風呂
この世界に来て月日が流れた。といっても1月位なのだが。
風呂に入りたい。
この世界にも風呂はあるらしいがこの町にはない。
異世界なのだ魔法でどうにかならないかとは思うが、俺にそんなもの使えない。
魔法が使えるマリアに聞いてもこの町にはほとんどいないらしい。
マリアだって癒しの魔法しか使えないと言っていた。
ならどうするか、作るしかない。
俺が作れるのか、ドラム缶風呂みたいな物なら可能だがドラム缶がない。
大きな鍋は売っていたがさすがにシュールすぎる。
それに風呂にするには大きさが足らない気がする。
実家にあった風呂釜を思い浮かべる。
実家ではいまだにあの風呂釜が現役だ。
仕組みを詳しくは知らないが、円柱を横にした釜の中にU時のパイプが入っており、そのU字が風呂に繋がっている。
U字の中の水が熱っせられると上に流れる対流が起こる。
だから風呂の上だけ熱くなるのでよくかき混ぜていた記憶がある。
マリアにお風呂を作りたいと相談する。
「それは私も使っていいんですか?」
「もちろんです」
「ならいいです」
即答だった。
以前からマリアに丁寧語を使わずに話してと言われているが、マリアが丁寧に話してくるせいでなかなか難しい。
職場でレオスに相談する。
「また変なこと考えてるな。お湯を桶に入れるんじゃ駄目なのか?」
「それは大変ですから。それにぬるくなったら終わりですし」
自分だけが使うならそれだけでもよかった。
「なるほどな。でも俺じゃあ無理だな」
「無理ですか」
「俺は鍛冶屋じゃないんだぞ?」
「ですよね」
レオスは少し考える。
「協力してやる。その代わり俺も作ってみたい」
聞いてもいないのに奥さんとの結婚記念日だの、子供の誕生日だのでプレゼントしたいと長々と話された。
「仕事は今日も半日だろ? それが終わったら腕のいい鍛冶屋のとこにいこう」
俺はいいが、レオスは仕事なのではないのだろうか?
細かいことは気にするなと言われた。
仕事が終わり鍛冶屋へ。
鍛冶屋は職場の近くにあった。
どうもこの町の北側は工業的な分野の建物が多い。
鍛冶屋なので剣を作ったりしているのかと想像していたら違った。
生活に使う鉄製品や農具が主らしい。
レオスに続いて中に入る。
「レオスか、どうした? 荷車でも壊れたか?」
「いや、それは大丈夫だ」
レオスが1人で作ったのかと思ったがこの鍛冶屋も協力してくれたようだ。
「はじめまして」
自己紹介をする。
「俺はドンだ。見ての通りドワーフだ」
ドワーフだったのか。
獣人もいるのだから驚くことはないが、背はそこまで低くない。
筋骨隆々の髭をはやした小さいおじさんといった感じだ。
言われなければわからなかった。
「それで何のようだ?」
レオスとともに風呂釜の説明をする。
「風呂のためそこまでするのか?」
風呂の文化がないからわからないのだろう。
相手がドワーフなので酒と風呂を絡めてみる。
「風呂で飲む酒は格別ですよ?」
「すぐに取り掛かろう」
さすがドワーフだ。
お風呂で酒といえば日本酒なのだろうが、好きな人は他の酒でも大丈夫と聞くし問題ないだろう。
ドンが紙を持ってきた。これに簡単な図面を描いてほしいと言う。
構造はそう難しくないので手早く描いた。
「おまえ、すごいな」
「俺も荷車のときそう思ったぞ」
この世界では一般の町民が図面を描いたりすることはまずないらしい。
「なんで風呂釜で水を温めると上に流れるんだ? そこだけ熱くなるんじゃないのか?」
対流はわからないようだ。密度や比重の説明をしてもまずそうなので理由を考える。
「不思議現象です」
「不思議現象?」
「昔住んでいた町で温めた水が冷たい水の上にいくことをたまたま知っただけです」
「それは不思議だな」
「はい、だから不思議現象です」
元の世界なら怒られそうな説明だ。
「そう難しくないが、大きさはこれより大きくなるぞ?」
「構わないですよ。いくらになりますか?」
ドンが考え込む。
「俺も欲しいからな。材料や技術は提供してやる」
無料になってしまった。
風呂用のでかい桶も作ってくれることになりさすがにそれは払った。
材料代だけで銅貨40枚とかなり格安で済んでしまった。
