謎の女
今日も一仕事を終え報告のためギルドへ行く。
中に入るとラビーが嬉しそうにこちらを見ている。
何かあったのか?
「聞きましたよー。お風呂。いいですねー」
昨日の今日なのに情報が早すぎる。
「あー、私も入りたいなー」
マリアに聞いたのだろう。
マリアの友人だし別に断る理由はない。
「入りにくる? もちろんマリアに許可を取ってからだけど」
「え? いいんですか! マリアには許可は取ってあります」
なら俺に聞かなくてもいい気がする。
「セイゾーさん達が作ったんでしょ?」
「俺はほとんど何もしてないけどね」
肝心な風呂釜を作ってくれたのドンだ。
「男ってバカですよね」
「いきなりだな」
急にバカと言われてしまった。
「思い立ったからってすぐ作ります? それも大人が何人も集まって」
風呂に入りたかったのだから仕様がない。
「マリアに聞きましたよ。みんなすごく楽しそうにしてたって」
反論できない。
男なんて大人になってもそんなものだ。
ラビーに仕事の報告は済ませて教会に戻ることにする。
教会の前まで戻ると、なにやら教会を覗く人がいる。
黒くて薄いフードのついた外套を羽織っている。
フードを目深にかぶり口元も布で覆っている。
怪しさ満点だ。
どこかの殺し屋と言われても納得してしまいそうだ。
それでも、隠しきれていない胸のラインや美しい長い黒髪から女性だということがわかる。
意を決して話しかける。
「教会に何か用ですか?」
俺が近づいてきていたのがわかっていたのか驚いた様子はない。
「いや、教会に用はない」
「でも、中を覗いていたように見えたんですが?」
女がこちらを向いた。
話し難かったのか口元の布を下にずらす。
背は俺より少し低いくらいで、近づいたことで外套でも隠しきれない女性らしさが際立つ。
目深にかぶったフードのせいで目元はよく見えないが、肌の綺麗さや顔のライン等から美しい女性であることが想像できた。
「ただ、気になっただけだ」
「何が気になったんです?」
最近の悪い噂が思い出される。
「私はもう行く」
そう言うと女性は早足に去っていった。
怪しすぎる。
不安な気持ちが胸の中を支配するかのようだ。
顔ははっきりとはわからなかったが忘れないようにしよう。
教会に入ると今日はマリアと子供達がボール遊びをしていた。
マリアが投げるボールを子供達が順番に取っていた。
しばらく観察する。
マリアの顔はまだニコニコと余裕がありそうだ。
子供達はもっと元気そうである。
投げる回数が増えていく。
マリアの笑顔に疲れが見える。
子供達はまだ元気そうだ。
ボール投げはまだまだ終わらない。
マリアが笑顔が保てなくなりそうだ。
さすがに可哀相になり話しかける。
「ただいま」
「おかえりー」
「おかえり……」
子供達が疲れなんてないような明るい笑顔で出迎えてくれた。
マリアは後ろで息を整えている。
「おかえりなさい。見てましたよね?」
「え? なにがですか?」
まずい気がする。
「先ほどから見てましたよね?」
「楽しそうにしてるなと」
決して嘘ではない。
「ひどいです。もう少し早く助けてください」
「あ、はい。すみません」
限界だったようだ。
「でも楽しかったです」
そう言ってマリアが笑った。
子供達が続きをしようとマリアにボールを渡す。
マリアが無言で俺にそれを手渡す。
笑顔のまま子供達の頭を撫でる。
「少し早いけど夕食の準備しちゃいますね」
逃げていった。
残された俺は子供達の遊んでという眼差しに勝てず夕食まで遊んだ。




