教会への来訪者
昨日はラビーのせいであれからマリアに白い目で見られてしまった。
聞いていた俺も悪いのだが、聞こえてくるものはしょうがない。
俺だって男なのだ、聞こえてきたら聞いてしまう。
仕事前にギルドでラビーに会う。
「またお風呂入りに行きますね」
入りに来るのはいいのだが、次は小さい声で話してくれと伝える。
「え~、いいじゃないですか」
「マリアの目が怖いんだよ」
「あはは~、別に嫌われてはないですよ」
嫌われていなくてもあの目は精神的につらい。
仕事が終わるとまた風呂の話になる。
ついにレオスの家の風呂が完成したそうだ。
「奥さんもチビも大喜びだ」
「気に入ってもらえたならよかったです」
話を聞いていたのかゴリンがやってくる。
「なんの話っすか?」
レオスがゴリンに自慢する。
「まじっすか! いいっすね。俺も入りたいっす」
「わかった、わかった。近いうちに入らせてやる」
レオスがしぶしぶといった感じでゴリンと風呂の約束をする。
「僕も入ってみたい」
それを聞いていたベアスもレオスに頼む。
「1人も2人も変わらんから、まとめて入りに来い」
それを聞いてベアスも嬉しそうだ。
教会の風呂小屋を作るのを手伝ってくれたので、2人とも風呂の存在は知っていた。
しかし、教会で風呂に入ることを遠慮してか入浴の機会がなかったのだ。
レオスの家ならいいという理屈はよくわからないが、2人ともレオスの家にご飯を食べに行ったりするので気軽にお願いできるのだろう。
レオスは言葉使いはきついが面倒見のいい人だ。
奥さんには会ったことはないがレオスの態度からするといい人なんだろう。
その後、話が盛り上がったせいかいつもりよだいぶ遅い帰宅となる。
職場の人数も少ないし、同じ苦労をしているせいか短い期間だがすっかりみんなとも仲良くなれたな。
教会に戻ると、教会の前でマリアと燃えた廃村で会った男が話している。
男の方はマリアに対して強い口調で何かを訴えている。
今にもマリアに襲い掛からんとする勢いだ。
危険を感じすぐさまマリアの下に駆けつける。
「マリア、大丈夫ですか?」
男とマリアの間に割って入る。
「セイゾーさん、この方が子供達を出せと言ってきて」
どうやらマリアはその要求を拒んでいたようだ。
「あなたは、燃える廃村から逃げてた人ですよね? あの子達との関係は?」
「あんたか、あんたには関係がない話だ」
男は俺のことを覚えていたようだ。
関係を言えないという事と、この態度から察するに親や親族ではなさそうだ。
「関係なくはないです。子供は俺と暮らしているんだ」
「ああん? あんたほ教会に住んでるだけだろ? 子供は教会預かりにはなっていないなら俺が引き取ってやるよ」
教会に俺が住んでいることは知っているようだ。
「子供達は俺が保護して、俺と教会に住んでいるんだ」
男が俺を信じていないのか、マリアに顔を向ける。
「はい、間違いありません。だから何度も説明しているじゃないですか」
この男はマリアからも同じ説明を受けていたようだ。
「たとえ誰も保護していなくても、あんたに渡す理由はないだろ」
この男はあの状況から子供を置いて逃げたのだ。
状況から恐怖で1人で逃げ出すと考えられなくもないが、今更子供達を引き取りに来るというのもおかしい。
「あるんだよ、やつが見張ってんだよ」
「やつ?」
「お前も見ただろうが! あの化物だよ」
意味がわからない。
子供達と化物に何の関係があるのだろうか。
たしかにあの現場に子供達はいた。
俺は最初あの廃村が村だと思っていた。
でもそれは違った。
この男は親でもなければ村人でもない。
子供達は親は出かけていなくなったと言っていた。
子供と親はあの廃村にいたのだ。
断片的な情報が頭に浮かんできて、何かが分かりそうな気がした。
分かりそうになっていた時、ふと門番の言葉を思い出した。
この町に逃げてきたのは2人組と言っていたことだ。
酒場の帰りにこの男と話していた店員の女、2人は何かを企むような会話をしていなかっただろうか?
「マリア! 子供達は!?」
「え? 部屋にいるのでは?」
急に大声を出した俺に驚いた様子のマリア。
嫌な予感がする。
急いで部屋に向かう。
どうか杞憂であってほしい。
その時、教会の裏から物音が聞こえた。
音が聞こえてすぐに目的の場所に到着した俺は予想もしていない光景を目にする。
「た、助けて……」
助けを求める酒場の女店員がいた。
そこまでは予想していた。
しかし、その女の目の前には牛ほどの大きさがあるのではないかという黒い犬がいた。
赤い瞳は怒りに満ちているのか、まるで燃えているようにも見える。
毛を逆立て、口からは炎が漏れており、抑えきれない憤怒が溢れだしているようだ。
間違いない、あの廃村で見た化物だ。
あの化物はこの犬だったのだ。
ただ、その姿には見覚えがあった、大きさは違うし、姿形は異なるがあの犬だ。
頭から背中にかけての白いラインもある。
俺が死ぬ直前に助けようとした犬だ。
怪我をしているのか前足には痛々しい傷が目立つ。
幸い子供達は部屋から出てきていない。
怖がって出て来れないのかもしれない。
「こ、これは一体!?」
駆けつけたマリアが状況が理解できず立ちすくんでいる。
「な、なんでやつがここにいるんだ」
続いて来た男は犬の姿を見て慄いている。
女は男の姿を見つけると腰が抜けているのか尻餅をつきながら後ずさる。
それを見た犬は女めがけて飛び掛る。
その大きな口を開き、女の首を噛み千切らんばかりの勢いで迫る。
「やめろ!」
俺は叫んだ。
俺の言葉が通じたかはわからない。
犬の牙は女の首に届く前に止まった。
「殺すんじゃない」
犬が動かないとわかると男は女を連れて逃げ出す。
男達が逃げるのを確認すると犬は町の外へと走っていく。
「マリア、子供達を頼みます」
「え? あ、はい。セイゾーさんはどこへ?」
俺はマリアの問いに答えぬまま犬を追った。
追いつけるかはわからない。
でもあの犬が、俺が死ぬ前に助けようとした犬なら難しいことではない気がした。




