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異世界6日目の朝。
今日は朝から飴を売りに街に来ている。昨日色々と教えてくれた乾麺屋の親父と交渉だ。
「おはよう。店主。」
「おう。昨日のか。お前、その服目立ち過ぎだぞ。」
「自覚はあるが普通の服を買う金が無い。金が入ったら普通の服を買おうと思っているんだ。それで、これを買い取ってくれないか?」
「うん?何だこれは。」
「飴だよ。」
「飴?あの甘いお菓子か?」
「そうだ。この辺では飴は珍しいのか?」
「俺は見たことがない。遠くの街で売られているというのは聞いたことがあるが。」
「そうか。なら一つ食べてみなよ。口に入れて噛まずに舐めるんだ。」
「おお。悪いな。どれ。」
店主が飴を一つ受取り口に入れた。
飴の形は円錐形。型はナイフの先を回転させて削り出したため、ナイフの刃先の回転体の形になったのだ。飴はどれを取ってもほとんど同じ形状。型を作ってくれた美咲さんに感謝だ。
「本当に甘いな!しかもなかなか無くならない!いいじゃないか!」
「売れそうか?」
「おうよ!幾らで売る気だ!?」
「分からないから店主が決めてくれよ。230個持ってきて1個は今あげたから残り229個ある。できれば即金で買い取って欲しい。」
「甘くて珍しいと言っても小さな菓子だからな。1個200円で売るとして、半分の100円で買取でどうだ?」
「22900円か。それで服は買えるか?」
「ぼろなら買えるが、まともなのは買えねぇな。」
「そうか。まあ仕方ないか。飴ならまだ用意できるんだが、明日も持ち込んでも良いか?」
「おうよ。だが売れ行きを見て買うか買わないから決めるぞ。」
「もちろんだ。貰える金で乾麺を幾つか買ってもいいか?」
「それこそもちろんだ。」
「お勧めを10食分頼む。」
「それならウドンだな。安くて腹持ちが良い。」
「それで頼む。うどんは材料が小麦でいいんだよな?小麦が栽培されているのか?」
「小麦は栽培品もダンジョンドロップ品も換物品もごちゃまぜだな。何だ。換物品が良いのか?」
「乾物品?それは何だ?教えてくれ。」
「知らないのか?換物品は【換物】スキルで作った小麦だ。小麦粉やそば粉は【換金】スキルで貨幣に変えられて、【換物】スキルで貨幣から戻せる。【換物】と【換金】のスキルは全部国が買い上げるから持っている奴は潜りだけだが、それが貨幣価値の基準だから商売するなら知っておいた方が良いぞ。」
「それで、換物品が良いというのは?」
「スキルは神が与えてくれた物だからってんで、換物品を神聖な物とする奴もいるそうだ。だが品質の安定度は換物品の方が上だが、栽培品の方が質が良い時もあるから気にする必要はないぞ。」
「店主は物知りだな。ついでにダンジョンドロップ品も教えてくれ。」
「ダンジョンドロップ品はそのまんま、ダンジョンでドロップした物だろうが。」
「つまり、モンスターを倒すと床に落ちてるってことだよな。床に落ちた粉をかき集めるのか?汚くないか?」
「殻に入っているから大丈夫だ。殻を割ると粉が詰まってるが、殻が割れていると探索者ギルドで買い取って貰えないから気を付けた方が良いぞ。」
探索者ギルド。また新しいワードが出てきたが、きりが無いからこの辺りで止めておこう。
質問攻めは止めてうどんの乾麺10食分と19,900円分のコインを受け取り店を出た。
乾物屋の店主から聞いた話には色々と気になる点がある。
この世界にダンジョンがあることはチュートリアル映像で知っていた。チュートリアル映像ではダンジョンで倒したモンスターはその場で消えていた。消えた後に残る物がダンジョンドロップなのだろう。
チュートリアル映像ではダンジョンでスキルオーブが手に入り、スキルオーブを使うことでスキルが取得できるという説明があった。スキルオーブもダンジョンドロップなのかもしれないな。
そして、【換金】と【換物】というスキルがある。【換金】=粉→貨幣、【換物】=貨幣→粉。目減りすると言っていたから、等価交換ではなくロスがあるのかもしれない。
探索者ギルドは推測するに、ダンジョンを探索する者たちのためのギルドなのだろう。少なくとも小麦が詰まっている殻の買い取りはしているようだ。ダンジョンに行くことになったらお世話になるだろう。
無知過ぎて聞くこと全てが新情報というような状況だ。街での活動は脳が疲れる。森に帰ろう。




