は大きいけど。」


「乳牛として優れた種ですね。元の世界の牛でも一頭から鍋に数杯分は搾れると思います。体が大きいとなるともう1回では終わらないかもしれないですね。その一杯になった鍋は中身を空のペットボトルに移しておきますね。」


「牛乳ってペットボトルに入れて大丈夫何だっけ?」


「ああ、ペットボトルの牛乳が販売されていない理由ですね。確か、牛乳は菌が繁殖しやすくて開封後は早く消費して欲しいかららしいですよ。蓋付きのペットボトルだと都合が悪いとか。ですが、海外ではペットボトル入りの牛乳も売られています。」


「そうなのか。じゃあ気にしなくて大丈夫だね。加熱殺菌してないからどちらにせよ長くは持たないよね。」


「そうですね。そちらも考えてみます。」


「七菜さんには色々と頼んじゃってごめんね。」


「私の方こそ大和さんに頼りきりですから、出来ることはやらせてください。」


「ありがとう。行ってきます。」




それから、牛が満足するまで10往復した。最終的に牛乳入りペットボトルが35本並んだ。約70リットル。洞穴の奥の涼しい場所に置いておく。



「凄く疲れたよ。腕がパンパン。」


「お疲れさまでした。ゆっくり休んでください。」



七菜さんが労ってくれたが、七菜さんも俺が搾ったのと同じ量をペットボトルに移し替えてくれたのだ。七菜さんも疲れただろう。



「毎日来いとは言われませんでしたか?」


「たまに来いとは言われたけど、毎日とは言われなかったな。」


「それなら良いですが、元の世界の牛は毎日牛乳を搾るそうですよ。」


「そう言えば農場のゲームでもそうだったな。まあ、来いと言われなかったから大丈夫でしょう。」


「そうですね。」


「少し休憩しようかな。七菜さんも一緒にどう?」


「そうします。」



七菜さんと並んで座り休憩する。

はぁ、疲れた。色々やったけど、まだ今日は卵と牛乳しか食材を入手していない。ご飯と肉が食べたいな。今度行ったら米はあるのか乾物屋の親父に聞いてみよう。

肉は、休憩が終わったらまた狩りに行くか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