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実は私は存在しない  作者: tema
第零章-現代
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三班

「はい、確かに」

むふーっ


センパイの鼻息が荒い。見事なドヤ顔である。

僕が取得したアマチュア無線技士免許のコピーを、生徒会に提出したのだ。

それじゃ、物理部は存続ってコトで。よろしくひとつ。

僕は早々に、生徒会室からセンパイを引きずり出した。


廊下を歩くセンパイは上機嫌であった。

「いやー見た?免許を叩きつけられた生徒会連中の視線ったら!もう、胸がすっとしたわ!」

淡々と処理してたように見えましたが?

「いーやアレは内心、口惜しいって顔だった」

さいですか。


「私もカラダを張った甲斐があったわ」

いやちょっ…センパイ!

その言い方は如何(いかが)なものか。

少なくとも、廊下で堂々と言うこっちゃナイ。


========

僕はセンパイを部室に連行し、大和撫子の慎みについて懇々と教え諭す。

「でも確かに私たち、カラダ張りましたよね」

ジト目をしたジョディは言う。

彼女は大和撫子じゃナイ。そんな胸した人は、大和撫子とは認められない。


「だよねー」

とセンパイは、僕を蔑むような眼で見る。

「ああ、部存続のためとはいえ、性欲にまみれた変態男の視線に我が身を…」

「あの時の記憶を夜な夜な使われてると思うと…」

ぷるぷるぷる。

センパイが汚物を見るような眼で僕を見て、ジョディが、身体を震わせる。ついでに、大声では口にできないブブンも揺れた。


センパイとジョディが非道(ひど)い。

「まぁ仕方ないな。あの目つきは俺でも引いた」

ファッ!

デン、お前が言うのか!?

どの口で、それを言うのか!


入部1週間にして、すっかり僕のキャラが定着した。

エロ男子として、定着してしまった。

部室の外に漏れていないことが、唯一の救いだ。

「あっ」

"あっ"てジョディ、まさか?

もしや、よもや。

いや信じてるよ。僕はジョディのこと信じてるからね!


「典子に話しちゃった」

てへペロ、とジョディが大変なことを言った。

典子――金子典子は、明るく陽気なクラスメイトで友人が多く――

おしゃべりである。


「大丈夫!秘密にしといてって言ってあるから」

それ絶対大丈(だいじょ)ばない!

構内放送のマイクに向かって言ってるようなモンだから!

ちょっとデン、一転ハレモノに触るような目つきはヤメろ。


終わった――

僕の高校生活は終わった。

甘酸っぱい初恋と青春の思い出は、入学1週間で手の届かぬモノになってしまった。


「届くと思ってたんだ」

「20cmは足りないわね」

「まだ初恋を経験してなかったとは」

ひどっ!


3人ともヒドい。

ヒドいのだが、実のところ害はあまり無い。


クラス内で僕とジョディは"友達"と見做されている。

そして、腕っぷしはジョディが上だと思われている。

真に遺憾ながら、そこには幾分かの真実が含まれている。


ジョディの身長は180cmを軽く超え、190に近い。具体的には188cmだ。

一方僕は160cmを多少下回り、具体的には152cm。僕の頭のてっぺんは、ジョディの肩にも届かない。

ジョディは鍛え上げた肉体を持ち、その手は拳ダコに覆われている。

一方僕は痩せっぽちで、手にはペンダコすらナイ。


このため、僕が力づくでジョディにエロいことを――という話はギャグとして扱われ、誰も本気にしていない。

本気にされては困る。

だが、本気にされないのは心外である。


僕は外見こそ羊だが、その心には一匹の狼を飼っている。

触るとヤケドしちゃうゼ!

本当だよ?


「ところで2人は、もう班を決めた?」

物理部には3つの班がある。

1.無線班

2.天文班

3.マイコン班

この3つだ。


内、無線班は僕が入る。なんせ免許を持っているのが僕だけだ。

「アタシが天文班、デンがマイコン班です」

"デン"そして"クロ"という呼び名は、あっと言う間に部内に浸透した。しかもジョディが呼ぶもんだから、クラスでも僕は"クロ"と呼ばれてる。


「ここらの機器は――」

とジョディは博物館に展示する価値のある機器を示す。

「クロじゃないと動かせそうにないし、でもこれ以上アタシのカラダを汚されるのは困るんで」

待て。

「そうだよねぇ。お嫁に行けなくなっちゃうもんねぇ」

いつまで引きずる、そのネタ。


「でも、部活動って何するんですか?」

明後日(アサッテ)の方向に行き始めた会話を、デンが戻す。

「天文班は観測するよ」

とセンパイ。センパイは天文班だ。

「無線班は、時々それで通信を試みてた」

と、部室の隅で埃を被ってる機器一式を指す。


「マイコン班は、ううん…何やってたっけ?」

ここら辺にノートが、とセンパイが引き出しを開ける。

閉める。


「出た…」

顔を青くしたセンパイが言う。

「何が?」

震えながら引き出しを指さし、距離を取り始めるセンパイ。

僕を手招きし、引き出しを開けるよう身振りで促す。


ホラー漫画でも入っていたかと引き出しを開けた僕は――

きゅう。

僕の記憶は、ここで途切れている。


========

翌日、クラスの女子が妙に優しかった。

「しかたないわよ」

金子さんは言う。

「引き出しの中がGの巣になってたら、私だって悲鳴上げるもの」

「ジョディに助けて貰えたんでしょ」

池田さんも言う。なぜ知ってる。


G数匹に顔へ飛びかかられ失神した僕。

一方、冷静に殺虫剤で殲滅&掃除したジョディ。

僕は保健室に担ぎ込まれ、失神した理由は学校中に情報展開された。


僕の高校生活。

甘酸っぱい初恋と青春の思い出は、入学2週目にして今度こそ手の届かぬモノになってしまった。


くすん。

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