59
サイ型モンスターを処理してからそのまましばらく探索を続けていくと、崖に嵌められた2枚目のプレートを見つけた。書かれている文字は1枚目の物と同じだった。
「単に説明書きを複数用意してあるだけかもしれませんが、プレートの位置が何かのヒントになっている可能性もあります。場所は記録しておいた方が良いでしょう。」
とは七菜さんの談。
ごもっともなのでプレートを【マーキング】しておいた。これで【鳥瞰図】で位置の確認ができる。
「ぐるっと一周崖を回ってプレートの位置を調べておくか、無視して北に進むか。どっちがいいかな?」
みんなの意見を聞いてみた。
「守護者には挑まないんでしょう?予定通り北を目指すのでいいと思うな。脱出競争する気は無いし、私も大和君と一緒なら無理して森を出なくてもいいからね。」
美咲さん!最後の一言は嬉しいです!
喜びを噛みしめていたら雪さんに突っ込まれる。
「大和、ニヤニヤ、気持ち悪い。」
「え?気持ち悪かった?爽やかなにニヤニヤの練習をしないと。」
「ニヤニヤは止めないんだ。」
「美咲さんが俺と一緒ならいいって言ってくれたんだよ。ニヤニヤしちゃうのはしょうがないよね。」
「・・・。重症。」
恋患いが重症だって?それはしょうがないよね。俺が望んでハーレム野郎に成ろうとしているのではなくて、俺自身は美咲さんに一途であることをアピールしないといけないのだ。美咲さんには俺の本気度を伝えておかないと、他の子に遠慮して身を引くなんて言い出すからね。
森からの脱出を希望している甘野さんと井家田さんにも二つ目のプレートを見せるべきだろうということになり、ついでにここで昼休憩を挟むことになった。
美咲さんが【ホームへの扉】を開いた。中で死んでる、なんてことはなく、お昼ご飯を用意してくれていた、なんてこともなく、二人とも部屋でくつろいでいた。
プレートを二人に見せると案の定、他のプレートも探してくれと言い出し、探さないとは言わないが後回しだと女子の中で話がついていた。俺と戸田君は蚊帳の外。二人で薪拾いをして過ごした。女子同士の口論には参加しない方が無難。君子危うきに近寄らずだ。
お昼ご飯は山菜うどん。器はソフィアさんが【錬金術】で作った大きめのビーカーだ。入れられれば何でもいいかと思ったが、ガラスの肉厚が薄いので熱くて持ち難かった。置いて食べればいいのだが、食べ方が動物の様になってしまう。食器って大事だなと思った。街で食器を買ってこよう。
うどんの評価は上々、他の麺も買って試してみようということになった。
食べ終えて気付いたのだが、橋基君を拠点に置いて来たのに食材を何も渡していなかった。そこで俺が転移してうどんを持っていくことになった。
少し冷めて手で持てるようになったうどん入りビーカーを持って橋基君の居る位置に転移した。橋基君は一人で拠点周辺を探索していた。
「橋基君、昼ごはん持ってきたよ。」
「・・・。」
「ああ、喋るなって言われてるんだっけ。取りあえずこれ、今朝街で買ってきたうどんだよ。ちょっと冷めちゃってるのと、器がビーカーなのは我慢してね。」
橋基君は黙ってビーカーと箸を受け取ると、その場に座って食べ始めた。
「橋基君は拠点周辺の警備を命じられているんだっけ。拠点の外には出られるんだね。周辺って何処までなんだろう。」
「・・・。」
「いつも口を開くと悪態をついちゃうのは何でなの?」
「・・・。」
「喋るなってだけで、筆談ならできるんじゃない?棒で地面に書いたりとか。」
橋基君は黙って地面に何かを書き始めた。
『反省はしている だが甘野は許せない』
「許せないから悪態をついちゃうのかな?」
『少ないチャンス、言いたくなる』
「大人しくして信用されれば扱いが変わると思うけど、それは難しいのかな。」
『ムリ 甘は許さん』
「感情の問題だから理を解いても無駄かぁ。甘野さん以外に恨みはないの?」
『ない』
「そうか。それなら良いんだけど。俺はそろそろ戻るね。ビーカーは洗って再利用したいから持って帰ってくれる?」
『OK うどん 旨い 飯田 ありがとう』
「飯田さんにお礼を伝えておけばいいのかな。了解。夕方には拠点に戻る予定だから、それじゃあね。」
橋基君の気持ちを聞けたのは良かった。甘野さんに対する恨みが強いようだけど、他の人には恨みは無いと言ってくれたので取りあえずは一安心だ。橋基君を仲間にしておくのはいつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものだけれども、爆発の方向が決まっているなら制御もし易いだろう。




