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最終話 バッドエンドと英雄とハッピーエンド




『フハハ、一足遅かったな『勇気ある者達』よ。再誕の儀は今完了した。この世は再び邪神様の統べる混沌へと回帰するのだ!』


 ダンジョン潰しを続けて四年。

 邪神の復活は紙一重で阻止出来なかった。

 俺達が急いでダンジョン外へ出ると、空は暗雲に覆われ、雷鳴が断続的に轟いていた。


「雲の向こうに何かいる!」

「でかいぞ!」

「私がやる!」


 ロネーゼが『破魔矢』を空へと放った。

 『万物創造』で生成した貫通力最大級の矢だったが、雲の手前に張られた魔法障壁に当たって砕け散った。


「嘘!?飛竜の外皮だって貫く矢なのに!」

「ダメだ!魔法も効かないぞ!」

「隊長、足場を!接近して全員で障壁を破壊しましょう!」

「…いや、皆はここで待機していてくれ。俺一人で行く」


 雲の向こうからは尋常ならざるプレッシャーを感じる。

 恐らく、対抗出来るのは神からチートを授かった俺だけだろう。


「ロネーゼ、地上の指揮は君に任せる。撃ち漏らしがあったら対処を頼む」

「…ンバーグ、絶対無事で帰って来て。帰ってきたら、話したいことがあるから」

「分かった」


 俺は『賢者の石』を生成し、右手に握り込んだ。

 これで即死魔法は効かない。

 俺は空に足場を作り、一歩一歩登って行った。

 途中で敵の魔法攻撃を浴びたが、全てミスリルの盾で防いだ。

 体力温存のため、魔法障壁は同質の障壁を生成することですり抜けた。


『…人間か』

「そういうお前は邪神だな」


 雲の上には『闇』が広がっていた。

 『彼方まで続く深い闇』。

 最早生物として認識することも出来ないスケール感だった。


『人の身でありながら、わずかに神の力を宿しているな。…面白い。我に仕えよ。さすれば、世界の半分をくれてやろう』

「地獄に帰りな」

『ならば死ね』


 俺と邪神との戦いは七日七晩続いた。



◇◇◇◇◇



「その婚約破棄、待った!」


 そう言ってパーティー会場に乗り込んできたのは一人の男だった。

 彼の名は、ルボナーラ・ゴールデンボンバー。

 ゴールデンボンバー公爵家の長男である。


「お兄様!」

「ルボナーラか。家族の身を案じて来たのだろうが、最早手遅れだ!」

「いいえ、殿下。私は罪人を捕らえに来たのです」

「何、己の妹をか!」

「いいえ。罪人は、殿下の背後に立っている女の方です」

「な、何だと!?」


 ルボナーラが連れてきた兵士達がラドンナを囲んだ。


「な、何よこれ!?た、助けて殿下!怖い!」

「殿下から離れろ!」

「この盗人め!」

「ま、待て!何かの間違いだ!彼女が一体何をしたというんだ!」


 兵士達がラドンナに剣を向けたため、私は慌てて彼女を庇った。


「その女には窃盗の容疑が掛けられております。我が妹・公爵家長女ポリタンの所有していた指輪をかすめ取り、闇市にて毒薬と交換した容疑です」

「う、嘘よ!」

「そうだ!それはリタが…」

「嘘ではありません。そこに伏している闇商人は、我々が先んじて目を付けていた危険人物。常に動向を監視していたところ、その女がポリタンの指輪を売り込みにやってきたのです。目撃者は多数おります」

「で、デタラメだわ!公爵家の陰謀よ!」

「なお、張り込みは王都の衛兵隊が担当しておりました」


 確かに、この場に現れた兵士は全て王都の兵服を着ている。


「その場で取り押さえても良かったのですが、真の目的が明らかになるまで泳がせておいたのです」

「そ、そんな…」

「ち、違うわ。こんな展開シナリオに無いもの!な、何よこのクソゲー!…嘘よ…こんなの悪い夢よぉ!」


 ラドンナは兵士達に拘束され、連れていかれた。

 私はその光景を茫然と眺めていた。

 リタと違い、彼女は何の後ろ盾も無い平民である。

 よって彼女に下される罰は、僻地幽閉などという生温いものではないだろう…。


「…随分周到ね」


 冷たい声でそう呟いたのはリタだった。

 危機的状況から救われたはずのリタは、何故か酷く覚めた表情をしていた。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだった。


