毒纏の魔女
初めて短編書きます。
書き方がうまくわからなくて、どうなのかわかりませんが面白い話だと思ってくれる人がいいなあと思います。
ある少女がいました。少女の両親は村の守りについていましたが、モンスターの襲撃から村を守れずに亡くなってしまいました。
村人たちは、村が守られなかった責任をすべて少女に押し付けました。決して少女が悪いわけではありません、しかし村人たちの中にはモンスターの襲撃によって亡くなった者たちがいて、被害が受けた者たちがいて、その辛さをぶつける相手がおらず、こともあろうか少女に矛先を向けてしまいました。
少女はなぜ自身が責められるのかわからないまま、毎日のようにいじめを受けました。体には痣が絶えず、食事も満足に与えられませんでした。
その年の冬、少女は寒さを乗り越えることができず、ある朝道で冷たく横たわっていたのを村人に発見されました。
少女は死ぬ寸前、村への復讐を誓いました。どんなことをしてでも村の人たちを全員殺す。
ただ殺すだけじゃない、じっくりじっくりと苦しめて殺してやるんだと。と。
それを天の上から見ていた神様。あまりに村人たちがひどく、少女が可哀そうだったので、少女生き返らせてやることにしました。
しかも、少女を新たな存在として作り替えて。
「お前には新たなる生を与えよう。そして望む力も与えよう。
しかし、お前の望みはお前の身をもう一度滅ぼすことになるぞ」
神様は少女を生き返らせる前に、そう言いました。
「願いが叶うなら、どのようになったって!」
少女の心の中は怒り、悲しみ、あらゆる負の感情に満たされていたので、神様の言葉を冷静に考えることなどできませんでした。
神様は少女がそのような状態であることをわかった上で、少女に新たなる生を与えました。
地に横たわったままにされていた少女の体は塵になり、風に飛ばされて骨さえ残りませんでした。場に漂っていた魂は空気に溶けるように薄れていきました。
少女の頭の中はぼやっとして、上手く意識が定まりません。視界も心なしかぼけていました。
少女はいつしか移動していました。視界に入ったのは見慣れた場所、そう、少女が住んでいた村です。
少女は思い出しました。恨み、憎しみ、痛み、悲しみ。そして思ったのです。
のうのうと生きているこいつらをじわじわと弱らせていって殺してやりたい。
しかし、新たなる生を与えられたはずの少女には肉体が存在せず、ただ見ていることしかできませんでした。
少女が強い感情を抱えたまま村を見ていると、ある日、村の一人が倒れました。
高熱が出ていたのですぐに神父が呼ばれることになりました。しかし、その病気は神父では治すことができませんでした。
家族が三日三晩代わる代わる看病をしたものの、病気が治ることはなく、その者は最後まで苦しみ続けた末亡くなりました。
それから一週間後、今度は別のものが同じ病気にかかりました。病気にかかった者は前回同様、三日三晩苦しんでから亡くなりました。
一週間後また別のものが病気にかかり、一人また一人と村人たちは死んでいきました。
恐ろしくなって村から逃げ出した者もいましたが、村から出ようとした村人は、一刻を待たずして同じ病気にかかり、残った村人より早く死ぬこととなりました。
村に立ち寄った商人からこの話は王国へともたされましたが、王国は今回のことを伝染病と判断し、村人ごと村を放棄することにしました。治すことのできない伝染病は、蔓延させないことが大事なので仕方のないことでした。教会も同じ判断を下しました。
王国,教会に見捨てられた村人たちは、最後の手段と毎日神に祈りを捧げましたが、神様が村人たちの祈りを受け入れることはありませんでした。
少女を毒の霧として生き返らせたのは神様本人です。村人の願いを聞き届けることなどあるはずがありません。
少女は弱って死んでいく村人たちを目にして、狂喜しました。
自分をあんな目に合わせた村人たちが死んでいく様は最高でした。しかし、村人の数が減っていくにつれて少女の狂喜も薄れていくのを感じていました。
そして最後の村人が亡くなった時、村人たちの体は溶けてなくなり、代わりに少女の体が作られました。
ようやく少女は肉体を得ることができました。
生まれ変わった少女の髪の毛は触れれば爛れてしまいそうな毒の紫色になり、肌は不健康なほどに青白く、目は何を見ているのかわからないような不気味さがありました。
