合宿
「合宿するわよ!」
4月末の放課後、唐突にセンパイが言い出した。
「いきなりどうしたんですか?」
「山荘の予約が取れたの」
山荘?
「ああ、学校が霧ヶ峰に持ってるやつですね」
この学校、長野県に山荘を持ってるらしい。
温泉&賄いつきで結構安く、一介の高校生でも気軽に使えるお値段だ。
その分、競争率は高い。
「日取りは4/29から4日間よ!」
明後日である。ゴールデンウィーク初日である。
急である。が、仕方ない。
このお誘いを逃せば、毎日姉貴と顔付き合わせる不毛な1週間が待ってる。
それにしてもセンパイ。すげークジ運が強いと見た。
「実は男排――男子バレー部の部員が一気に辞めちゃってね」
何があった男排。
「1年生が入部したは良いけど、練習がスパルタ過ぎて付いていけなかったみたい」
結果、部員数が6名に届かず春高バレー参戦は不可能。
廃部も狙える状態である。
「というワケなんで、急でゴメンだけど準備してね」
合点承知の助。
ところで、物理部の合宿って何やるんですか?
「天文班は天体観測するよ」
確かに山の上だし周りに灯りとか無さそうだし、天体観測にはヨイかも。
でも、無線班とマイコン班は?
「大丈夫。ちゃんと考えてあるから」
本当?
でもまぁ部活動なんてしなくても、女の子と一緒の旅行だ。
センパイ曰く"美女2人との嬉し楽しい部活動"である。
断る理由は全くナイ。
なのにデン、君はナゼそんな浮かない顔をしてるか
「実は、以前付文をされた彼女と映画の約束が」
本日をもって、物理部員は3名となった。
むしろ最初から3名だったかも!
「お前、センパイやジョディに彼氏が居る可能性を考えてないだろう」
全く考えてなかった!
愕然とする僕。そして、デンの方へ移動する女子2名!
神も仏もナイ。
ところが途中で失速し、僕の隣にしょぼんと座る約1名。
ジョディである。
おお、君こそ我が心の友!
そしてデンに近づき、通り過ぎ、あえなく僕の横に舞い戻るセンパイ。
ですよねっ!
「いや私だって、告ってくる男の1人や2人くらい居ますとも」
ほぅ。
「もう男どもを千切っては投げ、投げては拾い」
拾うんかい。
とはいえ、折角センパイがゲットしてくれた山荘。無駄にするのは忍びなかったのか、その日の内にデンは彼女にゴメンナサイした模様。
なぜゴメンナサイしたと判ったのか?
次の日の放課後、別クラスの女生徒がわざわざやって来て、"ツン"とアカラサマに冷たい目で見られたからだ。
僕は目をパチクリさせ、横に視線を動かす。
デンが挙動不審になっていた。
しかたねー。
教室を出ていく彼女を追い、廊下の隅で捕まえる。
ごめんなさい。
人数が減ると、キャンセルになっちゃうんです。
「いいのよ。ちょっと彼に釘刺しときたかっただけだから」
と微笑む彼女は、同期で1,2を争う美人と名高い西園寺美紀さん。
ド畜生である。
おのれデン、この妬み晴らさでおくものか。
とりあえずセンパイにご注進させて頂く。
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翌日、ゴールデンウィーク初日。
僕らは長野行きの電車に乗っていた。
向き合う形のボックス席に4人が座る。
「はい冷凍みかん。飲み物も色々買って来ましたよ」
至れり尽くせり。下にも置かぬオモテナシのデンである。
「センパイはお茶にします?それともジュー…
センパイの眼がデンを黙らせる。
「何を"飲む"かなど、問題では無い」
人差し指を突き付けるセンパイ。
そう。その通り。
洗いざらい"吐く"ヨロシ。