平等国
昔々、あるところに旅人がいました。旅人は若くて健康な男でした。彼は若いころに家を飛び出したっきり、国から国へと旅を続けていました。
いつだったか、彼は興味深いうわさ話を聞きました。
なんでも、女や子供、老人や障がい者、そういった社会的弱者でも安心して暮らせる国、「平等国」があるというのです。
彼の祖国はそれはそれは酷い国で、社会的弱者はそうでない者たちに当たり前のように虐げられていました。
だからでしょうか、いつしか彼はそこを一目見たいと思うようになっていたのでした。
そして遂に、旅人は「平等国」に辿り着いたのです。
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カーテンから差し込む朝日で目を覚ましました。
目を覚ますと、昨日有ったことを一つ一つ辿ってゆくのが彼の日課です。
そうして、気がかりなことを思い出しました。
「困っている人を見かけても、助けてはならない」
宿屋の主人の忠告でした。
彼は困っている人を見過ごせない質でした。
時々面倒ごとに巻き込まれてしまうこともありました。
助けても感謝すらされないこともありました。
それでも困っている人を見過ごすことは出来ないのです。
誰も助けないことで後悔するより、誰かを助けて傷つくことを良しとしていました。
だから、彼にとってその忠告は、目下のところ最大の悩みなのでした。
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悩んでいても仕方がありません。気分転換の為に散歩に出かけました。
街は朝から活気があります。
さっきまでの悩みはどこへやら、楽しい気分になりました。
浮ついた気分で街を歩いていると、どこからか聞きなれた声がしました。
悲鳴と罵声です。前者は一人でしょうか。後者は明らかに多人数でした。
事の次第をすぐ察しました。リンチです。
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声の元に駆け付けた彼が見たのは、予想とは異なった光景でした。
五人の老人が、一人の若者を、寄って集って杖でぶちのめしているのです。
それにもかかわらず周りの人間は皆止めようともしないのです。
何が起こっているのでしょうか。
「やめてください」
若者の頭へ向けて杖が振りかぶられているのを見て、咄嗟に叫びました。
「うるさい! こいつはわしらに席を譲らなかったのだ」
悪びれる様子もなく、老人は口々にこう言います。
「その程度のことでこんな酷いことを」
彼は裏切られたような気分になりました。
何を言っても、彼らの愚行を止めることは出来そうもありませんでした。
彼らは老人です。彼らの行いがどうであれ、傷つけることは旅人の良心が許しません。
旅人は素早い身のこなしで彼らの武器、すなわち杖を奪い取りました。
尻もちをついて呆けている老人たちをよそに、旅人は若者のもとに歩み寄ります。
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若者の顔はみるみるうちに青ざめてゆきます。
助けられたというのに。若者は怪訝に思います。
「助けてくれ!」老人たちが大声で叫び始めました。「この若者に杖を奪われた!」
驚いたことに、それまで行われていたことを止めようともしなかった群衆が、旅人をあっという間に取り囲みました。
群衆は主に女や子供、老人や障がい者、そういった社会的弱者で構成されています。
状況をつかめないでいる旅人に向かって、群衆は口をそろえて罵ります。
「老人に暴力を振るなんて最低な男!」「弱者を虐げるな!」「最低のクズめ!」
群衆に袋叩きにされながら、旅人は悟りました。
この国は平等なんかじゃない。
虐げるものと虐げられるもの、それらが逆転しただけだ。
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旅人は右足を喪い、旅を続けることが出来なくなりました。
でも大丈夫、心配はいりません。
身体障がい者となった彼でも、この国でなら安心して暮らせるのですから。
社会的弱者に社会的な力を与えることで平等にしようと試みるのは良いですが、
程度を誤ると別の社会的弱者が生じるだけです。