薪も鍛冶屋で使うものを売ってもらえる。
数日後、荷車に詰まれた風呂釜と桶、薪が到着した。
「でかーい」
「すごく……おおきい」
子供達は大きい風呂桶を見て喜んでいる。
「お風呂の桶はあんなに大きいですか?」
マリアも驚いていた。
「ゆっくり浸かれるし、一緒にも入れるよ」
子供は2人で入るはずだ。
「私とですか?」
「え!? 違いますよ。子供達とですよ!」
またマリアがすごい事を言い出した。
「でも、私も一緒に入れますね」
「本気ですか?」
まさか、本気なのだろうか。
「私が子供達と入れます」
「そうですよね」
「期待しました?」
「いえ、わかっていました」
からかわれてばかりだ。
「わたし、セイゾーとはいったげる」
「わたしも……いいよ」
優しいのは子供達だけだな。
「おい、遊んでないで手伝え」
到着したドンに白い目で見られる。
レオスも一緒に来てくたようだ。
教会の裏に案内する。
水場のすぐ近くで自分達が使ってる部屋とマリアの家の間くらいに風呂を入れる小屋を作っておいた。 もちろん脱衣所も完備だ。
外側に風呂釜をおくのでそこにも雨が当たらないように屋根を設置。
井戸から汲み上げた水をすぐに風呂に入れれるように筧も設置している。
1人で作ったわけではない。
話を聞いて面白がったレオスや職場の仲間が手伝ってくれた。
こういうDIY的な事が好きな男がいるのはこちらの世界でも変わらないらしい。
「こんなもんでいいか」
ドンが手際よく設置してくれた。
こんなもん、と言うが素人目には完璧すぎるように見える。
U字のパイプと風呂桶の接続部はゴムのようなコーキングで水漏れしないようになっていた。
もちろん熱に強い素材らしい。
風呂の桶は排水ができるように、排水の穴とそれを塞ぐゴムのような蓋もついている。
みんなで水を入れて早速使ってみよう。
試運転は何度か行ったようで構造は問題なくできているとの事、実際に風呂として沸かすのは初めてらしい。
水が溜まった。
水を汲み上げるのは大変だったが、水を持って風呂に入れに行かなくていい構造にしたのでなんとかなりそうだ。
風呂釜を炊き出すと子供達が近寄ってくる。
燃えている火を見てわくわくしたような顔だ。
気持ちはわかる。
俺も小さい頃は風呂釜を焚いている時、中を覗いたりしていた。
「やるか?」
子供達に聞いてみる。
「やりたーい」
「わたしも……やる」
薪を渡す。
「火傷しないように気をつけろよ」
「うん、まかせてー」
「やけど……しない」
初めてやるのにこの自信はどこからくるのだろうか。
風呂が無事に沸いた。
感動である。
まさか自分が風呂を作るとは思わなかった。
「2人とも入っていいよ」
一番風呂は子供達に譲ってあげよう。
「セイゾー、いっしょにはいる」
「さっき……いった」
まさか本当だったのか。
「マリアもー」
「みんなで……はいる」
さすがにそれはまずい。
「あらあら、どうしましょう」
「さすがに断ってください」
ドン達がまた白い目で見ている。
風呂が完成したのを確認できたので帰るといって帰っていった。
ニヤニヤしながら頑張れよと言われたが何を頑張れというのだろうか。
子供達と3人で風呂に入る事になった。
パイプに触れると火傷してしまうので、その注意のためにも大きくなるまでは大人が一緒の方がいいかもしれない。
2人の体にお湯をかけ手拭で優しくこする。
本当は体を温めてからの方がいいのだが、自分達だけが使うわけではないので体を綺麗にしてから入る。
「きもちいいー」
「からだ……ポカポカ」
2人も気に入ってくれたようだ。
頑張って作ってよかった。
風呂上りのマリアが部屋に来てお礼を言ってきた。
「ありがとうございます。お風呂、気に入りました」
湯上りのマリアが妙に色っぽい。
ほんのりと上気した肌が、まだ濡れている髪が、湯上り美人という言葉を思い出す。
あまり直視しないでおく。
「つぎは、マリアとはいるー」
「わたしも……」
今日は一緒に入れなかったから次はマリアと入るようだ。
少し羨ましい。
「あらあら、楽しみだわ」
子供達が眠くなるまで4人で話をして眠りについた。