少女はなぜ自分の望みが全て叶った後に生まれ変わったのかわかりませんでした。しかし生き返ったからには生きていこうと前向きに考え、食料を探しました。
山を歩き、木に生った実を見つけて、少女が実に触ろうと手を伸ばすと、手が触れる寸前に実は溶けて消えてしまいました。
少女の持つ毒性は、少女に食事をさせなかったのです。
神様の叶えた少女の願いは、復讐を満たす代わりに地獄とも思える日々が与えられることになりました。
少女はお腹が空きました。
しかしどんな食料も食べることはおろか手に取ることさえできません。近寄るだけで消えてしまいます。
丸二日が経ち、少女に立ち上がる力もなくなった頃。破棄した村の調査のため、王国から騎士隊が派遣されてきました。
一人の騎士が動けなくなった少女を見つけました。村人の姿は誰一人として確認できず、少女一人が生き残っている。とても不気味な状態ではありましたが、騎士はこの少女を病気から生き残ったのだと考え、看病することにしました。
食料を与えようとしましたが、食料は必ず口元で消えてしまいました。
少女は自身がそのような体であることを話し、放っておくように騎士に頼みましたが、ただ唯一生き残った少女に対して騎士達は見捨てることはしませんでした。
食事はとりません、しかし懸命な介護の甲斐もあってなのか、少女は少しずつ健康を取り戻しました。食事をとらないのに健康を取り戻していく姿は、おかしいはずであるのに誰もそのことについて何も言いませんでした。
しかし、少女が健康を取り戻すに連れ騎士達の体調はどんどん悪くなっていきました。
ある日一人の騎士が倒れるに至った時、少女は気づきました。
自分の食料は自身の毒によって体調を悪くしていく彼らなのではないか、と。
騎士達が現れてから、何も食していないのにどんどん元気になっていく、代わりにどんどん体調を悪くしていく彼ら。
ほとんどそれが事実であるにも関わらず、少女はその現実を見つめたくなくて、ずっと黙っていました。そして、とうとう少女にもっとも献身的に尽してくれた、調査隊の隊長が亡くなりました。
隊長が亡くなったことで、騎士達は調査を中断して撤退せざるを得なくなりました。
実際、彼らの半分以上はもう病人と変わりない状態でしたから、騎士達の判断が遅かったと言うのもありました。
撤退の前日、騎士の中の一人が今回の原因が少女にあることを仲間に呼びかけました。
その騎士は以前にもこの体調の悪さは少女のせいだと皆に告げていましたが、根も葉もないことだと隊長に一括されていました。しかし体調が亡くなってしまったことで、彼を咎める者がいなくなったため、彼はもう一度そのことを呼びかけたのです。
隊長の代わりに副隊長が彼を一括しましたが、彼は納得いかず、副隊長が咎めるのも無視して剣で少女に斬りつけようとしました。
騎士の剣は少女に届く前に根本から折れて地面に落ちてしまいました。なぜそのようなことになったのかわかりませんでしたが、少女が無事なことに副隊長はほっとしましたが、少女を斬りつけようとした騎士の叫びを聞いて真実を知ってしまいました。
騎士の腕は一気に毒が回り、肉が落ちて骨がむき出しになっていました。騎士の体には毒がどんどん染み込んでいき、体中の肉が溶けて哀れに死んでしまいました。
騎士達はようやく気づきました。
自分たちの体調が悪くなったのはこの少女に会ってからなのだと。隊長が亡くなったのはこの少女のせいだと。この村が滅びた原因はこの少女にあるのだと。そして、この少女は自分たちが決して敵わない存在だと。
騎士達は自分たちを守る武器さえ捨てて王都に向かって逃げ出しました。病気で弱くなっていたものは、置いて行かれました。
騎士達の逃げる様は、強者のものとは思えないほどでした。
しばらく経って置いて行かれた騎士達も全て亡くなり、少女はまた一人になってしまいました。
少女はもうこのまま一人で死んでいこう。そう思っていました。
そんな少女の前に4人の男が現れました。
「ああ、こいつだ。
倒したら、伯爵号をもらえると言う噂の魔女は」
無害そうに見える少女に男は語りました。べらべらと、聞いてもいないことまで。おかげで色々知ることができました。
王都から派遣された騎士隊は全滅。騎士の最後の一人がなんとか王都に辿り着き、同僚の騎士に全てのことを話すとそのまま亡くなってしまったそうでした。
すぐ騎士の話は王都に広まりました、そして王自ら冒険者たちに依頼を出したのです。
