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風邪

 教会での生活にもすっかり慣れてきた。

 給料もかなり稼げるようになったので教会には多めにお金を入れている。

 教会を出て行くべきか迷った俺にマリアが言う。

「他に部屋を使う人もいませんし、住んでもらってかまいませんよ」

 さすがにそういう訳にもいかないだろうと言う。

「離れたくないんです」

「え?」

「寂しいじゃないですか」

 マリアが潤んだ瞳でこちらを見る。

「私からあの子達を取り上げないでください」

 うん、わかっていた。

「あ、もちろんセイゾーさんもいてほしいですよ」

 完全におまけである。

「広い教会に1人は寂しいんですよ」

 先ほどの瞳は嘘のように明るい。

「もう、今の生活に慣れちゃいましたから」

 そう言って祈る時のような手をする。

「私を置いていかないでください」

 その笑顔とは裏腹に、瞳にはどこか寂しさを感じた。

「あの2人もここを気に入ってますし、マリアがよければここに厄介になります」

 ここで断れるほど鬼ににはれない。

「はい!」

 寂しい眼差しが嘘のような満面の笑みだった。


 あくる日、朝起きるとハナの様子がおかしい。

 フラフラしており、食欲もない。

 顔も火照っている。

 もしやと思い額に手を当ててみる。

 熱い、風邪をひいてるみたいだ。

 すぐに部屋に寝かせに行く。

「後は私がやりますから」

 慌てる俺にマリアが言う。

「セイゾーさんは仕事に行ってください」

 追い出されてしまった。

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

 レンもいつもと違う姉を心配そうにしている。

「ただの風邪だろうけど、心配だよな」

「うん」

 レンも元気がない。

「帰ったらハナが元気になるように、なにかお見舞いを買いに行くか?」

「おみまい?」

 お見舞いじゃわかりにくいか。

「おいしい果物を買って早く元気になってもらおう」

「うん! いくー」

 レンと約束し仕事に向かう。


 思いのほか焦っていたのだろう。

 いつもより少し早く仕事が終わる。

 無意識に教会に帰る足も速まる。

 レンは教会の外で待っていた。

 俺の姿を見つけると駆け足で寄ってくる。

「おかえりー、はやくいこ」

 レンも落ち着かなかったのだろう。

 レンを連れて町の広場に向かう。

 いつも食事はマリアが作ってくれるのであまり食材を買ったりすることはない。

 果物が売っている場所へ行くと見たことがある果物が多い。

 もちろん中には見たこともないような果物もある。

「このリンゴをもらえますか?」

「はい、2つで銅貨1枚になります」

 安い。

 買ったリンゴをその場でかじる。

 味は元の世界と変わらない。

 リンゴで話が通じているのだから予想通りだ。

「わたしもー」

 レンにかじったリンゴを渡す。

 両手でしっかりと握るとリンゴにかじりつく。

「あまーい」

 レンが気に入ってるならハナも大丈夫だろう。

 もう2つリンゴを、あと桃やバナナも買う。

「全部で銅貨7枚になります」

 バナナも安かったが、桃はなかなか高かった。


 レンが食べたそうにしていたが夕飯が食べれなくなるからとバナナを1本だけ渡した。

「これも、おいしー」

 バナナも気に入っている。

「それはー?」

「桃だよ」

 桃も狙っているみたいだ。

「食べたーい」

「これはハナが元気になるように、ハナに食べさせてあげようね」

「それたべたら、おねえちゃんげんきになる?」

 もちろん桃を食べたからといって元気になるわけではない。

「元気になるための力が沸くかな」

「おー、すごいね」

 変な事を教えてしまった気がする。

「ならね、がまんするー」

「レンはえらいな」

 頭を撫でてやる。

「はやく、げんきになってほしい」

 ハナがいなくて寂しいのだろう。

 いつもはハナと繋いでいる手が俺の手を握ってきた。

「て、つないでいい?」

 もちろんと頷くとレンが握った手を握り返す。

「えへへー」

 レンと手を繋いで教会へ帰ろう。

 おっと、大事なものを買い忘れていたので、雑貨屋に寄ってから教会へ帰った。


 部屋に入るとハナは寝ていた。

 少し息が荒い。

 マリアが額に乗せた濡らしたタオルの交換をしている。

