黒い犬
レンの風邪もすぐに治った。
子供だから回復力も早いのだろう。
しかし、急に熱を出したりするので、今後はもう少し子供達の体調に関しては気をつけないといけない。
寝床の藁を交換しようとラビーの家を訪ねると、ラビーの父親が昨夜、黒い犬を見たと話をしてくれた。
「黒くてでかい犬だっただ」
ラビーの父親は手を大きく広げる。
「牛くらいはあっただ」
「夜だったんですよね? それ犬なんですか?」
藁を縛りながら話を聞く。
「大きさは違うけど、あれは犬だ。昨日は月が出てからそれくらいはわかるだ」
「例のでかい化物でしょうか?」
でかい化物の噂は以前ギルドで聞いた。
そんなに大きいなら見間違えても不思議ではない。
「たぶんそうだ、でも家畜は襲ってなかっただ」
「え? 何してたんですか?」
噂では家畜を襲ってるような内容だった気がする。
「家畜を襲おうとした猿を追いかけてただ」
「猿だったんですか?」
ラビーのおじさんはそういうと他の場所に行き、何かを連れて戻ってくる。
「こいつだ」
おじさんは猿の襟首を捕まえて持ってくる。
犬に襲われて弱っているのか元気がない。
「ウキー」
猿が弱々しく鳴く。
見たことがあると思ったら、この世界に来たときに会った猿に似ている。
個体は違うのかもしれないが種類は同じだろう。
モヒカンが特徴的だ。
「それが猿なんですか?」
「モンスターだけどみんな猿って言ってるだ」
見た目は猿なので納得する。
「そいつどうするんですか?」
「反省させたら林に返すだ」
頭がいいモンスターらしく躾もできるようだ。
前に林の中で会った時は生意気だったのに、今はなかなかしおらしい。
「この猿が牛や馬を襲えるんですかね」
またおじさんがどこかに行き何かを連れてくる。
「こいつだ」
なんか黒くて丸い毛玉を持っている。
こいつだと言われても分からない。
「それは?」
おじさんに尋ねると、おじさんはそれをこちらに渡してくる。
「うわ、動いた」
持ってみると温かくてもぞもぞ動く。
「そっちはおしりだ」
そう言われて毛玉を反対に向ける。
そこにはつぶらな瞳があった。
「なんか可愛いですね」
「食べるとうまいだ」
その返しはどうなんだろう。
目の前の可愛い毛玉を見て食用と言われても食べる気が起きない。
「こいつ、食べるんですか?」
俺だって肉を食べるので家畜を殺すなとは言えない。
「そいつは毛を刈る目的で飼ってるだ」
おじさんはそう言うとこの生き物の話をしててくれた。
この毛玉はモンスターでこの周辺にも生息しているらしい。
肉が食用に向いているし、増えるのが早く数が多いので狩りの対象になりやすい。
林に生息している猿もこの毛玉をよく狩るそうだ。
猿は野生の毛玉を狩るよりも柵に入って逃げれない毛玉を狩る方が楽だと知って襲ってきたのだろうと説明された。
いつの間にか手の中で毛玉が寝ている。
こんなモンスターが野生で生きられるのか疑問だ。
「犬はこいつを食べなかったんですかね?」
「見向きもしてなかっただ」
うまいのなら食べそうな気がする。
「おらに気付くと逃げて行っただ」
野生の動物なら人を警戒するのは不思議ではない。
その犬が動物なのかモンスターなのかは分からない。
そもそもこの世界の動物とモンスターの違いすら分かっていない。
「あの赤い瞳は綺麗だっただ」
思い出したようにおじさんが話す。
赤い瞳、その言葉を聞くとあの燃えた廃村を思いだす。
炎の中からこちらを見つめていた瞳、その犬はあの化物なのだろうか。
手の中にいる毛玉をおじさんに返すと藁を持って教会に帰る。
教会までの帰り道、あの瞳で見つめられた光景が頭の中から離れなかった。




