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森の北へと進み、やがて森の終わりを迎え、その先の岩山を登った更に先の草原でそれに出会った。


牛だ。牛の群れだ。品種が入り混じっている。白黒模様、ホルスタインもいれば、黒毛や茶色も同じ群れの中にいる。そして大きい。軽トラック位の大きさがある。でも完全に牛だ。


地球と同じ部分もあれば違う部分もありややこしい。地球に関する半端な知識を持つ人が描いたらこんな世界になるのかもしれない。あっ、今、核心を突いた気がする。こっちの世界が先か、あっちの世界が先か、はたまたどちらも同じ別の世界を参考にして創られたのか、何れにせよ世界を創った人がいて、その人の半端な知識が反映されているんじゃないだろうか。


創世に思いを馳せても結論は出ない。それよりも牛だ。見つけろと言われていた牛がいたのだ。これは凄いことだ。とりあえず10頭ほど【マーキング】した。牛は50番台だ。



【マーキング】の番号が増えてきて覚えられなくなりつつある。

1~5番は【ノミネーション】スキルで登録した美咲さんたち。順番に、美咲さん、雪さん、七菜さん、ソフィアさん、小田さん。そして華さんが6番。

20番台はその他のクラスメイト。20番から戸田君、甘野さん、橋基君、湾藤、東、井家田さんの順だ。その次にゴブ吉もここに登録した。

30番台は今はモンスターに使用している。

40番台は鶏。

50番台は牛。

80番台に物。今も覚えていて有効なのは、拠点の岩、ホームの中に置いた石、拠点北側のキャベゲンサイ付近、湾藤たちと会った場所にあった木、華さんとあった川の近くの岩、街の壁、北の守護者のプレート1、北の守護者のプレート2、北のバリアの手前の木、北のバリアの向こう側の岩、だ。

100番には悪魔を【マーキング】しようとして失敗している。




管理が大変になって来たな。何で番号制にしてしまったのだろう。登録名称制にすれば簡単だったのに。


取りあえず牛が見つかったのは朗報だ。早速戻ってみんなに報告だ!





「ただいまー。」


「おかえりなさい!」



直接ホームの中へと転移すると美咲さんが迎え入れてくれた。美咲さんの「おかえりなさい」は最高だ。




「みんなは外で夕飯を作ってくれているよ。たぶんもう出来てると思う。」


「ありがとう。食べててもよかったのに。」


「ううん。大和君を待ってたんだ。」


「待たせちゃったのか。ごめんね。」


「橋基君も待っているだろうから取りあえず拠点に戻らないと。」


「了解。」




外で食事を用意してくれたみんなを【ホームへの扉】へと入れて、逆に俺と美咲さんだけ外に出た。

そして美咲さんをおんぶしようとしゃがみ込むと、背中から声を掛けられた。



「おんぶって何だか恥ずかしいね。」


「そう?それじゃあ違う形を試してみようか。」



立ち上がって美咲さんへと向き直る。



「動かないでね。」



美咲さんに声を掛けてから、右手を美咲さんの背中に回し、左手を美咲さんの足にあてる。そこから一気に美咲さんを持ち上げる。



「きゃあっ。」



美咲さんの可愛い悲鳴。驚かせてしまったか。いわゆる御姫様抱っこの体勢だ。密着度はおんぶの方が上だが、これだとお互いの顔を見ることができる。



「これはもっと恥ずかしいよ。」


「嫌かな?」


「嫌では無いかも。」


「良かった。俺の持ち物であれば一緒に転移できるから、多分この体勢でも行けると思うんだ。それじゃあ行くね。【トランスポート】、80番。」




拠点の洞穴の中の岩の前へと転移した。橋基君は居ないな。とりあえず美咲さんを降ろそう。



「無事転移できたね。」


「うん。」


「おんぶとどっちが良かった?」


「こっちの方が良いかも。」


「それじゃあ美咲さんと転移する時は今後はこっちで。」


「うん。あっ、みんな待ってるよね。ホームを開くね。」


「よろしく。」



美咲さんと話していると声が聞こえたのか、橋基君も帰ってきた。

牛のことを話すのは夕食を食べながらだな。



【ホームへの扉】を開けてもらい中に入ると、みんな揃っての夕食だ。美味しい食事は心を穏やかにしてくれるし、みんな集まると女子が多いので華やかな雰囲気になる。今日はみんなで一緒に活動していたので特別な報告があるのは俺だけだ。



「バリアの外を少し進むと森が途切れて岩場になったんだ。そこで戦ったのが石でできた巨人。仮称としてストーンゴーレムと呼ぶけど、【自滅】スキルで瞬殺だった。もしかするとHPかMPが尽きると活動不能になるのかもしれない。ストーンゴーレムは砕け散ったけど、その破片を拾ってきた。さすがに食べられないだろうからソフィアさんの【錬金術】の素材になるか試して欲しい。」


「ハーイ。」



ソフィアさんがいちおう返事をしてくれたが、あまり興味はなさそうだ。見た目はたんなる石だからな。仕方ないか。



「それから、更に奥に進むと岩の間に草が生えるようになってくる。そこで見つけたのが、なんと、巨大な牛の群れ!!一頭が軽トラック位ある牛が群れでいたんだ!!」


「おおぉー!」「大和、偉い。」「軽トラック位?モンスターでしょうか?」



美咲さん、雪さん、七菜さんが反応してくれたが、他の人の反応はいまいちだ。

あれ?牛を見つけろって言われたのはいつだっけ?たしか雪さんに言われたと思うけど、みんなが待望していたわけではないのか。

あの牛がモンスターか動物かは分からない。違いの定義を知らないというのが正しいか。現状では襲ってくればモンスター。牛には俺の存在が気付かれていたと思うが、襲ってこなかったので動物だろうという判定になる。



「とりあえず今日は【マーキング】だけして帰って来たけど、明日雪さんも一緒に行って【食物鑑定】をして貰えるかな?」


「無理。」


「え?無理なの?」


「森の外。出られない。」


「ああそうか!そうだった!えっ?じゃあ俺一人で狩って持って帰ってくるしかないの?軽トラック位の大きさなのに?」


「頑張れ。」


「マジかー。牛を見つけてラッキーだと思ったのに、全然ラッキーじゃなかった。」



しまった。牛を見つけて喜んでしまって大事な部分を見落としていた。巨大な牛の乳しぼりとか、狩って肉にしたりとかを俺一人でやるしかないってことか。見つけて喜んだけど、見つけなかった方が良かったかもしれない。もう報告しちゃったし一人で頑張るしかないか。何だか俺の仕事が増えていく。

俺は失意のうちに報告を終えた。



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