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「見えてきたね。でも扉の前に誰か居るな。隠れて様子を見よう。」
「はい。」
物陰に隠れながらそうっと近付いていくと、扉に背を預けて座り込んでいる男子高校生が見えた。
「誰か分かる?」
「遠くてよく見えませんね。でも近付き過ぎると気付かれそうです。服装からするとクラスメイトなのは間違いないでしょう。」
「ステータスを見ればいいのか。ちょっと待ってね。」
「【マーキング】、20番。」
「【ロックオン】、20番。」
「ふふっ。」
ん?笑われた?
「何かおかしかった?」
「いえ、20番ってずっとモンスター用に使われていた番号ですよね。クラスメイトをモンスター扱いが可笑しくて、つい。」
「そういえば、ナチュラルにモンスター扱いしてしまったな。佐藤さんの門の外で門を塞ぐようにしている時点で敵認定してしまったよ。」
「実は私も。」
「まだ敵と決まったわけじゃない。取りあえず誰か確認するね。」
「【ステータス】。」
『戸田鈴樹
HP 201/312
MP 23/255
SP 42/298
状態異常:-
スキル:銃創造』
戸田鈴樹。俺がクラスメイトから苗字の鈴木ではなく名前の大和で呼ばれている原因の一人。他に、クラスメイトに「鈴木」が二人いることも原因になっている。
戸田君はクラスではあまり目立つ方ではなかった。俺は戸田君とも大して会話したことが無い。とりあえず飯田さんに教えよう。
「戸田君だった。スキルは【銃創造】。創造系スキルに該当するんだろうな。HP、MP、SP共に減ってて、MPが特に少ない。銃を作るのに相当なMPを消費するんだと思う。HPも減っているあたり、戦闘もこなしたんだと思う。生き残ったということは銃で戦闘はできるんだろうね。でもあれは相当疲れているな。」
「【銃創造】ですか。仲間は6人までですよね?」
「多分そうだと思う。」
「ここに居るのが私で良かった。美咲さんには見捨てられないでしょう。戸田さんは不要だと思います。」
「おお。はっきり言うね。どうしてそう思うの?」
「チュートリアル映像に弓矢をHP障壁で弾くモンスターの映像がありました。恐らく銃でも同じでしょう。銃弾を一発当ててもモンスターは止まらず、近付かれて攻撃を受けたからHPが減っているのだと思います。その後、逃げながら戦うなどしてSPも減ったのでしょう。音も問題です。銃声でモンスターを惹きつけるかもしれません。一度は何とか倒せたにしても、【銃創造】はこの世界に向いたスキルとは言えません。思慮が足りないと思います。」
「辛辣だね。でも概ね同意するよ。それじゃあ俺が一人で出て声を掛けて門から離れるように誘導するから、隠れて待っててくれる?」
「すみませんがお願いします。」
飯田さんから離れて別の方向から扉に近付く。項垂れている戸田君はまだこちらに気付いていないようだ。十分に人物が判別できる距離まで来たので声を掛けてみよう。
「そこに居るのは戸田君かな?」
「うん、あー、大和か。お前もこっちに来てたのか。」
「こっちというのはこの世界のことかな?」
「そうだ。」
「他に誰かに会った?」
「いや、会っていない。お前が初めてだ。」
「そうか。ところでその扉は何なんだい?」
「いや、分からない。こんなところに扉があるなんて怪しいから調べたんだが、開けられないし動かそうとしてもびくともしない。」
「ふーん。何だか怪しいね。もしかしてそこからモンスターが出てくるとかじゃないよね。」
「おいおい、マジかよ。その可能性もあるのか。」
それまで扉にもたれ掛かるように座っていた戸田君は慌てて立ち上がった。
「おい、離れるぞ。」
「うん?俺も?」
「ああ、一緒に来い。」
うーん。戸田君ってこんなキャラだったっけ。口が悪いな。もっと大人しい印象だったはずだけど。
「どこに行くのかな?あてはあるの?」
「特には無いが、あそこでじっとしているよりはいいだろう。」
じっとしていたのは君だけどね。狙い通りに門から離れさせることができたし、言われるままに付いて行こう。
「俺はさっき、モンスターを倒した。」
何か歩きながら独り語りが始まっちゃったよ。
「俺の武器はこいつだ。」
戸田君はポケットから取り出した銃を見せてきた。俺は銃に詳しくないが、リボルバーという種類の銃だと思う。装弾数は6発かな。
「モンスターはこいつを一発当てたくらいじゃ死なない。気にせず突っ込んで来やがる。俺も何回も棒で殴られたが、殴られつつもこいつで応戦した。四発で倒せたよ。だが、複数来られたらこいつがあってもやばいだろう。お前も何か武器はあるのか?」
棍棒は飯田さんに護身用として預けてきた。キツネや蛇も。
「今は何も無いね。」
「スキルは取れるんだろう?ここには本当に恐ろしいモンスターがいるぞ。戦う準備をしておいた方が良いぞ。」
「考えておくよ。」
ふむ。思いがけず聞きたい情報が聞き出せてしまった。戦ったモンスターは棒で殴られたと言っていたし、真中さんを襲っていたあいつだろう。あれを倒すのに銃弾四発か。三発でHPを削り切り、四発目で倒したのかな。だとすると、HPが減らない俺の敵にはならないな。それに女子たちも、モンスター同様三発耐えられるならその間に俺が無力化できるだろう。戸田君の評価は脅威度「低」だ。門から適当な距離離れたら別れよう。
しばらく戸田君と二人で歩いて、門から十分離れた。そろそろだな。
「あんまり動き回るのもモンスターに見つかりそうだよね。俺は何処か隠れる場所を見つけて休むことにするよ。」
「そうだな。そうしよう。」
何処かに行ってくれて構わないのだけど、一緒に居るつもりのようだ。
「俺はあの草の中にするよ。戸田君も適当な場所を見つけてくれ。」
一人だけしか隠れられなそうな小さな草むらを指差して伝えた。
「じゃあ俺は近くの木に登るか。」
「木の上で休憩できるの?」
「ああ、サバイバーなら当然だろう。」
戸田君はサバイバーなのか。当然なのだろうか。突っ込みたいが、口を出さないでおこう。
草の中に隠れた。主に戸田君から見えないように。
戸田君は木登りに夢中だ。小声でなら気付かれないだろう。
「【トランスポート】、3番。」
転移した。
「大和さん。おかえりなさい。来ると分かっていてもびっくりしますね。その格好はどうしたのですか?」
「草むらに隠れて、戸田君から見えなくなったところで転移したんだ。この格好は草むらに隠れる格好。」
「なるほど。体を小さくして丸まっているのはそのためですね。」
「ご理解いただけて幸いです。それじゃあ佐藤さんたちのところに行きますか。荷物があるからおんぶは厳しいね。俺が転移して中に入って扉を開けてもらうから、扉の前で待っててよ。」
「分かりました。」
「【トランスポート】。1番。」
「あっ!大和君!おかえり!七菜ちゃんは?」
「見ての通り荷物が多くておんぶが難しかったから、飯田さんは扉の外で待ってる。開けてあげてくれる?」
「うん!」
佐藤さんが扉を開けた。
「七菜ちゃん!お帰り!」
「ただいま戻りました。」
女の子たちの感動の再会。感動ってほどでもないか。でも抱きしめ合って喜んでいる。
俺と戸田君の再会とは全然違うな。
飯田さんのさっき戸田君を切り捨てたクールさと、今熱く抱擁し喜び合う姿とのギャップが凄い。飯田さんからは嫌われないように気を付けよう。