「全てはンバーグの指示だ」

「え、ンバーグが来ているの!」


 にわかにリタの瞳には光が灯り、キョロキョロと辺りを見回した。

 あのようなリタを見るのは久しぶりのことだった。


「ここにはいない。未だダンジョン潰しの最中だ」

「そう…」


 リタは見て分かるほどに肩を落とした。


「…お兄様、もしも私が罪人に落ちていたら、好きな相手と結婚することが出来たかしら」

「馬鹿なことを…」

「り、リタ…」


 私が呼ぶと、リタは普段のリタに戻っていた。


「殿下」

「そ、その…」


 二の句が継げない。

 ラドンナのいなくなった今、私は酷い後悔に苛まれていた。


「…わ、私は、その…どうかしていたんだよ!?」

「そうですか」

「本当なんだ!ずっと頭に霞がかかっているような感覚で…」

「リタ。あの女は精神感応系の魔法を使っていた形跡がある」

「そ、そうか!やはり!でなければ私があのような下女と関係を持つわけがない!何故なら私は、君のことをずっと愛していたのだから!!」


 私はありったけの想いを込めて叫んだ。

 私にはもうこうするしか方法が無かった。

 だが、まだ間に合うはずだ。

 だって、私は悪くない!

 全部あの女が悪かったんだ!

 よく見たらそんなに可愛くもないし!

 ちょっと胸がデカかっただけの女だ!

 くっ!

 卑怯なり、精神魔法!


「…殿下のお気持ちは嬉しく思います」

「おお!リタよ!」

「しかし、私の心は先程の婚約破棄で痛く傷付きました。私は当面誰ともお付き合い出来そうにありません。先程の宣言は受け入れようと思いますので、どうぞ婚約は無かったことに」

「そ、そんな!」

「詳細は後日。公爵家当主から正式に文章にてご連絡が行くかと」

「待ってくれ!私は第一王子だぞ!?私の気持ちを無下にするつもりなのか!?」

「それでは」

「ああ!リタ!違うんだ!待ってくれ!リタああああ!!!」


 その後、私は国王陛下たる父に呼び出しを受け、キツイお叱りの後、数日間の軟禁を言い渡された。

 この一件から臣下達も離れていき、皆こぞって第二王子を次期国王に推すようになった。


(何故だ!俺は何も悪いことなんかしてないのに!)



◇◇◇◇◇



 邪神討伐から数日後、俺は王都で歓待を受けていた。

 何せ世界中が暗雲に包まれたので、邪神討伐がどれだけの重大事だったかは説明する必要も無かったのである。


「素晴らしい働きであった。諸君らの部隊にはダンジョン攻略及び邪神討伐の褒美として、金貨一万枚を贈ろう。また、隊長である其方には勲一功として、勲章と子爵位を与える!」


 俺は子爵になり小さな領地まで貰った。


(二階級特進なんて戦死したみたいで縁起でもないな…)


