任務
元レンジャー隊員、橋田玲二
第三次世界大戦危機後、自衛隊を除隊。
WEB関連の仕事で生計を立てている。
28歳
元陸上自衛官、田原洋介
レイジの訓練兵時代に教育を担当していた。
54歳
この物語はフィクションです。
「教官、聞こえるか?こちらレイジ」
左の奥歯に埋め込まれた小型無線機。
声の振動を歯でキャッチし、そのデータを送信する。相手からの声は無線機の振動により骨伝導で直接届く。
「こちらサーブ本部、田原。良好だ。そっちはどうだ?」
「大丈夫だ、聞こえる。
ただ、少し噛み合わせが悪くなった気がするな。
教官、PMCの兵器開発部門があると思われる施設の近くに着いた。警備自体は手薄な感じがする」
小型単眼鏡を覗き施設周辺を確認する。
「レイジ、隠密行動だ。一切の痕跡を残すなよ」
なかなかサラッと大変な事を言いやがる。
「失敗したらエンドレス腕立て伏せか?」
「ふっ…昔、訓練兵時代ならそれで済んだかもな。だが本番だ。やり直しは無い。
失敗すれば君はヤツらに捕まるだろう、こちらが君を助けに行く事はない。だが我々の実態を知られる訳にもいかないのでな」
「…捕まったら雇い主に殺されるって訳か」
「わざわざ君の為に殺し屋を雇うつもりは無い。君の諜報員としての実力は充分知っているつもりだが?」
「…了解」
このジジイ歳とって威圧感が増した様に感じる。
「レイジ、今回はこちらが持っている情報が極端に少ない。そこでの任務は、まずノークリアについての情報収集だ。それと、もし東城が居たら接触してくれ」
「わかった」
単眼鏡で見る限り施設敷地への入り口は一箇所。
そこに警備兵が2人いる。
壁には有刺鉄線が張り巡らされている。
もう少し周りを調べてみる必要がありそうだ。
「レイジ、こちらからの声は外部に聞こえる事はないが、君の声はヤツらに聞かれてしまう。声が出せないところでは君に渡した小型端末からメッセージを送ってくれ」
『了解』
すかさず送ってやった。
「ふっ大丈夫そうだな。なにかあれば無線か端末で連絡してくれ。頼んだぞ」
〜1週間前〜
「元気か?」
病室のベッドに横たわり、数本の管に繋がれた俺に向かい
偉そうなジジイが言う。
「ついに頭までイカれちまったのか?」
「その様子なら大丈夫そうだな」
「……」
電子音が一定の感覚で鳴り続ける。
耳障りだが、万が一にでもこの音が途切れてしまうと、それはそれで困る。
「……今度はなんだ」
俺が問いかけると
ベッドの横にある椅子に腰掛け
備え付けの机の上に肘をかけた。
「近くまで来てたんでな、
見舞いに来たんだ」
相変わらず回りくどい言い回しをする。
冗談のつもりか、何も面白くない。
少しはユーモアを磨けと思う。
「そりゃご苦労様です。あんたに来てもらってもなんも嬉しくないけど」
姿勢を変える。繋がれた管が少し邪魔だ。
「さすがに60階からの眺めはなかなかだな」
立ち上がり窓の外を見て白々しく言う。
頭も白いがそれ以上の白々しさだ。
「さっさと本題に入れ」
「相変わらずだな。
レイジ…君は、最近情報は取り入れているか?」
そう言うと一枚の紙を机の上に置く。
「さぁ?最近ってのがどこまで最近の話かわからないし。
ただ、ここに来てからは何も」
「その書類を見てくれ」
もう一度丸椅子に腰掛けた。
「第三次世界大戦危機以降、憲法9条も改正され、日本も民間の軍事会社を持つようになった。
実際は、それより前から非公式に組織されていたというウワサもあるが…」
「あぁ、各国と散々口喧嘩してたな。
それにPMC…ウワサねぇ……事実だろ。」
俺は動きづらい体を起こし
書類に手を伸ばした。
「その書類に書かれているのは、その軍事会社の事業内容だ。」
『正規軍への後方支援
紛争地帯への人材派遣
有事の際の国家防衛業務
軍事拠点などに関する建設物の設計、施工
兵器開発
汚染区域での除染作業
被災地への復興支援活動
軍事商品の販売 etc……』
「ずいぶん手広くやってるみたいだな」
「裏を見てみろ」
「水着のお姉さんの写真か?」
「あいにく、そのような見舞い品は無いな」
A4の紙を裏返す。
「………これは…?」
「その軍事会社が極秘裏に開発しているという兵器、ノークリア」
「ノークリア?まさかとは思うが核とかけてるのか?」
「…わからんが多分そうだ」
ふざけている。なめくさっている。
「田原さん、あんたなんでこんな情報もってるんだ?極秘なんだろ?」
「ノークリアは小型核弾頭射出兵器だ。
射出する核自体の威力はそれほど強くない。といっても各国の主要部に甚大な被害を与えられる威力は充分ある」
いつもそうだ。この白髪ジジイはこっちの質問には8割答えない。それが重要な事であっても。
「PMCに限らず正規軍の方にも核開発の噂は前からあっただろう。国も公式に認可はしてないにしろ黙認してるって話を聞いたことあるが、あんたがわざわざ俺に言いに来るってことは…他に何かあるのか?」
「…それを調べて欲しいんだ」
「は?だからそもそもこの情報の出所はどこだ?
ここまでわかっていて、なぜその部分は掴めない?」
「レイジ…この情報、直接私の所に送られてきたんだ。」
「どういうことだ?」
毎度思うが、このジジイはいつも怪しい。
「PMCに我々と同じ元自衛隊員が何人も流れた。実は、PMCの兵器開発部門に私の古い友人がいるんだ…東城慎吾。君も名前くらいは知っているだろう」
「……元陸自GRDの本部長」
「あぁ。彼は私と同期だったんだ」
名前は聞いた事はあったが、実際に何をしていた人なのかはよく知らない。
とりあえず、頭が良くて偉い人なのだろうというくらいだ。
「なら、この情報は東城さんからの情報なのか?東城さんもノークリアの開発に?」
椅子から立ち上がり、また窓際の方に歩いていく。
「それが…わからんのだ」
「なぜだ?それ以外にあるのか?」
「ヤツは自分の開発研究の情報をわざわざ他人に知らせる様な事は今までした事がない。そして、私が自衛隊を除隊してからヤツから連絡が来たことなど一度も無かった」
「罠って事か?こちらの事について東城さんは知っているのか、少なくとも今はPMCの人間なんだろ?不確定要素だらけだな」
俺の方に向き直り話す。
「あぁ、だがもし彼からだとしたら
なんらかのメッセージであるに違いないと思うのだ」
かつて陸自の悪魔と言われたこのジジイ、
田原洋介。
この人は怒鳴らない。ひたすら威圧。そして冷徹。
いわゆるどエス。
俺がレンジャー隊にいた頃の直属の上司だ。
「やってくれるか?」
ここに運び込まれた時点で何かあるのはわかっていた。
「正直かったるいが、やる以外に選択肢は無いんだろ?部下に襲わせてまで俺をここに連れてきたって事は」
「手荒なやり方だったのは謝る。
だが、君はやってくれると思っていたよ。
よろしく頼む」
素人なので、うまく書けないですが
頑張って完結まで書いていければと
思っております。
よろしくお願いします。