村と騎士団を全滅させた原因の魔女がいる、魔女を倒しその首を持ち帰った物には恩賞として伯爵の位を与えると。
冒険者はへらへらと笑って武器を抜くと、少女に近寄ってきました。
(ああ、こいつらもか)
少女は思いました。
少女を攻撃した騎士がどうなったのか、王都に広まっていましたが、冒険者たちは何を考えてそのような行動をするのか不思議でした。
少女は呆れていました。そして、眼前に騎士が自分にしたように冒険者が武器を振り上げたのです。
武器だけでなくそれを持ち上げた右手ごと地面に落ちました。男の右腕は肘から先がなくなっていて、骨がむき出しになっていました。
男があまりの痛みにうめき声をあげると、残りの三人の男たちが一斉に武器を抜きました。
しかし、最初の男同様に武器を持った腕が腐り、地面に落ちてしまいました。
一刻後、男たちの姿はそこにはありませんでした。残ったものは、彼らが装備していた物だけでした。
それから、少女の元に度々冒険者がやってくるようになりました。
時には少女を救うためにやってきたと言う、腕のいい神父や解術師もやってきましたが、少女に関わる者は皆死んでいくため、少女は何も考えなくなりました。
死にたい、そう思っているのに世界は少女を死なせることをさせてくれませんでした。
表情も失せ、無表情で過ごすようになり、訪れる冒険者は少しずつ数が減っていきました。
毎日、ただ何もせずに遠くを眺め、夜が来ると横になり眠る。食事もせずに、誰とも話すこともなく、ただそこに在るだけです。
いつものように少女が風景を眺めていると、一人の者が近づいてきました。
食事の時間か来てしまったのね、少女はそう思いました。もう少女からすれば、人間は食料でしかなくなっていました。
「お前が魔女か、会いたかったぞ!
この恨み晴らしてくれる!」
男は出会い頭にそう言いました。村の者は全滅したはずですから、少女に恨みがあると言うのなら村にいなかった関係者なのでしょう。
もしかして知っている人かも、そう思ってやってきた男を見ましたが、男は被り物を深くかぶっていたのでどのような顔をしているかもわかりませんでした。
男が右手を振り上げて少女を斬りつけようとしました。
(ああ、腕が落ちる)
そう思いましたが、崩れ落ちるのは剣のみで腕は落ちることはありませんでした。
「くっ、ダメか。ならばこれなら!」
男は今度は背中に掛けていた弓を構え、鉄の矢を放ってきましたが矢も少女に届く前に崩れ落ちました。
ならば、ならばと男はあらゆる手段を試しましたが、男は全ての手段を用いても少女に触れることはできませんでした。その間、少女はその場を動くことも避けようとすることもありませんでした。
「貴様は悪魔か!
なぜこのようなことをし続けて、しれとしていられるのだ」
男は一日中少女に挑み続けましたが、今までの冒険者と違い男はまだピンとしています。
「私も別に好きでやっているわけではないのよ」
少女が小さな声でそう言うと、男は驚きました。
悪魔のような魔女が、村を滅ぼした原因が、騎士隊を壊滅させた存在が、どの口でそのようなことを言うのか。
「ならば、なぜ村を滅ぼした!
他の者はともかく、あの娘は滅ぼされていいような存在ではなかった!」
男は力いっぱい地面をたたきました。自身の攻撃が何一つ少女に通用しなかったことに歯がゆさを覚え、あまりの悔しさに握りしめた拳から血が垂れていました。
男は村に知り合いの娘がいたようでした。
「この気持ちを叩きつけるために、全てを失ってこの力を手に入れたのに!」
男は被り物を少女に投げました。被り物は霧のように消え、消えた後に男の顔が見えました。
(ああ、ダメだ。今度こそ死んでしまう。)
男は少女を襲ってくる人物なのに、少女は男に対して悪い気持ちを抱くことができませんでした。
男の顔には悍ましいと言ってもいいほどの爛れた跡がありました。
「その顔は一体……」
そう少女が尋ねると、
「お前を殺すために、あらゆる毒を体に受けてきた。
お前の毒に到達するために、この世の全ての毒を体に受けてきたのだ!
ただ敵を討つために!」
男が死ななかったのは、男が少女の毒に耐性を持っているから。つまりそういうことでした。
男にそこまで思わせるのは何だろう。男がそこまでしなければならない理由とは一体なんだろう。
言わずにはいれず、男に尋ねました。
「どうせ俺の攻撃はお前には通じない。
俺の今までの人生は無駄だったのだ。
教えてやろう!