 それからしばらくの間は王宮に拘束された。

 働き詰めだったので基本的には寝て過ごしたが、来客があれば対応しなければならなかった。


「ンバーグ!」

「閣下、お嬢様、ご無沙汰しております」

「怪我はありませんか!?邪神なる怪物と戦ったと聞きました」

「はい、大過無く」


 お嬢様と会うのは四年振り。

 ダンジョン攻略の間は忙しくて、お嬢様に会う暇など無かったのだ。

 十九になったお嬢様からは幼さが消え、女神像も裸足で逃げ出すほどの美人に成長していた。


「よくやったぞ、ンバーグ。陛下も大層お喜びであった。何度も聞かれたと思うが、私達にも邪神との戦いについて話してくれないだろうか」


 邪神は『見渡す限り一面の闇』であった。

 とんでもない大きさであり、どこを攻撃すれば効くのかもよく分からない相手。

 ゲームの知識で聖魔法が効くことは分かっていたが、俺のスキルは『万物創造』である。

 光を生んで『疑似聖魔法』を使ったりもしたが、決定打には至らなかった。

 最終的には太陽を複製してその光でもって闇を消し飛ばした。


陞爵(しょうしゃく)して子爵になったそうだな。今後は領主として暮らすのかな?」

「可能であれば、以前のまま閣下にお仕えさせて頂きたく思っております」


 領主様など俺の柄ではない。

 誰かの下で護衛として働くくらいが精一杯の人間だ。


「ふむ。ならば一つ条件を付けていいかな」

「何なりと」

「うちのリタを嫁に迎えてほしいのだ」

「はっ!…は?」

「お父様!?」

「実はな、問題あって殿下との婚約が破棄されたのだ」


 俺は卒業パーティーでの話を聞いた。


「精神を操られていたのであれば、殿下は少々気の毒では?」

「精神魔法は抵抗力が強ければ容易にかかることはありません。現に私もかかっていませんでした」


 お嬢様は吐き捨てるように言った。

 精神感応への対策など上位貴族なら基礎中の基礎。

 つまり、第一王子は『何らかの過程』を経て抵抗力を弱められていた。

 もしくは『精神感応になど掛かっておらず、普通に誑かされていただけ』という可能性もある。

 が、どのみち婚約相手としては最低か。


「まさかあの殿下が…」

「はあ。ンバーグは本当に人を見る目がないのですね…」


 お嬢様曰く、殿下の人間性の薄っぺらさは昔からだったという。

 ゲームキャラだからという先入観もあったとは思うが、全く気が付かなかった。


「あれ以来、リタは誰とも婚約したくないと言って聞かないのだ。このまま二十歳になれば行き遅れの(そし)りを免れない。どうか貰ってやってはくれまいか?それとも、もう他に相手がいたりするかな?」

「相手は…いませんが」

「本当に!?」

「まあ…」

「世の女達は一体何をしていたの…?全員頭にお花でも咲いていたのかしら?」


 実は、プロポーズされたことはあった。

 だがきっぱりと断っていた。

 何故断ったかと言えば、万一の事態に備えるためだ。

 お嬢様が婚約破棄を避けられなかった場合、幽閉以上に酷い目に合う可能性も無くはなかった。

 そうなった場合は、例え罪人に身を落としてでも助けに行かねばならないと思っていた。

 だから誰かと付き合ったりなど出来なかったのである。

 そんな万一の事態にも備えていた俺だが、この展開だけはちょっと考えていなかった。


(ずっと殿下と結婚させるつもりだったからなあ…)

「出来れば今すぐ答えがほしい」


 公爵様はガンガンくる。

 もう公爵様に惚れそうな勢いだ。

 当のお嬢様は顔を赤くして俯いているばかりだ。


「というのも君は『救国の英雄』だろう。子爵位も与えられた今、他の貴族達も放ってはおけない存在になった。婚姻話は山のようにあるだろう。事は急を要するのだ。娘としても長らく慕っていた君であれば…」

「お、お父様!もうそこまでに…」

「ん?ああそうか。私がいては邪魔だな」

「お、お父様!?」


 では!と言って公爵様は颯爽と部屋から出て行った。


「…も、申し訳ありません。父が勝手なことを…」

「いえ…」

「そ、それで、お、お返事の方は…」


 真っ赤になりながらもお嬢様はそんな風に聞いてくる。

 まあ、控えめに言っても可愛い。


「お嬢様は私で良いのですか?私なんて所詮は成り上がり者ですし、他に良い人も大勢…」

「いません!わ、私はあなたが良いのです。だから…その…ど、どうか…!」

「承知致しました」

「えぇ!?ま、未だ言い終わってないのに!」

「申し訳ありません。ですが、その先は男の特権につき、失礼」


 俺は火龍のブレスより熱いお嬢様の手を取って、言った。


「お嬢様、どうか私と、末永くお付き合い頂けませんか?」

「…ダメです!」

「えぇ!?」

「『お嬢様』では、ダメです。『リタ』と。今後はそう、お呼びになって!」


 かくして俺はリタと結婚し、いつまでも二人で仲良く暮らしたのでした。



◇◇◇◇◇

めでたしめでたし




ンバーグ「私がお嬢様の側を離れている間、とある闇商人を監視しておいてほしいのですが…」


リタ「今のは窃盗(スティール)の…まあ、いいか。『怒る』なんて子供っぽいもの…」

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