二話 ざまぁとリバーシとチート無双
ンバーグの追放後、『獄炎の焔』はかつてないほどの危機に陥っていた。
「おい!バフは未だか!?」
「もう付与済みだよ!このヘッポコ!」
その日、俺達は『一つ目巨人』の討伐依頼を受けていた。
『一つ目巨人』は山に住むB級の魔物。
手強い魔物だが、俺達は過去に一度討伐した経験があった。
また、今回は新加入の魔法使いもいて、彼女は攻撃魔法も補助魔法も使えるという話だったから、楽勝で倒せる相手のはずだった。
「上から棍棒!早く盾を!うわああああ!」
「ふざけんな!さっき魔法かけたばっかだぞ!少しは自分で避けやがれ!」
俺はギリギリで棍棒を避けたが、回避が間に合わなかった前衛二人は直撃を受けてぶっ飛ばされた。
「い、いてえよお…」
「か、回復してくれえ…」
ロネーゼが血塗れになった二人に駆け寄り、すぐさま上級ポーションを使った。
しかし、瞬時に回復とはいかなかった。
「くそっ!不良品かよ!前はどんな怪我も一瞬で治ったのに!」
「はあ?イカれてんのか?そんなもん伝説の回復薬でも無きゃ無理だから!」
「何だって!?」
俺は驚愕の声を上げた。
だって、今までは確かに上級ポーションで瞬時に全快していたのだ。
あれは一体何だったというんだ?
そういえば、ポーションの用意は誰の仕事だったか…。
「Gugyaaaaaaaa!!!!」
あわや全滅かというところで、ロネーゼの放った矢が巨人の目玉を刺した。
「怯んだ!今のうちに撤退するわ!」
「おいツドン!そっちで転がってる木偶の坊拾ってこい!畜生、こんなパーティー入るんじゃなかったぜ!!」
『獄炎の焔』はボロボロになって敗走した。
これで三回連続のクエスト失敗だった。
魔法使いは悪態を吐いてパーティーを抜けていった。
「おかしい…どうしてこんなことに…」
俺は項垂れてそう言った。
「ねえ、やっぱりンバーグを呼び戻しましょうよ。どう考えても彼がいなくなってから…」
「うるせえ!抜けていった奴の話なんかすんじゃねえよ!!」
俺は思わずロネーゼに怒鳴っていた。
ハッと我に返った時には、ロネーゼは酷く冷たい目で俺を見ていた。
◇◇◇◇◇
公爵家の雇われ兵士になった俺は、初め公爵様の護衛をしていた。
が、しばらくしてお嬢様の専属護衛に変更となった。
「リタは来年から王都の学園に通うのだ。君には専属の騎士としてリタに付いて行ってほしい」
「騎士と言われましても、私は平民の出なのですが…」
「うむ。そこで君には準男爵の地位を用意する。書籍上の手続きで済むが、以後はそのつもりで振舞ってくれ」
雇い主からそう言われれば断れない。
俺は短期間に貴族の作法を叩きこまれ、翌年の春、お嬢様と一緒に王都へと向かった。
「ンバーグ、移動の間は暇ですから、私とリバーシを打ちましょう!」
「お嬢様、私は護衛の仕事中です。カコーラ達と打っていて下さい」
カコーラは馬車に同乗している侍女の名だ。
「嫌よ。もうカコーラ達では相手にならないんだもの」
「面目ありません…」
「お願い!一回だけでいいから。私新しい戦法を思い付いたから、試してみたいの!」
当主を失わなかったゴールデンボンバー公爵家は以前と変わらぬ権勢を誇っており、お嬢様も真っ当に成長していた。
少々やんちゃの気はあるが、平民上がりの俺や使用人達にも分け隔てなく接してくれる、優しい公爵令嬢だ。
「…一局だけですよ」
俺はリバーシセットを出して、馬車の中で一戦打った。
ちなみに馬車も俺が出した特別製で、揺れは極限まで少なくなっている。
パーティーを追放されたあの日から、俺は能力の秘匿を辞めていた。
まあ、公爵様に全部見られていたので、隠しようが無かっただけなのだが。
「こうして端の列を全部取ると、四角付近に安全地帯が少し増えるのよ!終盤にこの差は大きいわ!名付けて『端囲い作戦』!!」
「うーん、これは角一つ献上するしかありませんね」
俺から角を取ったお嬢様は大層ご満悦な表情だった。
が、お嬢様の『端囲い』には穴があった。
いわゆる『ウイング』という状態だったのだ。
「あら?」
俺は献上した角と『端囲い作戦』で並んだ黒列の間に白を置いた。
