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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クラスごと異世界召喚したが、とりあえず死ね

作者: 蔵樹りん

 時刻は昼休み。クラスの人間の半数以上が部屋に残っていたはずだ。


 そんな時、教室の中がまばゆい光に包まれた。


 やがて気が付くと、俺とクラスメイトたちは西洋風な石造りの場所に立っていた。


 しかしそれも束の間。


 俺たちはたちまちその場にいた騎士と魔法使いのような姿をした連中に取り押さえられた。


 逃れようと暴れるのもむなしく、俺たちは捕虜のように列になって正座の格好で座らされ、さらに両腕は魔法の縄らしきもので後ろ手に縛られてしまう。


 一列に10人で、横二列の形で整列させられている。男女の数はほぼ半々で、男が右側、女が左側にまとめられていた。俺はその男子側の二列目の後ろに一人あぶれた形で座っている。


 人数は俺を含めて21人だ。たぶんあの時教室の中にいた全員だろう。


 そんな俺たちが並んでいる前に一人の女がやってきて、尊大な表情でこちらを見下ろした。その女の背後に立つ爺さんが『王女様の御前であるぞ、頭を下げよ』などと口にする。王女様という言葉にたがわず、格好はきらびやかで容姿もかなり美しい。


 まさかこれは、噂に聞く異世界転移ってやつなのか? 俺たちは選ばれたのか?


「王女様だか何だか知らねえけど、こんな事していいと思ってんのか!?」


 俺がそんなことを考えていると、一番前列の右端に座らされている奴がでかい声をあげた。


 王女様とやらはそいつのいる方に向かってつかつかと歩きだす。こんな状況ではあったが、俺は金色の髪を持つその人の姿につい目を奪われてしまった。そして王女様は先ほど声をあげたやつの前で足を止め、正面に向き直る。


「無礼なのが気に食わん、死ね」


 ゴロン、と。


 さっきの発言をした奴はいきなり首を斬り落とされた。王女様の手には、いつの間に腰から抜かれたのか宝刀のように美しい剣が握られている。


 ……はああああああああああああああああああああ!?


 何なのこの王女様!?


 全員から叫び声があがる。当然だ。なにしろさっきまで元気だったクラスメイトが今では首と胴を切り離され、真っ赤な血を溢れさせているのだから。


「耳障りな悲鳴が気に食わん、死ね」


 続いてその隣に座っていた奴の首も斬り落とされる。当然のように、その言葉を聞いて全員が黙った。もちろん今さっき首が落とされた奴は真っ先に沈黙している。


 い、いったいどうすれば? と俺が考えていると、王女様はまた隣へと歩を進める。その正面に座る奴は目の前の王女様の顔をキッと見上げた。


「反抗的な目つきが気に食わん、死ね」


 そして首がゴロン。


 あああああああああああ、こんなヤバイ人睨みつけちゃ駄目だって! ここは下手したてに出たほうが良いって!


 そしてまた移動する王女様。その手に持つ剣だけでなくもう本人も返り血で真っ赤だ。でも王女様自身はそれを気にする様子がまったくない。王女様が新たに立ち止まった地点にいた奴は、震えながらおずおずとその顔を見上げる。


「媚びた目つきが気に食わん、死ね」


 そしてまたあっさりと斬首される。


 いやいやいやいやいったいどうしろと!?


 また一歩となりに動く王女様。その前に座っている奴はもう諦めているのかうなだれている。いや、もしくは諦めたふりをしたほうが助けてもらえると考えているのかもしれない……。


「絶望にあらがう意志を見せないのが気に食わん、死ね」


 何言ってんのこの人!? 俺らが絶望してんのはあんたのせいでしょ!?


 でも俺のそんな内心の叫びとは関係なくやっぱり首ゴロン。


 また一歩となりに進む。男の列は一旦途切れ、ここからは女子が並んでいる。


 さ、さすがに女の子に向かって、あんな非道なことはしないよね……?


「可憐なのが気に食わん、死ね」


 ゴロン。


 ちょwww女の子にも容赦ないwwww男女平等主義者もびっくりwwwwwうえwwwwww。


 ……ってやばい、あまりの異常事態に俺もおかしくなってきた。っていうか可憐だから殺すってどういうこと!?


 何事もなかったかのように王女様はまた列の前を一歩横へと動き、目の前の女の顔を見下ろす。


「私より若いのが気に食わん、死ね」


 同じようにあっさりと首を斬り捨てる。


 いやいやいや私より若いのが気に食わんって、それ俺たち全員そうじゃん! もう死亡確定じゃん!! 全滅エンドじゃん!!


 続いて、クラスでも一番大人しい女の子の前にやってきた。


「清純そうなのが気に食わん、死ね」


 あああああああああああああああああ。彼女がいったい何をしたっていうんだ……。


 斬られて血を噴き出している死体にはもはや一瞥いちべつもくれずに、王女様はまた隣へと移動する。


 そこに座っている子は、クラスの全員からいろいろ遊んでいると認識されている子だ。ひょっとしてこの子なら助かるのか? 誰とでも構わずヤッちゃうような女が偉い世界なの?


「淫乱そうなのが気に食わん、死ね」


 ……ってどっちも駄目じゃん!


