仕事の効率化
新しい日が昇った。
今日も寝ている時に視線を感じたような気がしたが、慣れない生活で眠りが浅いだけなのかもしれない。
朝の支度を済ませ、ギルドに向かおうとすると子供達が駆け寄って来る。
「いっしょって、いったー」
「いっしょ……いる」
昨夜の言葉がうまく通じていなかったようだ。
一緒っていうのはそういう意味ではなかったのだが。
「一緒にいるよ。でも仕事が終わってからね」
「え~」
「セイゾー……うそつき」
困った、こんな時世の中の親はどうしているのだろうか。
「2人も仕事がありますよ。仕事が終わってから遊びましょうね」
マリアが助け舟を出してくれる。
お互い仕事が終わってから一緒にいることを約束しギルドへ向かう。
ラビーから昨日と同じ仕事を受ける。
そのついでに世間話も兼ねて町の事を聞いておいた。
買い物をする場所などラビーが色々と親切に教えてくれる。
ラビーに礼を言うと昨日の職場に向かう。
職場に歩きながら、運搬の効率的な方法はないか考えた。
あの重さを4つも持てない。
もし一度に多くを運ぶことができれば仕事は楽になるし、空いた時間を子供達と過ごすことができる。
いくつか案は思い浮かんだが、それが可能かどうかレオスに相談しなくてはならない。
「おはようございます」
「おう、おはよう。来てくれたんだな」
レオスは事務所の外にいた。
他にも従業員らしい獣人もいたので挨拶と自己紹介をしておいた。
「さっそく回収に行くか?」
「その前に相談があるんですが、いいですか?」
「おう、かまわないぜ」
先ほど考えていたことをレオスに話した。
「変な事を考えるやつだな」
考えていたのは、使っていない荷車があれば人が引っ張れる程度に小型にして、引っ張るための持ち手を付けてもらうことだった。
簡単にいえばリヤカーだ。
大八車も考えたが、狭い路地などもあり使えそうにない。
「無理ですかね?」
「いや、無理じゃない。ただ荷車を引くやつなんていないからな」
話を聞くと、この世界では荷車は牛や馬が引くものらしい。
牛や馬は農業に使うため飼育している人も多く、荷車を引く動物がいるのにわざわざ自分で引く者もいないという理由には納得できた。
職場の前にある荷車は主に堆肥を運ぶもので、町中で動物にひかして作業するには不便らしい。
「どんな風に作ればいいんだ?」
「簡単ではありますけど、こんな風に」
地面に落ちていた木の枝で図面を描く。
定規など使わないので線はいびつになるが、なるべく全体像や大きさがわかるようする。
口頭での説明も加えながら、桶が8つくらい入る大きさを希望した。
できれば桶に蓋ができるようにしてほしいとも伝える。
「おまえ、絵うまいな」
「そうですか?」
そんなに難しい図面を描いたつもりはないのだが、十分に伝わったようだ。
「それなら今日中にもできる。本当に引っ張るのか?」
俺のことを心配してくれているようだ。
仕事が楽になって給料も増える、時間まで節約できるのだからむしろありがたい。
「空いた時間を子供と過ごしたいですし是非やらせて下さい」
「なんだ? おまえ子供いるのか。うちにもやんちゃなチビがいるんだよ。子供の為なら断れねーな」
レオスはなんだか嬉しそうに言うと、早々に作業に取り掛かった。
俺も着替えを済まし仕事に出る。
仕事を始める時間が昨日より早かったためか、昨日と同じ量を運んでもまだ日が高いうちに仕事を終わらせることができた。
ギルドへ寄ってからの教会への帰り道、昨日飴を買った売店の人に声をかけられる。
「今日は買っていかないのかい?」
毎日買うのもどうなのかと考える。
「サービスで昨日の飴、4つで銅貨1枚にしとくよ」
「違う味なら」
「もちろん大丈夫さ」
結局、昨日とは違う味の飴を買ってしまった。
「ありがとうございましたー」
教会に戻ると子供達が掃除をしていた。
こちらにはまだ気づいていないらしく、一所懸命にゴシゴシと椅子を拭いている。
レンは動きは早いのだが拭き残しがありそうだ。
ハナは動きは遅いが丁寧に拭いている。
これも性格の違いなのだろう。
「あら、おかえりなさい」
後ろからマリアが声をかけてきた。
その声でこちらに気づいたのか子供達が駆け寄って来る。
「セイゾー、おかえりー」
「セイゾー……おかえり」
そのままの勢いで足に抱きついてくる。
雑巾代わりの手拭は置いてきてほしかった。
子供達の口に飴を入れてやる。
「すっぱーい、でもあまーい」
「すっぱい……おいしい」
甘酸っぱいらしい。
今日のも気に入ってくれたようだ。
マリアがニコニコしているのでマリアの口の中にも入れる。
俺の行動が予想外だったのかマリアが少し驚いた顔をしていた。
「甘酸っぱくておいしいです。ありがとうございます」
自分の口の中にも飴を入れる。
飴に何か塗ってあるのか軽い酸味と飴の甘さが口に広がった。
昨日のよりこっちのほうが好みだな。
子供達の掃除が終わると明るいうちに水浴びをすることになった。
この町の住人達は毎日水浴びをしたりする習慣はないらしいが、子供達が水浴びを気に入っている。
たぶん水遊びの感覚なんだろう。
水場で水を汲んでいると、カボチャパンツ一丁になった2人がやってくる。
着替えも買ってあげないとな。
そう思っていると2人は早速水を掛け合っている。
「つめたーい」
「きもちいい……」
レンが俺の方を見る。
「セイゾーもー」
小さい両の手のひらいっぱいに水をすくうと、こっちに水にを掛けてきた。
水の量が少なかったおかげか、あまり濡れてはいない。
「遊んでないで、ちゃんと体を拭きなさい」
手拭で体を拭こうとする。
「まだあそぶー」
「もうすこし……やる」
そういってハナまで水を掛けてきた。
俺はもう職場で浴びたのに。
「悪いやつらめー」
そういって子供達に水を掛けてやる。
「いやー、つめたい」
「セイゾー……かけすぎ」
2人とも楽しそうにはしゃいでいる。
しばらくするとマリアから風邪をひく前にやめなさいと3人で叱られた。
夕食の後マリアを呼んで2人きりになる。
別に密会ではない。
マリアの歳はわからないが、こんな若い子に手は出せない。
「どうしたんですか?」
「これを渡したくて」
布に包んだ銅貨を渡たす。
「そんな、私はこんなに安くありません」
「いやいや、違いますよ」
いきなりこのシスターは何を言い出すのだろう。
本当に聖職者なのだろうか。
「冗談です。でも、いいのですか?」
「少なくて食事代にもならないかもしれませんが」
マリアは渡された銅貨の中から6枚だけ受け取る。
「これだけあれば十分ですよ」
そう言って残りを俺に手渡した。
「レンちゃんや、ハナちゃんの為に使ってください」
「いいんですか?」
マリアはにこくりと頷くと、
「教会は難民の方々のための資金は用意されていますので」
たとえそうだとしても、善意にすがりつくだけではいけない気がした。
「もう少し稼げるようになったら、必ずお礼をします」
「あら、プロポーズですか?」
お礼と言ったのに何故そうなるのだろう。
マリアが悪戯っぽく笑っている。
たぶんからかわれいるんだろう。
「あなたみたいな美人、俺にはもったいないですよ」
社交辞令で返しておく。
「まあ、お上手ですね」
マリアとの話が終わると子供達を連れて部屋に戻った。
今日は子供達と遊んであげる事ができてよかった。