 そういえば風邪は魔法で治せないのかとマリアに尋ねる。

「なんでも魔法で治せばいいわけではないですよ」

 体に抵抗力をつけるため自力で治せる病気には魔法は使わないと説明してくれる。

「それは?」

 マリアが俺の持っている果物を見る。

「ハナにです。台所借りていいですか?」

「ええ」

 マリアの許可を得て台所へ行く。

 レンも一緒だ。


「なにするのー?」

「ハナのためにリンゴをするんだ」

「する?」

 先ほど雑貨屋で買ったものを見せる。

「それはー?」

「これにリンゴをゴシゴシするんだ」

 おろし器が欲しかったがなかった。

 雑貨屋が変わりにすり鉢みたいな器を出してくれた。

 薬草をすり潰したりするのに使われるらしい。

 用途は違うが、やることは同じだ。

 レンにすり鉢を渡す。

「おー、ざらざらしてる」

 俺がリンゴを切ってる間にレンにすり鉢を洗ってもらう。

「きれい、きれい、きれーいにしましょ」

 なんか歌いだした。

「その歌はなんなの?」

「あのね、マリアがうたってた」

 それを聞いて覚えたのか。

 レンの歌を聴きながらリンゴを切った。

 ついでにニンジンも少し切っておく。

「えー、それもするの?」

「少しだけな」

 レンが嫌そうな顔をしている。

 嫌いではないが自分からはニンジンを食べようとしない。

 細かく切ったリンゴとニンジンをすり鉢に入れる。


 すりこぎ、この世界ではすり棒と言われていた。

 まあ、すり鉢でするのに使う棒なのだからそっちの方がわかりやすい。

 俺も大人になるまですりこぎの名前を知らなかった。

 レンがやりたそうに見ている。

「やってみるか?」

「やるー」

 こらこら、両手ですりこぎを回すとすり鉢が動く。

 仕方ないのですり鉢は俺が固定しておく。

 するのに力がいるのか少しするとレンに疲れが見えてきた。

「変わろうか?」

「おねえちゃんのため、がんばる」

 レン、頑張れ。

 リンゴはうまくすれたのだがニンジンは硬いせいかうまくすれなかった。

 もう少し小さくしてからの方がよかったのかもしれない。

 取り出してみじん切りにして再びする。

 レンは今まで頑張ったので俺の番だ。

 小さくしたのがよかったのか今度はうまくいった。

 完成したすりおろしリンゴを器にうつす。

 スプーンですくう。


「レン、あーん」

「あーん」

 大きなお口だ。

 その口に作ったものを入れる。

「おいしい!」

 レンがもう一度口をあける。

「ハナのだからこれが最後だよ?」

 もう一口だけあげた。

 まだ食べたそうにしていたのでまた作る事を約束した。

 念のためバナナもすっておく。

 食べやすいに越したことはない。

 少し過保護すぎるかな?

 もちろんすりおろしたバナナもレンが味見をした。


 完成品を持ってハナの下へいく。

 ハナは起きているようだ。

「それは?」

 マリアが不思議そうに器の中を見る。

「マリア、あーん」

「え? え? あ、あーん」

 マリアの口の中にすりおろしリンゴを入れる。

「あ、おいしいです」

 レンに食べさせた方法でマリアにも食べさせてしまった。

「もう……、自分で食べられます」

 恥ずかしそうにしている。

「まあまあ、これなら消化にいいですよね?」

「そうですね。初めて食べました。セイゾーさんが考えたんですか?」

 感心しているマリア。

「まさか、俺も教わっただけですよ」

 元の世界では珍しい物ではない。

 そんな様子をハナがぼんやり見ている。

 ハナのために作ったのだから、ハナに食べさせなくてはいけない。


「ハナ、食べられそうか?」

「うん……」

 少量をすくい口に持っていく。

「ほら、あーん」

「あーん……」

 ゆっくりと食べている。

「あ……おいしい」

「おねえちゃん、あたしもつくった」

 レンが心配そうにハナの横にいる。

「レン……ありがとう」

「うん、げんきになってね」

 その後レンもハナに食べさせたいと言い出したり、マリアがそれを見て私もハナちゃんに食べさせたいと言ったり病人の前で賑やかだった。

 それをハナはなんだか嬉しそうに見ていた。

 今日は俺がハナと寝て、レンはマリアと寝ることになった。

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