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四話 ダンジョンと転生者と婚約破棄




 ゴールデンボンバー領では既にダンジョン攻略の準備が進められていた。

 ダンジョン近くの町には腕利きの冒険者が集められ、俺は攻略部隊の隊長として挨拶をした。


「ダンジョンは発生から四年以上経過していると推定されている。通常のダンジョンより危険が予想されるが、安心してほしい。ゴールデンボンバー公爵様がエリクサーを大量にご用意下さった」

「「「おおお!!」」」


 もちろん全部俺が生成したものである。

 俺が隊長になったからには、誰一人死なせるつもりはなかった。


「ダンジョンは山中の洞窟から地下にまで続く。予想階層数は五から十。予想攻略期間は一ヶ月から数ヶ月。その間はダンジョン内で生活することとなるが、糧食含め、生活に必要な物資は全てこちらで用意する。貴君らに期待するのはただ力のみである!」


 挨拶を終えると冒険者達は散って行った。


「生活物資全負担なんて太っ腹だな。流石は公爵様って感じか」

「馬鹿野郎、エリクサー配布の方が凄えよ。一本で金貨が飛んでいくんだぞ」

「どうせ食い物は大量の堅パンとかだぜ。期待すんな期待すんな」


 集めた冒険者はA級パーティーが二つとB級パーティーが三つ。

 腕の良いソロ冒険者も何人かいる。

 公爵家から派遣された騎士(俺含む)と合わせて、四十人の大型パーティーだ。


「ンバーグ!」


 そのうちの一人が俺の名を呼んだ。

 どこか懐かしい声に振り向けば、そこにいたのは昔のパーティーメンバーだった。


「ロネーゼ!君も招集を受けていたのか!あれ?でも『獄炎の焔』の名は名簿に無かったはず…」

「抜けたのよ。あなたが出て行った半年後くらいに」


 パーティーを追放された直後は二度と会いたくないと思ったものだが、四年も経つとそんな気は無くなっていた。


「騎士様になってるなんて思わなかったわ。大出世じゃない!」

「君はずっとソロで冒険者を?」

「あなたが抜けて力不足を痛感したから、修行したくて」


 積もる話もあったので、俺と彼女は近くの飯屋に向かった。

 本当は昔のように酒場で一杯!といきたかったが、立場があるので不可能だった。


「俺が自分から出て行った!?」

「私に無断で追い出したってこと!?あの馬鹿共…!」

「あ、でも力を隠していたのは申し訳なかったと思っている」

「いや、あれで本気じゃなかったことの方が驚きだから」


 ちなみに彼女は未だ独り身らしい。

 何かの話の拍子に、彼女の方からそう言ってきた。


「周りの男共は一体何をしていたんだ?全員目玉が腐り落ちていたのか?」

「それをあなたが言うの…?」

「え?俺はちゃんと『美人になったなあ』って思っているけど」

「そう?私も『格好良くなったなあ』ってドキドキしてるけど」

「…何か、お互い褒め合ってて気持ち悪いな。やめるかこの話」

「アハッ、何よそれ!」



◇◇◇◇◇



 あたしの名はラドンナ。

 前世の記憶を持つ『転生者』よ。

 前世ではデブの同級生を虐めていたらカッターで刺されて死んだわ。

 あの豚まじ許せねー。

 ただ日頃の行いが良かったのか、大好きな乙女ゲーの世界に転生することが出来た。

 ゲームなんかオタクっぽくて全然やってなかったけど、このゲームだけは何か流行ってたからやってた。


(しかもあたし、主人公に生まれ変わってるわ!これってシナリオ通りに進めればイケメン達からモテモテってこと!?キャー!)


 と思っていたのに、中々シナリオ通りには進まなかった。

 起こるはずのイベントが全然起きないのよ!

 まず、唯一平民で入学してきたあたしに悪役令嬢達が絡んでくるはずなのに、全然来ない。

 虐められながらも健気に頑張るあたしを王子様達が慰めたり、煽ったりしてくるはずなのに、何もない。

 何で!?


「平民というだけで差別は良くない、とリタ様が仰っていたので」


 探りを入れたらすぐに黒幕が判明した。

 ゲームのメイン悪役である公爵令嬢のポリタンだ。

 あの女が手を回した所為で、あたしの物語は始まらないってわけね。


(何でシナリオが変わったかは知らないけど、とにかくあの女が邪魔なことだけは分かったわ。ゲームキャラのくせにあたしの邪魔をするなんて許せない!そっちがその気なら、あたしは第一王子ルートでいくわ!)


