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実は私は存在しない  作者: tema
第零章-現代
9/67

夜這

「10」

センパイが裏を向けたカードを、場に出す。

「そういえば、さっきヤエに呼び出されてたけど何だって?」

デンが動揺し、カードが表を向いて落ちた。


ジャック()

震えを抑えた声で言うが、動揺は隠せてない。

「なんでもありませんよ」

「ダウト」


「いや、これジャックでしょ」

デンはカードを指さすが、そこじゃない。

「なんでもないワケ無いじゃん」

そこだ。


「ヤエも青春の思い出が欲しいのよ」

ヤエさんは、セッターなので身長はそれほど高くないが、顔が小さくスタイル抜群。

そして、胸は凶器。


「入学以来、関東大会出場を目指して1年半、バレーに捧げた高校生活」

そんな彼女にだって、少しくらいロマンティックな思い出があっても良いじゃない。

そうセンパイは言う。


「たとえ昼間は練習で汗と泥にまみれてても、それを洗い流せば女に戻るのよ」

うんうんと頷くジョディ。何か感ずるトコロがあるらしい。

とりあえずデン、カード全部持ってけ。

「なぜだ!」


クイーン()、そしてあがり」

あジョディ、いつの間に。

じゃあ、キング()

「「ダウト」」

なぜだ!


「クロは直ぐ顔に出るからね」

余裕の表情でジョディが言う。

デンが持ってくはずだったカードが、全て僕の方に来た。

ヒドい。


合宿2日目の夜、僕らはトランプに(うつつ)を抜かしてた。

「こんな雨ばっかりじゃねー」

晴天時しか、天文班の活動はできない。

雨が降ろうと風が吹こうと屋外でボールを追う女排とは、えらい違いである。


あ、ジョディ。僕の布団取るな。

「良いじゃない。ジョディの温もりに包まれて眠れるのよ。良い夢見れるわよ」

そんな事言っても、昨夜こいつ起こすの大変だったんですから。

「良いのよ?1つのお布団で一緒に寝ても。お姉さん黙っといてあげるから」


いや、絶対黙っちゃいねー男が約1名。

とデンを見る。

「もちろんデンは、私たちの部屋で寝るのよ」

トンでもないコト言い出しましたよ、この人。


「私のお布団はヤエに譲って、独り身(チョンガー)の私は寂しく女排の部屋で寝るわ」

その部屋は、さぞや姦しいことであろう。


「いや俺はほら、親に決められた許嫁が」

あー有ったねーそんな話。

下足箱に忍ばされた白い封筒。送り主の西園寺美紀さん。

デンによれば、彼女こそ家が決めた許嫁らしい。


デンが政治家になる際に有用となる、家と家の結びつき。

彼の意志と関わりなく結ばれた縁。

たとえ好きな女性が居ても結婚は許されず、家の意向が優先される。

彼には多分、僕らほど人生に自由が無い。

だが――


ちょっとでも同情した僕がバカだった。

あんな美人さんとの縁なら、僕だって意志と関わりなく結ばれたいっ!


「あと5分で11時ね」

きろッ

センパイはデンに視線を走らせる。

そわそわそわ

デンは挙動不審である。


「クロ、今夜は寝かさないわよ」

へ?僕?

「おら、さっさと行きな」

げしげし。

デンを足蹴にし、上着を投げるセンパイ。

そして、上着を着こんで部屋を出るデン。


どゆこと?

ねぇ、どゆこと?

センパイは暫くデンの足音に耳をそばだてると、スマホを取り上げる。


チェックメイト(CM)キングツー(KⅡ)、CMKⅡ、こちら白の城主(ホワイトルーク)

『白の城主、こちらCMKⅡ』

黒の兵士(ブラックポーン)をサクリファイス、白の女王(ホワイトクイーン)はキングサイドへ。黒の王(ブラックキング)はキングサイドを出た。以上(オーヴァ)

『白の城主、了解(ラジャー)白の王(ホワイトキング)をキャスリング、以上』

あ、デン終わった。

これは終わった。


電話の相手(CMKⅡ)は、名前は知らんが女排の3年生。

センパイが"白の城主"なら、入れ替わ(キャスリング)って隣の部屋(クイーンサイド)で待つ"白の王"はヤエさんだろう。

同室の"白の女王(ジョディ)"は、既に僕らの部屋(キングサイド)へ移動済み。

そして"黒の王(デン)"は、隣の部屋へ誘導されチェックメイト。


「じゃ、私は女排の部屋へ移動(キャスリング)するから」

えーと、どこまで引っ張ればヨイのでしょう?

「ABCで言えば――」

言えば?

「Cまで」

最後だから!それ、最後までだから!

「何か不満でも?」

指先がジョディを示す。


暫く唇をとんがらかした後、言った。

デンが"(キング)"なのに、僕が"兵士(ポーン)"なのが不満です。そして捨て駒(サクリファイス)に使われたのが、もっと不満です。


センパイは、悪戯っ子のような眼で僕を見た。

「良いこと教えてあげる。"女王(クイーン)"はね――

"王"が落とすことなんて滅多にない――

「"女王"を落とすのは――

時として、捨て駒から成り上が(プロモーション)った"歩兵"よ。


様々な指令を僕にした後――

じゃ、ガンバ♪とセンパイは部屋の外に消えた。


========

10分くらい経った後、騒ぎが起きた。

だーっ!

隣の部屋でそんな声がして、こちらの部屋の扉を開けようとした不審者が居る。


残念ながら、施錠済みだ。

この鍵は日の光が射すまで開けてはならぬ。そうセンパイからのお達しだ。

そして、センパイからデンに助言が1つ。

"右ポケットが助けになるだろう"


何が入ってた?

上着の右ポッケを漁ったデンが応える。

「箱だ。表には"うすうす"って書いてある」

何の助けにもならんな。


僕らは互いに扉に背を預けていた。

「そっちの部屋には――」

デンが何を聞こうとしたかは判る。

――居るよ

――ぐーぐー寝てる

聞かれたなら、僕はそう応えただろう。


聞かれなくて良かった。

デンに嘘をつかなくて済んだ。


灯りを消した暗い部屋の中、ジョディが寝ているとは思えなかった。

息を潜め、緊張している。


もしも。

もしもその時、僕がもっと大人だったなら、

未来は変わっていただろうか?

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