 淫乱そうな子は清純そうな子の体に重なるように倒れた。もちろんそのどちらも首から上は何も載っていない……。


 王女様はさらに隣に進む。一列目、女子側の端っこだ。


 王女様の目の前にいるのはうちのクラスで一番人気がある女の子。外見も可愛いけど内面も清らかで、もちろんこれまでつきあってきた男なんて一人もいないはずの、まさにクラスの女神。俺を含めた男子が皆あこがれる高嶺の花。


「雌犬が。死ね」


 ちょwww『淫乱そう』とかじゃなくて『雌犬』と断言wwwwお前ひょっとして清楚でもなんでもなかったのかよwwwwwよくも俺たちを、いや、よくも俺を騙してくれたな。ちくしょう。


 この時点ですでに10人のクラスメイトが殺された。


 続いて二列目の右端へと向かった王女様。また男子たちが並んでいる。


 目の前にいるのはイケメンのいわゆるチャラい系の奴だ。


「女を見下してそうなのが気に食わん、死ね」


 首ゴロン。ですよねー。


 なんかもう麻痺しちゃったのか怒りも湧いてこない。別に『イケメンには死を』とかそんな妬みがあるわけじゃないよ?


 首を切り落とした王女様はまたとなりに一歩動く。


 その前にいるのは最近年上の彼女が出来たと浮かれていた奴だ。けっして女を見下すようなチャラい奴ではないと、俺が保証する。


「女の尻にしかれてそうなのが気に食わん、死ね」


 でも王女様にとってはそんなことはどうでもよかったみたいであっさりと首ゴロン。もはや何がこの王女様の逆鱗に触れるのかが分からない。いや、というかもう全身これすべて逆鱗で出来てんじゃないの!?


 また次の生徒の前に移動する王女様。


「髪に寝ぐせがあるのが気に食わん、死ね」


 ちょっと髪の毛が乱れているだけで首ゴロン。ひょっとして偉大なる王女様は、身だしなみが大切だという訓戒を我々庶民に与えてくれているのであろうか……殺したら意味ないけど。


「髪に枝毛があるのが気に食わん、死ね」


 さっきよりも酷い理由で新たな首がゴロン。


 王女様の視力良すぎいいいいいい!


 次はクラスで一番お金持ちの奴。よく別荘の話をされたりするんで多少羨ましくはあったものの、もちろん死んでほしいなんて思っていない。


「裕福そうなのが気に食わん、死ね」


 ……いやいやいや絶対王女様のほうが裕福でしょ!?


 という俺の心の中の叫びもむなしく、結局は富裕層も貧困層も平等に死が訪れるのであった……。


 王女様は剣を振って血糊を飛ばすとまた歩を進める。ここからはふたたび女子の列。やがて足を止めて女子の方に向き直ると、王女様の顔がなぜか忌々しげにゆがんだ。


「私より胸が大きいのが気に食わん、死ね」


 内心でふき出し、つい王女様の胸を見てしまう。たしかに、言われてみると明らかにさっきの子に負けている。俺の視線に気付いているのかいないのか、首を斬り落とした王女様は何事もなかったかのように隣へと歩を進める。


「先ほどの発言を笑ったのが気に食わん、死ね」


 ちょ、それまずい俺もまずい。視界の先で血をまき散らしながら飛んだ首を見てすぐに真顔に戻す俺。王女様はまた隣へと動く。その前にはそっぽを向く女子がいた。


「私は笑ってませんよー、というふうな態度が気に食わん、死ね」


 女の子はあっさり斬首される。……そして俺は冷や汗ダッラダラ。


 まださっきのことを引きずってるし、どんだけ胸のサイズを気にしてるの王女様!?


 それでも多少はすっきりしたのか、先ほどよりは平静とした表情で歩を進める。


「アクセサリーをじゃらじゃらつけているのが気に食わん、死ね」


 なんかいきなり教師っぽいことを言いだしたよ。いやむしろ狂師だよ。怒っていようが平静としていようが殺すところは一緒だもの。


 そして、とうとう最後の女子の前へと移動した。


「今日の昼食に髪の毛が混ざっていたのが気に食わん、死ね」


 いやいやそれ俺たち関係ないでしょ!? というか今、後ろに立っているメイドさんが気まずそうに顔をそらしましたよ。きっとあいつが犯人ですよ。


 ……ああ。


 これで20個もの生首が転がったことになる。


 むかし三国志の漫画で見た饅頭まんとうの話を思い出す。


 ひょっとして俺たちは荒れ狂っている河を鎮めるために召喚されたの? ねえそうなの?


 最後に残るのはもちろん俺。


 列からあぶれて一人最後尾に座っている俺のところに、王女様は歩いてくる。すでに血に塗れている床に靴の跡を残しながら。


 俺もあの昼休み、教室から出ていればこんなことにはならなかったんだ……。


 ……いや、まてよ。これはあれじゃないのか!?


 俺は王女様を見上げる。


 そうだ。きっと物語の主人公のように俺だけが生き残ってチート能力に目覚め


「自分のことを主人公だと思っていそうなのが気に食わん、死ね」


 て








       ――おしまい――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 理屈と膏薬は何処へでも付くといいますが、女王様、ストレスがよっぽど溜まってたんでしょうか。 王女様の難癖、すぱすぱと小気味よく落とされていく首、男子生徒の心の声のツッコミが面白かったです。…
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