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3.

~バイト騎士フィルナード~


「帰るのですか?」


朝日を浴びながら少し前を歩く女の子…違った女性に声をかけた。元の世界でも小柄な部類に入るであろう彼女、向日葵は、薄い肩をピクリと動かし振り向いた。童顔なのに厚みがあり誘われていると錯覚しそうな赤い唇から言葉が発せられた。


「もちろん」


そう言うと思ったよ。

貴方は他の残った者達とは違う。

俺は、同僚が見たら気味悪いと言われるような薄い笑いを無意識に浮かべていた。


彼女、向日葵は過去の召喚された者達とは少し変わっていた。いままで召喚された人間達のほとんどは、贅沢とまではいかないが死ぬまで安泰な生活を国から約束され、周りの民にちやほやされたりして気持ちが徐々に傾き、この世界に残るのだ。


そして今回、召喚の際何故か勢いあまって俺の腕の中にとんできた彼女。まあ代々の召還された者達と同じように、帰ると言いはったまでは同じだったが、一癖も二癖もある神官長の提案ですんなり受け入れた。


理由は1ヶ月分勉強できるからとの事。


受験生だと聞き納得したが、周りはなんて勤勉で素晴らしいと褒めちぎっていた。更に誰にも身分関係なく接するので、好感度は上がっていく。


だが、俺は知っている。

あっちでは驚く事ではなく普通だという事を。


何故なら俺の母親が過去に繋ぐ人で国は違えど彼女と同じ世界の人間だ。


ちなみに父親は母の護衛騎士だった。

俺の母親は稀なタイプで当時かなり帰りたがったらしいが、父のしつこさに負けたらしい。

剣術、魔力、頭脳、全てにおいて伝説みたいに言われている父に狙われては無理だったろうと少し同情する。

まあ、今でも仲の良い、いや良すぎて息子としてはあまり見たくないほどのいちゃつきぶりに目をそらしたくなるから、とりあえず幸せでなによりだ。


そして俺は、優秀な父と頭のよい聡明だと言われている母の子供。


なのに産まれた俺の魔力は悲しいくらいなかった。


だが一つだけ備わった力があったのだ。

それが異世界、母親のいた世界限定だが行き来ができたのだ。


かなりレアなタイプの俺は、身の安全の確保もあり母方の祖父母の国で幼少期を過ごした。この祖父母がまたかなりの変わり者で、母親の書いた手紙で納得したらしく、どう技を使ったのかしらないが戸籍を取得できた俺は幸運だった。


魔力はないが、頭脳と運動能力が高かった俺はある程度成長したら二つの世界を行き来するようになった。母親の世界では、たまに学校を長く休んだりしていたので健康そうに見えて実は病弱と思われていたがしかたがない。


そして飛び級で大学を出て、たまたま友達に日本好きの奴がいてその影響で俺は、日本の大学に通う事にした。


だが、最近この往復の生活もどうするか悩んでいる。


騎士の仕事は、ようは国が特殊な能力を持つ俺をそばにおき監視もかねていた。

現に俺には制約がかけられており、往復はできても母親の国の知識は限定された人間にしか話せない、物も向こうからは持ち出せない。

当たり前だと思うし、往復させてくれているのが不思議なくらいだ。


最近、そんなんで段々と騎士として両立が厳しくなってきた頃。


鈴原 向日葵がやってきた。


俺は、同じ世界だからとただでさえ忙しいのに護衛に任命された。案の定忙しくて他の騎士よりは護衛につく日は少なかったが、それでも彼女の様子を見て失礼ながら思った。


暗いし、人生捨ててるなと。


よくみると茶色の目にまあ黒髪なんて俺にとっては珍しくもなく、彼女、向日葵は、容姿もまあ化粧すればかなり変わるだろうけど、いわゆる普通だ。


ただ、俺が見た感想と俺の身体の反応は違った。


向日葵は、初日から帰ると宣言したとおり、勉強と繋ぐ儀式だけの日々を黙々送り、この世界、この国の事をまったく知ろうとしなかった。


会話は魔術師が作った品を身につければ問題ないから不自由はあまりなかったのだろう。だから知らないのだ。


この国の人間は、産まれた時からパートナーが決まっていることに。


それは親が決めるわけではなく、本人同士が惹かれ合うらしく、性別も同性の場合も数は少ないがそう珍しくない。


それをまだガキの頃に知った俺の反応は周りの奴等とは違い子供ながらに、嫌悪感しかなかった。


何がって? それって好きになる相手を強制的に決められているという事だろう?