俺はこの村の娘に恋をしていたのだ。
しかしその娘は死んだ。お前が滅ぼしたんだ。
健気で、どれだけ村人にいじめられても笑顔を忘れず、
どんな人にも優しくて、そして麗しかった!」
すでに目と言えない男の顔から、水が滴っていました。
少女の心臓がドクンとなりました。
少女が知る限り村人からいじめられていた人物は一人しかいません。
もしかして……喉元まで出た言葉は、口から出ることはありませんでした。
それから少女と男の奇妙な関係が始まりました。
男は少女の近くで暮らし始め、冒険者が訪れると説得を始めたのです。
男は有名な冒険者でした。多くの冒険者は男の話を聞くと、引き返していきました。
男の言うことを聞かずに向かってくる者もいましたが、少女への攻撃はその者の業となって返っていきました。
そしてある日、男が少女に話しかけてきました。
「最近、ようやく気づいた。お前は毎日何もしていない。
決して悪いことをしていない。
ただ冒険者に襲われているだけだ。
お前は一体なんなんだ? 本当に村を滅ぼしたのか?
ずっとお前を見てきたが、俺にはお前がそのような
存在にはとても見えない」
もう見る目もない男の顔、その口がある部分から発される声。
その声を黙って聞いていると、少女の頭に昔のことが思い出されました。もう何百年も前の昔の話のように思える記憶。
「秋の収穫の時期。
村のみんなに黙って村を出て、山に入って倒れるまで遊んで、
あの頃は本当に楽しかったね」
男が少女の声を聴くのは決して初めてではありません。しかしその内容を少女の声で聞いた時、男は全て悟りました。
「まさか……」
男が恨みを晴らしたかった魔女が、その少女だったのです。
魔女への復讐のため、男の顔,体は毒により人としての原型をとどめているかも難しい状態になっていました。
今更どのような顔をすればいいのか、まったくわかりませんでした。
「私はね、嬉しかったの。
いつか、どうやってか、死ぬまで、私はずっと一人なんだって思ってた。
でもね、あなたは全てを捨てて私のために傍にいてくれるの。
例え理由が恨みだったとしても、決していなくならずに傍にいてくれる。
そんなあたなのその姿を嫌いになれるわけないじゃない」
少女の一言で、男は涙を流しました。失くしてしまったと思い込んでいた心が取り戻されました。
それから男は少女と一緒に住むようになりました。
少女の日常は変わりました。そして、男の日常も変わりました。
男は、来る冒険者に少女は悪い存在ではないことを伝え、決して倒すことができない存在であることを告げることに専念しました。
今まで通り、素直に帰ってくる冒険者も多かったですが、やはり話を聞かない冒険者もいました。
しかし男は熱心に説得し、なんとか帰ってもらっていました。
そうして、10年の時が過ぎました。
今日は川へ、昨日は山へ。二人は毎日のようにどこかへ出かけ、そしてそこで楽しく過ごしていました。
しかし10年と言う歳月が男に真実を教えてくれました。
少女の毒は、男には効かなかったわけではありませんでした。
少しずつ体に蓄積し、男の体を蝕んでいたのです。最初の頃は遠出していたものの、最近はごく近くにしか行かなくなったことに、少女も気づいていました。
そして、おそらく自身の毒が少しずつ溜まっていっていることにも。
とうとう、男が動けなくなる時がやってきました。
ベッドの上で横たわる男を少女はじっと優しい目で見つめていました。
「悪い人生じゃ、なかったよ」
ゆっくりと、男はその言葉を漏らしました。
うん。と、少女はそれだけしか言うことができませんでした。
その後、毒の魔女の話はどこからも聞かなくなりました。しかしその王国では今も言われることがあります。
「こら、そんなことばかりしてると
毒の魔女に溶かされてしまうよ」
悪いことをした子供が、親に脅されるのです。これを言われずに大人になった子供はいません。
そして大人になった子供は、また自分の子供に言うのです。
「ねえお母さん。その後毒の魔女はどうなったの」
「死ぬよりつらい孤独を味わうことになった毒の魔女は、
最後には神様に許されて天に召されたのよ」
「そうなの? 良かったね、毒の魔女。
天国に行けたら、もう一度好きな人に会えるもんね」
「そうね、良かったと思うわ。ね、あなた」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
実はこの話には書いてない設定が色々あったりしますが、ここで書くのは野暮かなあと思いますので敢えて書きません。