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19/31

酒場

 ハナは翌日にはすっかり元気になっていた。

 念のため安静にさせていたが、数日たった今では元気に外で遊んでいる。


 今日仕事に行くと、リヤカーが3台に増えていた。

 どうしたのかとレオスに聞く。

「おう、他のやつも使いたがってな」

 たしか、リヤカーを引くのは嫌がっていたはず。

「それがよ、おまえがあれだけ仕事をするのを見て気持ちが変わったらしい」

「まあ、手で運ぶより楽ですしね」

 同じ仕事をするなら楽な方がいい。

 楽して結果がよくなるならなおさらだ。

「これで、住民から苦情もなくなるぜ」

 レオスは嬉しそうだ。

 人が少なくなって苦情がくるくらい忙しかったそうだ。

「お前もすっかり慣れて来たし、今日は飲みに行くか」

「マリアや子供達に許可をもらえたら参加しますよ」

 この世界に来てから初めての酒だな。

「なんだよ、尻に敷かれてんのか?」

「レオスさんはいいんですか?」

「もちろん許可を取る」

 尻に敷かれているのはレオスの方だった。


 今日は昼過ぎにはみんな仕事を終わらせ酒場に行くことにする。

 この町では農家が多く、朝早くから仕事を始めて早めに終わる人が多いので、早い時間から酒場も空いている。

 俺は許可をもらいに教会に戻る。


 マリアに事情を説明する。

「あら、わざわざ許可なんて取らなくてもいいんですよ?」

「夕飯や子供達のことがあるので」

 夕飯を作ってもらっている身分だ、無駄にはしたくない。

「はい、わかりました。2人には私から言っておきますね」

「いいんですか?」

 マリアは少し考えるような仕草をする。

「だって、絶対付いて行くって言いますよ」

「あぁ、そうですね」

 容易に想像ができる。

 マリアにお礼を言うと酒場に行く。


 酒場はギルドの横にあって分かりやすかった。

 まだ日も明るいが酒場に入る人の姿が確認できる。

 町に来た時に出会った門番と同じような格好の人だった。

 兵士だと思うのだが、こんな時間から酒場に来るものだろうか。

 そんな事を考えているとレオスがやってきた。

 仕事仲間のベアスとゴリンもいる。

 2人も獣人で、がたいもいい。

「今酒場に入って行くやつらを見てたが知り合いか?」

 俺が見ていたのが気になったようだ。

「いえ、兵士なんですかね? こんな明るいうちから酒場に来るんだなと思って」

 隠す必要もないので思ったことをそのままレオスに伝える。

「ありゃ、自警団だ。こんな時間から酒を飲むのは俺らも変わらないだろ」

「自警団ですか?」

「ああ、俺達も所属しているんだが、みんなで交代で門番したり町を見回ったりするんだよ。平和っていっても弱いモンスターはいるしな。犯罪だって少ないが、ないわけじゃない」