 本当は逆ハーレムルートが良かったけど、あの女が一番酷い目に合うのは第一王子ルートだ。


(邪魔する雑草は完膚なきまでにすり潰す!そしてあたしは王妃になって、優雅な日々をイケメン王子様と楽しく過ごすのよ!)


 作戦ならある。

 転生前の記憶を思い出した時、同時に獲得したスキル『闇魔法』。

 これを使えば人の心は自在に操れるのだ。


(ゲームだと主人公は『聖魔法』の使い手だった気がするけど…まあ、この際こっちの方が便利だから良いか)


 まずは準備をしなくっちゃ。

 あたしは近くにいた同級生を洗脳して、ゲーム攻略を始めたのだった。

 本番は三年後の卒業パーティーよ!



◇◇◇◇◇



 ダンジョンの第一層は特に変わった部分もなかった。

 出てくる魔物は山ゴブリンのような雑魚ばかり。


「雑魚しか出てこねえじゃねえか」

「これが本当に四年級のダンジョンなのか?」


 二層ではミノタウロスが出てきた。

 B級の魔物である。


「急に強くなったな」

「なあに、B級なんか目じゃねえぜ」


 三層ではワイバーンが飛んでいた。

 A級の魔物である。


「…冗談だろ?」

「おいおい何匹いやがるんだ!?」

「前衛と中衛は盾になって後衛を守れ!」


 四層には地竜がいた。


「B、Aときて次はS級かな?と思ったが違ったな。ギリギリA級だ」

「竜種なんてどいつもS級みたいなもんだろが!」

「読めた!これは次が最下層で、S級の飛竜が出てくるやつだ!」


 五層では飛竜が出た。

 S級である。


「ワハハ!こんなもん勝てるわけねえだろ!」

「気をしっかり持て!こいつを倒せば終わりのはずだ!」

「このパーティーならやれるぜ!俺達はドラゴン狩りの伝説を残すんだ!」


 六層には大沼があった。


「終わりじゃねーじゃねーか!」

「おい、おかしいぞ、この沼。風も吹いてないのに波打ってる…」

「沼じゃない…これ、全部スライムだ!」


 七層には鎧を纏った巨人がいた。


「とうとう名前も知らない新種が出てきたぞ…」

「ピクリとも動かないけど、生きてるのか?」

「気を抜くな。五層の飛竜より六層のスライムの方が厄介だったんだ。気を抜いたら死ぬぞ」


 八層には形容し難い化け物がいた。


「うっ…」

「皆!目を合わせるな!!奴は見るだけで死ぬぞおお!!」

「何だよそれ!?どうやって戦えっていうんだ!?」


 九層には巨大な門が開いていた。


「あれだ!どう見てもあの門から魔力が漏れ出してる!」

「何で今更『ゴブリンシャーマン』なんかがいるんだ?」

「うおおおお!?門から八層の化け物が!」


 八層の化け物は目視すると死ぬので、敵前方に鏡を設置して自滅させた。

 九層は広場くらいの狭い階層だった。


「十層への階段無し!最下層です!」

「よし!魔力の発生源と思しき門も破壊した。これにてダンジョン完全攻略だ!!」

「「「うおおおおおおおお!!!」」」


 ダンジョン攻略に要した時間は二十日。

 引き返す時間を加えても一ヶ月は超えないだろう。

 お嬢様のことが気掛かりだったので、結構な強行軍をした分かなり早く攻略出来た。

 途中何人か死んだりしたが、『世界樹の葉』を生成して復活させたので全員無事である。


「間違いなく過去最凶のダンジョンだったな」

「俺は五層のブレスで全滅したと思ったね」

「なあ、気付いたんだが、俺ら六層から何にもやってなくね…?」

「七層では活躍しただろ、多少。トドメ刺したの隊長だけど」

「八層は…うっ!頭が…!」

「隊長!ゴブリンシャーマンが目を覚ましました!」


 一心不乱に呪文を唱えていたゴブリンシャーマンは、背後から殴打し気絶させ縛り上げておいた。

 こんなダンジョンの深層にC級程度の魔物がいるのはおかしい。

 何か情報を持っているかもしれないと考え、生かしておいたのである。


『よもや、人間如きに我がダンジョンを攻略されるとはな…』

「…おい、ゴブリンって人の言葉を話すっけ?」

「んなわけねえだろ」

『だが、我を止めた程度で調子に乗らないことだ。ダンジョンは無数に存在する。邪神様の復活の日は近い…』


 そこまで言ってゴブリンシャーマンは死んだ。

 口から大量の血が溢れ出た。


「こいつ自害しやがった!」

「自害する魔物なんて聞いたことないぞ」

「『邪神』って何だ?」

「八層の化け物じゃねえか?」

「でも復活って言ってたぞ」

「まさか、アレ以上の魔物がいるっていうのか…?」


 『邪神』というワードには心当たりがあった。

 この世界の元になっている乙女ゲーの裏ボスが『邪神』だ。


(ゲームなら、確か…主人公の聖魔法で封印されるはず。…ダメだ、詳細は何も思い出せない)


