リカちゃんの誤算
みっちゃんとの緻密な作戦会議を重ね、万を持して私は入学式の前夜を迎えた。
まずは遅刻をしないように目覚まし(巨大)をかける。
上部にあるボタンに手が届かない私は、目覚ましが止められない…つまり、寝坊はしない!!
ハーーーッハッハッハ!イージーゲーーーム!
乙女ゲームの私は何で寝坊したか知らないが、まあいい。
私は、失敗しないのだ。
・・・・・・
ジリリリリリリリ…ジリリリリリリ…
んーーーーー、なんかうるさい…工事でも始めたのかな…
まあいいかねむいからわたしはねるのだそれがうちゅうのしんりなのだ…
グゥ…
「起きろ」
私は、パカッと開けられたマイスイートホームの断面を見下ろす形で目を覚ました。
みっちゃんに首根っこをつままれて、宙ぶらりんだ。
…起きれなかったようである。
目覚ましなんぞでは、私の眠りを妨げら…あっ、お腹出てる。
ちょっとみっちゃん、JKのおへそ見えてる。
あっ、見ないで。
「お、おはようみっちゃん…プリーズおろして…」
「だめ」
ひどい!
絶対起きれないと思ってた…、という呆れた目をして私を見下ろす(見下す)みっちゃんは、手のひらに私を乗せダイニングに連行し、お母さんが作ってくれたミニチュア朝ごはんを食べ終わるまで待ち、また私の部屋まで運んでくれた。
断面がさらされていたコビトハウス(仮)を元に戻すと、「着替え」と一言言って私を下した。
有能な忍者、もとい執事である。
そうしてブランニューな制服に着替えた私を、これまたブランニューな制服の胸ポケットに入れたみっちゃんは、戦場(学校)に向けて足を踏み出したのである。
入学式、クラスの確認を無事に終えた私たちは、小人病患者に対する好奇の視線を浴びつつ教室に向かった。
席は自由のようなので、後ろの方の席についた。
ついた、と言っても私は机の上に座る形になるんだけれども…
手持無沙汰になって視線を動かしていると、明るい髪の女の子と目が合った。
軽くお化粧もしているみたいで、目がパッチリしていてかわいい。イマドキJKだ…すごい…
でもなんかむっちゃ見たことある…
パッと花が咲くような笑顔を作った彼女は、そのまま私の方に向かってきた。
「リカちゃんだよね?みんな噂してるから、すぐ名前覚えちゃった!
私、日向ナツミ!同クラだし仲良くしてね!なっちって呼んで!」
…なっちキターーーーー!
なっちは北野カイの事を好きなライバルキャラだ。
おしゃれで可愛くて、裏表がなくて明るくて、みんなに好かれるキャラ。
私も前世ではお気に入りだった。
「なっち、よろしくね!仲良くしてね!!」
そう笑顔で答えて、じゃあねと言いながら別の子に声をかけに行く後ろ姿を見送りながらも、私の頭の中は台風のようだった。
脳内台風1号が雷を落とした。
実写版…すごい。
そう、実写版すごい。(大事なことなので2回)
みっちゃんは小さいころから知っているためゲームを思い出しても違和感がなかった。
言うなれば友達の似顔絵を見る感じ。
でも、なっちは違う。似顔絵スタート。
アニメキャラがパーフェクトな実写版になる感じだ。
謎のハリウッド版とかじゃない。
イメージちがーう!!って怒るようなアイドル起用版でもない。
まさに「なっち!」って感じの、パーフェクトな実写版。
実写版、すごい。。。(3回)
そして、ふと思った。
ライバルキャラでこんなんだったら、攻略キャラどうなるの?
有名な絵師様が腕によりをかけて造りたもうたイケメン達……
それの実写版とか…あれ、これむちゃくちゃかっこいいんじゃ……
脳内作戦会議をしている時、場面のイメージはただのイラストだった。ゲームのスチルだった。
実際の人間に私が口説かれてる様子なんて想像もしていなかった。
脳内台風1号の暴風が脳内を吹き荒れる。
―――ど、どうしよう、みっちゃん…
そしていつものように隣の席のみっちゃんに助けを求めようと振り向いて私の目に入ったもの。
それは、内海リョウ――攻略キャラ―――の、完全体…いや、実写版だった………