 自警団が警察みたいなものなんだろう。

 犯罪者が出た場合は領主の所に連れて行かれるらしい。


 店に入ると空いた席にレオスたちが座る。

 案内とかはないのだろう。

 俺もそれに習って同じ席に座る。

「ねえちゃん、エールを4つ。 あとなんか適当に作ってくれ」

 レオスが店員に声をかける。

 なんとも豪快な注文方法だ。

 なんだかレオスらしい。 

 酒はすぐに運ばれてきた。

 乾杯と言い合い4人でコップをぶつける。

 グラスではなかったが、コツンと木のコップがぶつかる音はグラスにはない味がある。

 エールを一口飲むとフルーティーな味が口に広がり悪くない。

 冷えていたらもっとうまかっただろう。

「セイゾーのおかげで仕事がなんとかなりそうだ」

 レオスがエールをあおると口火を切る。

「すごく助かってる」

 そう言うのはベアス。

 口数は少ないが力持ちのいい人だ。

「マジ助かってるっす。楽して稼げるっす」

 なんか後輩みたいなしゃべり方をしているのはゴリンだ。

 これは口癖らしく俺より先輩で、もちろん力持ち。

「いえいえ、作ったのはレオスさんです」

 食事が来るまで時間がかかりそうなので、前から思っていた獣人について聞いてみることにした。


「みなさんは何の獣人なんですか?」

「あ?」

 失礼な事を聞いてしまっただろうか。

「すみません、獣人の事に詳しくなくて、失礼だったでしょうか」

「ちがうちがう、何の獣人と聞かれても、なあ?」

 レオスが他の2人の顔を見る。

 他の2人も頷いている。

 話を聞くと獣人達は違う獣人と結婚して血が混じってしまい特になにかの動物の獣人ってことはないらしい。

 ある程度なにかの動物に近いような姿にはなるが、ただ似ているだけという。

 もちろん、体の特長によっては力が強かったり、耳がよかったり、足が速かったりする。

「お前そんなこと気にしてたのか?」

「気になってしまって」

「やっぱお前はおかしいやつだ」

 そう言って3人は笑っていた。

 ちなみにレオスはライオンっぽいしい、ベアスは熊っぽい、ゴリンはゴリラっぽい。


「あ、それでも珍しいのがいるっすよ」

「珍しい?」

 ゴリンが思い出したように言う。

「自分は見たことないっすけど、先祖の血を濃くひいた獣人は獣になれるとか」

「ありゃ噂だろ」

「僕も聞いたことしかない」

 それが本当ならすごい話だ。

「いるっすよ。セーイス教会の聖典にも載ってるらしいっすよ」

「お前読んだのかよ」

「噂で聞いただけっす」

 話が胡散臭くなってきた。

「僕が聞いた話でもそうだった」

「それは信憑性がありそうだな」

 ベアスが言うとレオスも信じる。

「なんなんっすか! ひどいっす」

 ゴリンがやけになってエールを一気に飲みだす。


「そういえば、さっきの店員が例の女っすかね」

 例の女というのは以前ギルドで聞いた新しく雇われた女性だろうか。

「そうだろうよ、見たことないしな」

「顔はいいけどちょっと細すぎるっすね」

「僕も細い人はちょっと」

 確かに少しスレンダーではあったが、体格のいい獣人からしたら細くなってしまうのか。

 色々な話で盛り上がっていると料理が運ばれてくる。

 店員は手際よく料理を並べる。


「あなたが教会に住んでる人?」

 突然店員に話しかけられた。

「ええ、そうですけど」

「あ、気にしないで。最近教会に住みだした人がいるって噂で聞いて気になっただけだから」

 そう言って店員は他のテーブルに行く。

「なんだ? 知り合いか?」

「セイゾーは手が早いっすね」

 レオスとゴリンには会話が聞こえなかったようだ。

「いや、初めて会ったんですよ」

「気になっただけって言ってた」

 ベアスは話が聞こえていたようだ。

「お前には3人もいい女がいるもんな」

 レオスが変な事を言い出す。

 3人ってマリアはわかるが、レンとハナまで数に入れてるようだ。

「まじっすか? ずるいっす」

「女たらしだね」

 ゴリンとベアスが話に食いつく。  

「手は出したんっすか?」

「出せないですよ」

 面倒だが少し事情を説明する。


「子供だったんすか」

「大変だったんだね」

「おい、マリアは子供じゃないだろ」

 レオスが余計な事を言う。

「まじっすか? マリアって教会のマリアっすよね」

「ゴリン知ってるの?」

 ベアスは知らないようでゴリンに尋ねる。

「可愛い子っすね。 ウェーブのかかった髪と優しい微笑みが魅力的っす。もう少し肉付きがよければ狙ってたっす」

 獣人は相手の肉付きを気にするのだろうか。

 ふとベアスが注文した飲み物が気になって尋ねる。

「ああ、これ? ヨーグルトだよ。僕はこれ好きなんだ」

 ヨーグルトがあったのか。

 どうやら珍しいものではないらしい。

 先に知っていればハナが風邪をひいたときに食べさせてあげれたのにな。


 料理がなくなり空のカップも増えた。

 まだ日暮れ頃だが、飲み始めたのが早かったので解散した。

 俺はみんなとは帰る方向が違ったので1人で帰る。

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