□●●●●●○●
『端囲い』の結果お嬢様の黒は反対の角まで間断無く続いおり、俺は次の手で角を取り返すことが出来た。
○○○○○○○●
「あっ、ま、待って!」
「待った無しです」
奪った角の先にはやはり『端囲い』の黒い道が伸びている。
次の手で俺はもう一つ角を取った。
その角の先にもやはり黒い道が(以下略)。
「対戦ありがとうございました」
「わぁ凄い…終わってみれば角も一対三」
観戦していたカコーラが感嘆する。
「…もう一回」
「ダメです」
「お願い!次は絶対その手には引っかからないから!」
「ダメです」
「いじわる!」
「申し訳ありません。が、どうやら客が来ました」
「伝令!前方に『地竜』を確認!『傷あり』です!」
『地竜』とは飛ばないタイプのドラゴンのことを言う。
飛ばない分『飛竜』よりはマシだが、それでもドラゴンである。
脅威度はA級最上位という化け物だ。
「『傷あり』なら最近この辺りで暴れていた個体に間違いないな」
会敵したA級パーティーが傷を付けることしか出来ず敗北した魔物だ。
公爵家の騎士達は皆優秀だが、流石に少々手に余るだろう。
「貫氷!炎導!落下星!」
極太の氷柱が腹を貫き、炎が全身を焼き、脳天を大岩がカチ割って、地竜は絶命した。
護衛部隊からは歓声が上がった。
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
「もう終わったの?」
「終わりました。ただ、アレの撤去で少々足留めされそうです」
「ではその間にリバーシを!」
「ダメです」
「ふぬー!」
ちなみに、リバーシは現在貴族界隈で大人気の娯楽である。
発案した公爵家は濡れ手に粟というのがもっぱらの噂だった。
◇◇◇◇◇
「潮時だと思うの」
酒場でロネーゼが俺達にそう言ってきた。
「し、潮時?」
「もうこのパーティーじゃやっていけないって話よ」
「そんな!」
「パーティーから抜けるってことか!?」
「冗談言うな!だって、まだ数回依頼失敗しただけじゃねえかよ!」
俺達の言葉にロネーゼは頭を抱えた。
「内容が悪過ぎるわ。私達はB級パーティーだったのにC級の依頼さえこなかったじゃない」
「あ、あの時はメンバーが一人少なかったから…」
「そうだよ、慣れない編成で調子出なかっただけで…」
「いい加減にして!!」
ロネーゼがテーブルを叩いて立ち上がった。
いつも冷静なロネーゼらしからぬ行動に、俺達は面食らった。
「上手くいかないのは実力が足りないからよ。毎回誰かが重傷を負って、その度に上級ポーションを大量消費。依頼失敗の違約金も払って、溜めてたパーティー資金はいつの間にか空っぽ!新しいメンバーを募っても一回の依頼で逃げられる始末。もう…『獄炎の焔』は終わったのよ…」
奴をパーティーから追放して半年。
その間に『獄炎の焔』はC級に格下げされていた。
ロネーゼの目からは涙が溢れた。
「お、おい!」
「何で泣くんだ!?」
「と、とにかく座れ!目立つのはまずいから…」
ロネーゼは座らず、涙も止まらなかった。
「私達は火力はあっても、防御力に乏しいパーティーだった。そこをンバーグが補うことでB級たりえていたのよ。でもンバーグがいなくなって全てが終わった。きっと無能な私達に愛想を尽かして出て行ったんだわ」
返す言葉が無かった。
奴を追い出してから様々な冒険者をパーティーに加えたが、奴より優秀な盾役はいなかった。
「わ、分かった。そこまで言うなら奴を連れ戻そう。だから…」
「もう遅いわ。この町の平民街は隅々まで探したけど、彼はどこにもいなかった。もうこの町にはいないのよ。だから『獄炎の焔』はもう…」
「ま、待ってくれ。落ち着いて話をしよう!」
とにかくロネーゼが抜けてしまう事態だけは避けなくては。
でなければ、俺は一体何のためにンバーグを…。
「そうだ!俺は、ずっと君のことが!」
「さようなら。…私も、このパーティーのことは好きだったわ」
その日、ロネーゼは『獄炎の焔』から抜けて、別の町へと旅立った。
それから『獄炎の焔』が解散するまでに長い時間はかからなかった。
◇◇◇◇◇
技名も雑過ぎるだって…!?
それはそう