いざ、ラグナダへ
学校から帰ってきたマカは早速母親に事の次第を報告した。
「私の夢をマリアが心配してくれたの!だから行っていいでしょ?マリアからも話を通すって言ってたから行かなかったらマリアにまた怒られちゃう!」
渋り顏の母親に駄々をこねるようにねだる。母は頬杖をついてため息をつく。
「でもあんた、ラグナダなんて遠いところ1人で行けないでしょう。あぶないわあ。」
ラグナダは隣国の学問都市。名門の大学から修道院までいくつもそろっている。マカはまだこの村もあまり出たことすらないのだ。国を超えるだなんて、母親にしたらとんでもない話だった。
「行けるもん!もう14歳だもん!わかった!お母さんお金のこと心配してるんでしょ!その点は心配いらないわ!」
したり顔で列車の往復チケットを出す。
実はこれは、シスターマリアが買ってくれたもの。マリア曰く、
「博士は多額の研究費をもらっています。あなたからすれば夢の相談でも、きっと彼からすれば研究材料。あなたに来てもらう、という捉え方になりますので、交通費は博士持ちです。先に建て替えるので、戻ってきたら私に返して下さいね。」
とのこと。これを聞いてしまっては、母もダメとは言えない。苦い顔をしながら了承した。
マカは心の中でガッツポーズ。14歳の少女には1人で隣国に行くなど只ならぬイベントだ。本で読んだ冒険に行くような気分でもおかしくないだろう。
早速、荷造りに取り掛かろうと部屋に向かった。
「マカ〜面白そうな事になったわねぇ。」
入るや否や、プシュケーが口火を切って話し出す。プシュケーが見えるのはマカだけなので、外で話すとマカが変人扱いされてしまう。そう考えたマカがプシュケーと自分の部屋以外では話しかけないと約束したのだ。
しかし、実際はプシュケーは常にマカの背後にいる。予想外の展開に、ずっと横槍を入れたくてうずうずしてたのだろう。マカの周りをグルグルしながらおしゃべりが止まらない。
「私、ラグナダは初めてだわ〜。あんたも含めて私が守ってあげてた人はあんまりおりこうじゃなかったの。」
「そんな火の玉でどう守るんだか。」
「あら、おりこうじゃないのは認めるのね。えらいえらい。」
語尾にハートが見えるトーンで話すプシュケー。いつもはプシュケーの嫌味にもっと怒るマカも、今日はあまり喧嘩にならない。2人とも明日からの旅に心が躍っているのだ。
そして、やはりその日の夜も、同じ夢を見たのだった。
翌朝。
駅のホームにはマカと両親の姿があった。
「マカァァァーー!気をつけるんだぞぉーー!」
「く、苦しいよ、パパ。」
父親はマカの事が大好きでまだ子離れができていないようだ。むしろ、マカの方が既に親離れしている。
大体において、女児は精神面の発達が早いので無理もない。いつか急に、手を離れるようになるものなのだ。それが父親にはわかっていない。薄々感じているようだが、認めたくないようだった。
苦笑いのまま、列車に乗り込む。
「ちゃんと診てもらいなさいね、あと何かあったらすぐ連絡しなさいよ。それから、気をつけてね。」
ホームから母親が心配そうに声をかけるも、マカは元気よく別れを告げた。そして列車の汽笛が鳴り響き、ゆっくりと動き出した。
マカは遠くなってもこちらを見続ける両親にずっと手を振り続けた。
ようやく見えなくなったところで、席を探す。列車はボックス席で、運が良くて礼儀正しい紳士淑女、最悪なのは聞いてない事まで話してくるオバサマ集団と一緒になる。
どきどきしながら席を探したが、残念な事に今のところボックス内にはマカだけであった。
何が残念って、そう、密室にマカのみとなると、プシュケーが出張ってくるのだ。これでは最悪のオバサマ集団と何ら変わりないとマカは肩を落とした。
「列車も私初めてなの〜!!これ窓なの?開くの?!開くの?!」
もうこの時点で、嫌気がさしたのだった。