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伝説の竜の息子  作者: 旭桜
プロローグ
5/12

神々の子等 1

 とある孤児院の前に、少女が横たわっていた。


 彼女について、最も初めに語るべき事は、彼女が転生者である事に他ならないだろう。

 彼女の前世は、日本という名の国で高等学校に通っていた、普遍的かつ一般的な高校生であった。

 ただ一つ、非常に運が悪い事を除けば。


 道を歩けば、黒猫が前を横切る、それに伴って車に轢かれそうになる。

 くじ引き、ガチャ、おみくじ等をやれば全て外れ。

 どれだけ勝ちの確定した試合でも、彼女が応援に来れば負けが決まる。

 とにかく、彼女の行動に運の悪さがついてくるのだった。

 あらゆる行動が裏目に出るせいで、彼女は控えめで消極的な性格になってしまった。


 そんな彼女だが、17歳の若さにして、この世を去った、死因は、通学途中に何故かあった石に躓き、前頭部を強く打ち付けてなった脳内出血。

 親には、良くここまで持った、と泣かれ。輪廻を司る存在には同情され、加護を付けられてこの世界。


 複合世界ラグーティスに転生して来たのだ。


 転生した先は裕福な領主の家、領主は温厚な人柄で、領地の民を大切にしながらも、しっかりと職務をこなす、きょうび珍しい名領主であった。

 妻、即ち彼女の母親とは、政略結婚であったが仲睦まじく。領民からも慕われていた。

 そんな家に生まれた彼女であったが、この時の為としか思えない程、彼女の運の悪さはその力を増した。


 彼女の家に視察の名目で訪れていた第一王子ユフェルが、就寝前に吸っていた煙草の火を消し損ねて、その残り火が建物に引火したのだ。

 本人はいち早く気付き避難したのだが、その時領主達に声を掛けず、自分の部下だけに状況を知らせて避難したのだ。

 ユフェルは視察の名目で、暇で仕方がない王宮から抜け出して、彼女の家に厄介になろうとしたのだ。だが、彼女の父親はそれを渋った、ユフェルの父親、つまり王に頼まれていたのだ。王と彼女の父親は旧知の仲で、このような事も無いかと、先回りしていたのだ。


 だが、彼女の父親は元来の甘さで、一日だけ家に泊まる事を許したのだ。

 それがユフェルには、気に食わなかった。ユフェルは自分の事を選ばれた存在だと思っていたのだ。

 自分以外の人間は、自分に跪くのが当然だと。

 それは、ユフェルが暇と言っていた王宮での生活で、自らが時次期王であるという事実から培われた価値観で、ユフェルにば国を動かす器量も、覚悟も、まるで無かった。

 自愛が肥大化し、自らの事しか考えられない傲慢は、自分の「命令」に僅かな否定の意思さえも許さなかった。わざわざ助けてやる義理もないのだ。


 その結果が、領主の館全焼。領主達の死体は確認されたが、生まれて間もない彼女と一人の従者の死体は確認されなかった。

 避難していたのだ。ユフェルより遅れてだが、家が火事になっている事に気づいた領主が従者に先に避難する事を命じた事により。

 領主自身は避難し損ねたが、彼女は生き延びた、輪廻を司る存在から与えられた幸運の加護がついに効果を発揮したのだ。

 それをもって尚、悪運の残滓は彼女を襲う。今こそが正念場と言わんばかりに。

 これは従者と、その従者に命令した領主に原因があるのだが。

 

 従者は、齢10にも満たない従者“見習い”だった。

    

 見習いの名はゼルエラ·リーゴット


 代々続く、従者の家系の長男だ。


 領主は直ぐに避難するつもりだったが、万が一の事を考え、若くとも聡明なゼルエラに彼女を託したのだ。

 それは、ゼルエラにとって光栄に思う事であり、この上ない重圧であった。

 命令に忠実に従わなければ、従者として代々続いてきたリーゴット家に泥を塗る。

 それ故に、彼女を安全な場所に預ける事に余念はない。

 貴族は駄目だ、預けたら最後、そういう趣味を持つ変態のために、彼女は慰み者になってしまう。そうでなくても、道具として立身の為に使われるのは目に見えている。ゼルエラは自らの主が他の貴族とは違う事を良く知っていた。

