極寒凍土に咲く花
小さな集落に住むその少女は日の出と同時に目を覚ました。パチパチと音を鳴らす薪ストーブが暖かな熱を保っていたが、玄関の戸を開けて外に出た途端、一瞬にして空気中の水分が白一色に染まる。それもそのはず、外は極寒の大地であった。氷雪が広がり、針葉樹林が山岳を埋め尽くしている。
少女は雪のように白い髪を強い寒風に靡かせて、透き通った蒼の双眸で外の世界を見渡した。頭頂部からさも当然のように生えている狐のような、けれどもどこか丸みを帯びた耳をピクピクと動かして、美しい白銀の毛並みをした尻尾を揺れ動かした。吐いた息が白くなると同時、霜を作る。
「それじゃ、お水汲んでくるね。お母さん、お父さん」
少女は誰もいない家に向けてそう伝えると、外に干していた衣服へと駆け寄り、そして慣れた手付きで服に付いた霜と氷柱を取り払うと身につけた。トナカイの皮を使った防寒具に、黒い毛の塊のような帽子だった。もぞもぞと帽子は蠢くと、やがてピョコリと白い耳が飛び出す。
「……行ってくるね」
誰も返事はしなかった。食器棚には三人分の皿があるというのに。大切なものはまだ戻らない。それが何かも分からない。少女はぎゅっと堪えるように服の袖を握り締めて、一滴の涙を頬に伝えた。けれどもすぐに凍ってしまう。まだ朝は早かった。少女は一人深いため息をつくと、凍らぬ水を目指して桶を持ち、苛む冷気のなか氷雪を踏み締める。
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