そして、もう少し成長した俺は、はたと思った。

じゃあ少子化まっしぐらではと。


そこがまたうまくできており興味本位で調べてみれば相手が死んだらまた100%ではないがパートナーが現れるらしい。

ようは再婚同士。


正直もうそこで、なんか面倒になり萎えた。

そんな俺だったが、向日葵が腕の中に来た時に激変した。パートナーに出会った時、あらがえない強い香りがすると周りは言っていたが、それは本当だった。甘くいつまでも嗅いでいたくなる匂い。そのうえ、見慣れている瞳や髪、そして普通の容姿なのに、何故かとても気になるのだ。


このままだとヤバい。


俺はその香りから逃れたく、幸い大学の方も忙しく護衛の日をできるだけ少なくしようと決意した。


そんな俺が結局陥落されたのはいつだろうか。

彼女が明らかに体調不良なのに、悟られまいと倒れそうになりながら繋ぐ儀式をした時か、いや…一番は、あの表情だ。


ある日、俺はあまりにもパターン化した行動範囲をみかねてかなり遠回りだが庭の景色もよく人気が少ない外回廊を案内した時──。


召喚された日以来、感情をあまり顔に出さない彼女が、笑ったのだ。

サムい表現だが、まるで蕾の花が一気に開花したように見えた。


それほど別人に見えた。


だが、相変わらず明日で帰る彼女との距離は変わらなかった。パートナーが決められているのはこの国であって向日葵にはそんなものはない。


悲しいかな俺が一方的に惹かれているだけ。

そして今日の俺はどうもガタガタだった。


転移の際、小さい彼女のすぐ背後に立つ為に見えるうなじに、転移直後身体がいつもぐらつき俺の胸元にあたる身体。神域で水にはいるために、たくしあげた時に見える白い足。


幸い他の護衛騎士達は皆パートナーと出会っているため安心だが、それでも他の奴の胸をかりたり、足を惜しげもなく見せているのを想像すると気分はよくない。


足なんてあちらの世界にいけば皆だしているのに馬鹿か俺は。いつもなら背をむけ彼女が自分で足を拭くのだが直接足に触れ拭いた。


そして最後の儀式が終わり部屋までの道を護衛中の今。

俺は膝をつき彼女に好きか嫌いか尋ねた。

戸惑う彼女の手をとり撫でるように触れながら自分の指を絡め、こちらでは片膝をおとし手の甲に口づけをするのは求婚を意味する。

だんだん止まらなくなり手のひらにもした。


反応を見れば悪くはない。

そして彼女からの返答も。


向こうの世界に戻れば、その日は誕生日だと侍女から得た情報で知っていた俺は、彼女の左手首に恋人に渡すプレゼントだと言いバングルをつけた。

魔力を込めたこの腕輪は、いわば結婚を近々するという証でもあるが向日葵は知らないし、重いと言われるだろうから教える気もない。


彼女は翌日予定通り元の世界へ帰っていった。

同日、俺は上司に一枚の紙切れを提出した。


「バイトに変更? なんだバイトとは?」


いつも機嫌の悪い上司に簡単に説明した。

パートナーを掴まえに行くので仕事の日数と時間を大幅に減らして欲しいと。


てっきり怒鳴られるかと思いきや。


「おー人生捨ててるようなお前がやっとやる気になったか! 行ってこい!そして結婚式に俺を必ず呼べ!」


なんとアッサリ許可が出た。


大丈夫かよこの国とちょっと不安になる。それに人生捨ててるって俺がそう見えるのか?


そして上司の式に呼べという台詞。


武術は秀でているが単純な脳の彼は深く考えず言ったのだろうが、この異世界に渡る力は、関係をもったパートナーは俺と一緒なら転移ができるらしい。らしいなのでまだ確実じゃないが、俺も付き合い婚姻を結ぶ相手を仲間や親に見せたいし、向日葵がどちらか暮らすのに選べるなら尚いい。


俺の未来への計画は勝手に着々と仕上がっていく。


季節は変わり春。


入学式の案内役に立候補した俺は彼女を見つけ、彼女の驚く顔を見て大満足だ。


向日葵の行きたがっていた大学と俺が通う大学が同じなのは本当に偶然だった。勿論事前に聞いたが、知った時は驚いた。


推薦希望を止めてくれたおかげであと二年くらいは向日葵の側に確実にいられそうだ。


抱き締めた彼女にささやいた。


「向日葵…逃がさない」


いや、放さないよ。鈍く光るバングルが目にはいる。嫌われてないらしい。


俺が離れられないんじゃなくて向日葵が俺から離れないようにしてみせる。


ああ、楽しくなりそうだ。


ちなみに、騎士をしてる向こうの世界での口調は堅苦しいが、大学生の俺は軽い。使い分けは幼い時からこの往復の生活だったので慣れた。


こうして向日葵を俺のものにする為、俺はとりあえずこの世界での生活を優先しバイト騎士になったのだった。


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