表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

深夜の無駄遣い

作者: 冬本桜

はぁ、と何気なくため息をつく。白い息が漂い、消えた。かじかんだ手をこする。手袋でもしてくればよかったな、と今更後悔した。

そもそもなんでこんな時間に外に出ようと思ったんだと、数分前の自分に問う。返事はもちろんなかったし、答えもきっとない。

左腕についている腕時計を見る。午前1時…16分。

はぁ〜あ、とさっきより大きくため息をつき、静寂に包まれた深夜の街を特にあてもなくさまよう。視線はいつのまにか、足元へ向かっていた。


なんだか前が明るかった。顔を上げると、郵便局があった。…ここまで来ていたのか。家からは自転車で数十分かかる場所だった。

小学生くらいだったかの頃に、ここにはよく来ていた。近くに小さな公園があり、数人の友人の家から近いという理由で集合場所になることが多かった。

胸ポケットからタバコとライターを出し、口にくわえて火をつける。そばにあった自販機の陰で、静かに息を吐いた。


前から歩いてくるあの人とすごく目が合っている気がする…と思ったが、どうやら自販機に用があるらしい。なんてタイミングなんだ。少し苛立ちながら自販機の数歩左に移動した。

はやくどっかいってくんないかな…と思いながら横目で見ると、その人とばっちり目が合ってしまった。気まずくなりながらも逸らすのもな…と思い固まってしまう。

相手も戸惑った様子をしていたが、何かに気づいたような表情になって口を開く。

「あれ…もしかして、」

見知らぬその人になんて言われるのか、と思わず身構えた。

しかし、その後に続いたのは自分の名前だった。唐突に名前を呼ばれて拍子抜けしてしまいながら、自分も口を開く。

「え…?そうだけど…なんで知ってんの?名前」

「やっぱり?えっと、小学校が一緒だった 小林 凪 。覚えてる?」

「こばやしなぎ……あぁ!覚えてる!え、めちゃ久しぶりじゃん元気にしてた?」

「そこそこ。てかなんでこんな時間にここに…?」

「まぁなんか…出かけたくなって。特に意味はないんだけどさ。ない?そんな時」

「わかる、たまにある」

そんな他愛もない会話をする。

凪が来ている服装は、パンケーキのイラストが印刷されている黒いトレーナーにジャージのズボン、コートをきて部屋着ということをごまかしているような感じだ。まぁ…自分も人のことを言えないような服装だけど。

「てかここ懐かし、よく集合場所になってたなぁ…すぐそこの公園で一緒に遊んだな、二人乗りなんかしたりして…本当に懐かしい」

凪が目を細めながら言う。

「…うん、懐かしい」

つかの間、沈黙が続いた。


「じゃあ、そろそろ帰るわ…寒いし」

「たしかに」

そう言って手を振り、自宅へ戻る道へと足を踏み出す。

帰ったら…パンケーキを食べよう。きっともうすぐ2時になるくらいの時間なんだろうけど、太ることなんて気にせずに食べよう。

別にお腹が空いてるわけではないしパンケーキ毎日食べたいくらい好きなわけでもない…じゃあなぜ?今回は答えがすぐ見つかった。凪のトレーナーのせいだろう。

出来上がったパンケーキに蜂蜜を垂らす瞬間をイメージし、思わず歩く足が少し早まる。


にしても……まさかこんな時間に知り合いに会うとは思わなかった。まぁ知り合いって言っても一方的だけど。パンケーキのトレーナーを着た、一緒に遊んだこともある、小学校が同じだった小林凪。

頭の後ろをかきながら、出会った時からずっと思っていたことをぼそりと呟く。


「誰だよ………全然覚えてないや」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