 元々姉に無理矢理やらされたゲームである。

 裏ボス討伐までやり込みはしなかったので、その辺の知識は曖昧だった。


(どうしよう。今更主人公に頼るのか?今のお嬢様なら主人公と手を取り合ってシナリオを進められるか?)


 しかし、既にシナリオは変わってしまっていて、不確定なことが多過ぎた。


(この上は俺の手で全てのダンジョンを破壊し、邪神復活を妨げるべきだろうか?)


 自分一人で判断は出来なかったので、公爵領に持ち帰って話をすると、公爵家から王家へ話が伝わっていった。

 そして、俺達はダンジョン破壊専門のパーティーとして国から正式に依頼を受けた。

 日々進化するダンジョンの攻略は時間との勝負である。


(しばらくは帰れそうにないか…お嬢様は大丈夫かな…)


 それから四年もの間、俺は各地のダンジョン攻略に掛かり切りとなるのであった。



◇◇◇◇◇



「リタ!私は君との婚約を破棄する!」


 高等部三年目の秋。

 第一王子が悪役令嬢に婚約破棄を宣言した。

 卒業パーティー中の出来事に、モブキャラ共は唖然としていた。

 

(…フフフ、完璧だわ。完璧にゲームシナリオを再現してやったわ!)


 この状況を作るのは意外に簡単だった。

 洗脳魔法は耐性の高い人間には効かず、ポリタン自体を操ることは出来なかった。

 けど、悪役令嬢だけあって周囲の人達に冷たい態度を取っていたから、悪い噂を流したりするのは簡単に成功した。


「君がラドンナに数々の虐めを働いたことは判っている」

「虐め?」

「とぼけるな。平民出身だからと寄って(たか)って嫌味を言い、陰口を叩き、階段から突き落とそうとまでしただろう!」

「覚えがありませんが…それだけのことで婚約破棄を?」

「『それだけ』だって!?君が本当にそんな酷い人間だったとは思いたくなかったよ!」


 王子が指を鳴らすと、兵士が陰気な小男を連れてきた。


「見たまえ!この男は闇商人だ。毒薬の違法取引に関与している。君はこの男から密かに毒薬を購入し、ラドンナのグラスに投与しただろう!」

「覚えがありません。何か証拠でもあるのですか?」

「闇商人から押収した物品の中に、ゴールデンボンバー家の家紋入りの指輪があった!君がいつも身に付けていたものだ!」

「それは数日前に紛失したのです」

「言い訳は無駄だ!これは殺人未遂だぞ!処刑されることはなかろうが、僻地幽閉くらいは覚悟しておくことだ!君との婚約は破棄させてもらう!そしてその代わりに、私はこのラドンナを妻に迎える!」

「まあ!殿下、アタクシとっても嬉しいですぅ!」


 よおおおおおおおおおおし!!

 第一王子攻略完了!!!

 ゲームクリアよ!!!!!



◇◇◇◇◇

ンバーグ「今日の探索はここまでとする!」

冒険者A「やったあああああああ!!」

冒険者B「飯の時間だああああああ!!」

冒険者C「ラーメン!ラーメン!ラーメン!」

冒険者D「ラーメンは昨日も食っただろ!今日は麻婆茄子だ!」

冒険者E「二連続中華じゃねーか!辛い物ならカレーを食おう!」

冒険者F「はいはい、皆ケンカしないの。仕方ないわね。ここは間を取ってジャンボパフェにしない!?」

冒険者G「引っ込め甘党!今日は鍋の日じゃい!」

冒険者H「くたばれ爺さん!今日は唐揚げが良いと思います!」

冒険者IJKL「「「「それだけはない」」」」

冒険者H「何でだよおおおおおおおおお!!!!!唐揚げ美味しいだろおおおおおおおおおおお!!!!!」


※おでんの日だった模様。

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