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異世界3日目。早く寝たので早く起きた。だが【ホームへの扉】は佐藤さんにしか開けられないので、佐藤さんが起きるまでは外に出ることが出来ない。部屋への扉は誰でも開けられるが、まだ拡張出来ているのはトイレ用の1畳の小部屋だけ。立ち上がったが、みんなの寝ている廊下から動くことが出来ない。仕方なく廊下の壁に背を預けて座り込む。外が明るくなったのかも分からない。今何時だろう。時計が欲しい。
大人しくみんなが起きるのを待っていると、俺の次に起きたのは飯田さんだった。
飯田さんは隣に寝ている真中さんを起こさないように静かに起き上がると、座っている俺の横に来て並んで座った。
飯田さんは小声で挨拶してくれた。
「おはようございます。寝られましたか?」
「おはよう。狭かったけど疲れていたから寝られたよ。」
「何とか人数分の寝具を作りたいですが、水なども必須ですしMPが不足しがちです。やはり仲間を増やし過ぎかもしれません。」
「元の人数ならもう少し快適だったかなとは思うけど、そのためにクラスメイトを見捨てることは出来なかった。快適ではなくなったけど、心は晴れやかってことでいいんじゃないかな?」
「もし大和さんが一人だったなら見捨てましたか?」
「そうだね。自分で言うのもなんだけど、俺は情が希薄だからね。でもね、俺はそんな俺のことを良いとは思っていない。佐藤さんは情に厚い人でしょう。そんな部分も俺は好きなんだ。とか言っているけど、こうやって人を好きになったことにまで理由付けしていることが心のままに生きていないってことなのに、俺って駄目だよね。」
「何事にも理性的だとも言えますよ。良いことだと思います。」
「でも俺はもう少し人情味のある人になりたいかな。とか言ってるこれも感情ではなく思考の結果だけど。」
「私は思考の結果、戸田さんを見捨てようとしました。そんな私を大和さんが好きになることはないでしょうね。」
「それは違う。飯田さんは見捨てたことを悔いて引きずっていた。いや、まだ引きずっているかな。俺はそこに感情の発露を感じる。それも美しいと思うよ。俺が昨日、戸田君にもう一度会いに行こうと決めたのは、飯田さんが辛そうにしていたからだよ。飯田さんの心が俺を動かしたんだ。」
「・・・。ありがとうございます。」
「結果として戸田君に会いに来たことで拠点にできる場所が手に入ったし、これが「情けは人のためならず」ってことなのかな。」
「そうかもしれませんね。あ、そろそろみなさん起きそうですね。」
言われて見ると佐藤さんがもぞもぞと動き出していた。
「さあ、今日も人として生きるために頑張ろうか。」
「はい。」
今日は昨日相談した通り、真中さんと二人で探索だ。
「それじゃあ真中さん。今日は拠点から真っ直ぐ北に向かってみようか。」
「北に何かあるのか?」
「いや、特に。分かりやすくしただけ。」
「分かった。」
真中さんは口数が少ないので一緒にいても楽でいい。必要最低限の会話をしながら探索を進めた。
拠点から体感で1時間程度移動した所で最初の休憩にした。ここまででモンスターとの遭遇は2回。
座って真中さんに話しかける。
「歩くペースは大丈夫だった?」
「うむ。」
「ここまでで1時間くらい歩いたかなって感覚だけど、モンスターと出会ったのが2回だよね。どう思う?」
「ん?何も。」
「今までモンスターと遭遇したのは移動中ばかりなんだ。俺たちもモンスターもランダムに動き回っているなら、休憩中にもそれほど変わらない頻度でモンスターと出会うはず。それなのに明らかに移動中の方が頻度が高い。モンスターが移動していないか、ゲームのように僕らの移動によってモンスターが現れるんじゃないかと思うんだ。」
「つまり、移動しなければ安全?」
「その可能性はありそうだなと思って。」
「でも移動は必要。」
「そうなんだ。食料や物資の収集でもそうだし、何れ森の外に出るなら移動しないわけにはいかない。でも、移動しなければモンスターとの遭遇率が低いということが分かっていれば、何かと便利だよね。」
「安心して休憩できる。」
「そうそう。油断はできないけど、少し気を抜いても良いかもしれない。」
「そういうことなら、気を抜く。」
真中さんはそう言うと手足を伸ばして大の字で寝転がった。小さな体が草に埋もれる。
「緊張してた。気遣いに感謝する。」
真中さんの緊張を感じ取ったのもあったが、実際にモンスターとの遭遇率に移動中と休憩中で差が出ている。まだ異世界にきて3日目なので確実とは言えないが、何らかの法則があるのでは無いかと思っている。
モンスターがこちらの休憩や就寝中でも活発に活動して襲ってくるなら、転移者の生存確率はかなり低くなるだろう。だが休憩中は襲ってこないのであれば生存確率はグッと上がる。俺の仮説が正しいなら、一緒に転移したクラスメイトはまだ結構な人数が生き残っているかもしれない。危険なのは水や食料を求めて積極的に動き出した時だ。タイミング的に今日あたりだろう。
「他のクラスメイトも積極的に探して保護した方が良いのかなぁ。」
独り言のように呟いた。俺自身、どうすれば良いかの結論は出ていない。俺の呟きを拾った真中さんが尋ねてくる。
「探す方法はあるか?」
「全くないわけではないけど、有効かは分からない方法ならある。例えば狼煙をあげておくとか、こうやって探索しながら木とかにメッセージを残しておくとか、マップを拡大して虱潰しに見ていくとか、探索しながら大声で呼び掛けるとか、色々あるよね。」
「しない理由は?」
「狼煙をあげたり大声を出すと、モンスターにも見つかり易くなって自分たちの危険が増す。モンスターでなくても、クラスメイトが俺が考えたように人数制限を考えていて、積極的に俺たちを害そうとする可能性もある。だからメッセージを残すとかも不安。マップ拡大は単純に大変。それから、俺の性根が腐っているのかな。単純に助けることに乗り気でない。」
「ん。無理して探す必要は無い。探索中に見つけたなら相手を見て考える。見つからずに何処かで死んでも大和は悪くない。」
「それでいいのかな。」
「いい。私が許可する。」
「そっか。ありがとう。」
真中さんは俺一人の決断では無いという意味で許可してくれたのだろう。責任感の分散共有か。責任感を分散共有してしまうと、目の前に援助が必要な人がいても誰かがやるだろうと見過ごしてしまうという悪い効果が生まれるのだが、今は正にそれの悪用だな。でも全く何もしないのではなくて、こうして探索もしているのだから良しとしよう。




