教会
教会の中も手入れが行き届いているおかげか、古さが逆に落ち着いた良い雰囲気を出している。
正面には女神のような像があり、中央の通路の横に長椅子がいくつかある程度の簡素な作りだ。
長椅子に抱っこしていたレンを寝かせようとする。
「んん、ここどこ?」
起きてしまったようだ。
「おはよう~」
シスターがレンに優しく話しかける。
寝起きで知らない人に話しかけられたせいかレンがびっくりしている。
「おねえさん、だれ?」
レンの言葉でまだ自己紹介していなかったことに気づく。
「お姉さんはね~、マリアっていうの」
どうやらシスターの名前はマリアというらしい。
「あたし、レン」
レンが自己紹介したからか、ハナが背中から顔を出した。
「わたし……ハナ」
「レンちゃんとハナちゃんか~、可愛い名前だね」
レンとハナが嬉しそうにしている。
「セイゾーが、つけてくれたんだよ」
「セイゾー?」
マリアが首を傾げる。
「セイゾーは、セイゾーだよ」
レンが説明になっていない説明をする。
「申し遅れました、俺がセイゾーです」
この世界で青山誠三と名乗るのはおかしそうだ。
もうセイゾーで自己紹介してしまったし、セイゾーと名乗ることにしよう。
「え? 子供達に名前を?」
マリアが言いたいことは十分に分かる。
助けた子供に名前をつけているなんておかしい。
「母親がいなくなって、名前もなかったようなので」
「まあ……子供を置いて蒸発したのでしょうか」
マリアの言葉を聞いて子供達がマリアに飛びつく。
「おかあさん、わるくいわないで」
「おかあさん……わるくない」
マリアの発した言葉の意味はわからなくても、母親が悪く言われたのではないかと感じたようだ。
目に涙を浮かべながらマリアにしがみついている。
「ごめんね、お母さんは悪くないのね。お姉さんが悪かったわ」
飛びついてきた子供達にマリアが謝る。
子供達が落ち着くまでマリアは何度も謝っていた。
そのおかげで納得したのか子供達は落ち着いてくれた。
「あの像はなんですか?」
子供達が落ち着くのを確認し、話を変えるため気になっていた像のことを尋ねてみる。
美しい女神の像で何故か心惹かれるような気持ちになる。
「女神セーイスの像です。豊穣など色々な恩恵があるんですよ。ですのでこの教会には治療の目的以外にも豊穣を祈りに来る方もいますね」
後で知ったのだが、治療とは聖職者が使える魔法だという。
マリアが使う治療魔法は死んだ人や、大きな怪我、病気は治せないらしい。
魔法まであるとは本当に異世界なんだなと思わされた。
「この教会に来られたのも何かの縁ですし、是非お祈りしていってください」
宿を借りる手前断るのも申し訳ないので、お祈りすることにする。
特に決まった祈り方などはないらしく、女神像の前に行き目を閉じる。
『今日は色々な事がありました。まさか俺が異世界に来るとは思ってもみませんでした。何かこの世界を生き抜く恩恵をお与えください』
何を祈ったらいいのかわからないので、神頼み的なことをしてみた。
目を開けると両脇で子供達もお祈りしていた。
真似をしているだけかもしれない。
そんな二人の姿を見て再び目を閉じる。
『さきほどの願いはいりません。ですので、どうかこれからこの子供達が幸せであるようお願いします』
せっかく女神様に祈るのだ、俺のことよりこれから精一杯生きる子供達のために祈りたかった。
子供達を連れてマリアの元に向かう。
背後から、会話ができるだけ十分と聞こえたような気がした。
気のせいだと思うが、たしかに会話ができるだけ十分なのかもしれない。
もし話が通じなかったら子供達をここまで連れてくることも出来なかったかもしれないのだから。
マリアに教会の裏へと案内される。
「こちらをご使用ください」
教会横の家とは別に、裏にも建物があった。
どうやらそこに自由に寝泊りしていいとの事だ。
この地方では珍しいが、モンスターが多くいる地方では教会が難民の受け入れをすることは珍しくないらしい。
大人なら仕事が安定すまで、子供なら生活できるようになるまでと手厚く援助してくれる。
これに関しては慈善事業という側面で、優秀な子供を教会に取り込んだり、信者数の獲得などあるのだが今の俺には関係のない話だ。
「本当にいいんですか?」
「はい、先ほども説明しましたが教会での奉仕の一環なので」
そう言ってマリアが建物の中に案内してくれる。
建物の中は必要最低限の生活道具が備えられているだけの部屋だった。
6畳程度だろうか、トイレや風呂はない。
「お手洗いは隣の建物です。その横に水場があるので体を拭いたり料理もできますよ」
外に出て確かめてみる。
屋根がせり出しているおかげで、雨が降ってもトイレには行けそうだ。
水場も屋根があり雨が降っても大丈夫そうである。
「色々とありがとうございます」
「うふふ、いいんですよ。可愛い同居人ができて嬉しいです」
マリアの視線の先には子供達が仲良くうずくまって寝ている姿があった。
よほど疲れていたのだろう、さっき起きたばかりのレンも寝ている。
「俺も疲れているので、今日はもう寝させてもらいます」
「はい、私も教会の横の家に住んでいますので、何かあれば言って下さい。」
おやすみと互いに挨拶を交わすとマリアは自宅のほうに向かった。
部屋に入り布団を敷く。
布団というより筵だ。
肌触りはあまりよくない。
重ねて筵を敷き、その上に上着を敷く。
子供達を抱えてきてその上に寝かせる。
あどけない寝顔である。
こんな小さな体でよく頑張ったなと思う。
これからどうなるか俺にもわからないが、今はゆっくりと寝てほしい。
「2人ともおやすみ」
子供達に声をかけると、俺もその近くに筵を敷き横になる。
寝心地は悪かったが、疲れているせいかすぐに眠りに落ちるのが分かった。