 一番頼りになると思っていた王家は、ユフェルが何をしてくるか分からないし、ユフェルに対する心証も最悪だったため却下になった。

 自分の家は、領主の館に隣接して建てられていたので、一緒に焼かれてしまった。

 領民の家に預けるのは他より良いが、ユフェルに目を付けられる可能性がある。まだ、安全とは言い難い。


 最後にたどり着いた答えは、孤児院だった。それも只の孤児院ではない、

 聖女と呼ばれる人物が営んでいる孤児院だ。

 聖女の営む孤児院は、如何なる権力の干渉も受け付ける事がない。更にこの孤児院に住む孤児達は、聖女が直々に祝福をされる事によって、様々な才能を開花される。

 このような状況下で、聖女の営む孤児院はまさにうってつけの場所であった。

 ゼルエラは、直ちに聖女の営む孤児院に向かった。

 運良く、聖女の孤児院がある王都はゼルエラの主が治めていた領地に程近い。

 ゼルエラは王都に行く知り合いの商人の馬車に乗せてもらい、王都へと向かった。

 王都に着いたゼルエラは、聖女の孤児院へ急いだ。

 直ぐにでも彼女を安全な場所に届けたかった。今にも彼女が死んでしまうのではないか、と思っていたゼルエラ、彼女は生まれて間もないし、王都に着くまでろくに栄養を摂取していない。

 ゼルエラはそんな事を考えながら、孤児院へと走った。

 





 死にかけの体で......






 ゼルエラは何よりも彼女の事を優先して行動した。それは、食料に関してもだ。

 彼女に出来る限り食べさせる為に、手に入れた食料の大半を彼女に食べさせたのだ。

 前世の記憶を持つ彼女は、嫌がる事で遠慮したが、ゼルエラは強引に食べさせた、

 途中、馬車の中で商人に諭されて、食べる事には食べたが、それでもゼルエラは今にも死にそうな程衰弱していた。

 彼を動かしていたのは従者としての誇りと、主人の命令に従わなければならない、という強迫観念。

 孤児院にあと一歩、あと一歩、と迫る様は、見るものに、憐れみと称賛、そして畏怖を覚えさせるのであった。

 

 彼は、漸く孤児院の前にたどり着いたところで、意識を失った。

 此処まで保ったのは、彼女が回復魔法を掛け続けたからなのだが、彼女も魔力の過剰消費により体が動かせず、魔法も使えない、危機的状況に陥った。

 



   §



 

 私は、足掻ききったのかな?

 もう、体が動かない。

 彼は、大丈夫なのかな?


 私は、何も見えない暗闇の中で、そんな事を考えていた。


 ここは、どこなの?

 私は、死んだの?

 なら、私がここに来るのは2度目なのかな?


 私の意思はまるで波打たず、私は私を客観的に見ているのではないか、と思うほどに冷静だった。だけど、そんなに保たなかった。


 ワタシハシンジャウノ?


 ワタシガイニタコンセキハウシナワレルノ?


 ワタシヲシルヒトハモウイナイノ?


 ソンナノヤダ!!


 ワタシハミトメラレタイ!!


 ワタシヲミトメテクレルヒトハイナイノ!?


 この時の私は、きっと狂っていた。

 それも無理からぬ事だろう、私は運悪く死に、輪廻を司る神なんてのにここに送られてきた。

 生まれて直ぐ家が焼けた。

 神様は私の運を良くしてくれるとか言ったけど、嘘だったんだ。


 寧ろ悪くなってた。


 新しい両親を、私の運の悪さのせいで死なせてしまったのは悲しくなった。

 私のせいで、両親を殺してしまった。

 でも私のせいなの?

 家に来てたユフェルって人が悪いんじゃないの?

 でも、ユフェルが来たのも私の運が悪いからじゃないの?

 そんな思考が堂々巡りして、何時までも続くかと思った。けど、

 

 「っっっっっっっっ!!??」


 私の意識は目が覚めた様に明確になった。

 周りに風景が表れ、色彩が付いた。

 何かが私に憑りついた。


 それは私を害する事はなく、私を調べている様に感じた。

 私は憑りついたものが何を調べているのか解った。


 これは私の願うものを調べている。


 理解したとたんに私は願っていた。


 私の傍に居てくれる人を。

 何時もじゃなくていい、そんな人を。

 私を、理解してくれる人を。

 たった一人でいい、そんな人を。


 願い続けていた私は、憑りついたものが私の願いに反応して、変質してた事に気が付かなかった。

 憑りついたものは、その身を使い、私の目の前に空間の歪みを造り出し、私に何かを“贈って”きた。

 現れたのは、私と同じ赤ん坊だった。

 罪悪感しか感じない。

 私のせいでこの子が死んでしまう。

 私が、私を理解してくれる人を求めたから。

 罪悪感に苛まれる私を、不利益な思考の堂々巡りを現実に引き戻したのは、彼だった。


 「ウゥアアァ、アアァウゥゥゥ!」


 泣き声をあげている。

 自分は此処に生きている、と主張するように。

 

 その声が、届いた。


 「あら、大変、院長は今居ないのに」


 女の人の声が聞こえる。

 この子の泣き声で気づいたのだろう。

 ゼルエラ君を見て驚いてる。


 「これは、......皆! ちょっと来てくれる!?」


 女の人は助けを呼んだらしい。ドタドタと音をたてて、誰かが近づいて来ている。


 「先生、どうしたの?」

 「この子達を中まで運んで、そこの倒れている子には、何か腹持ちの良い物を」

 「は~い!」


 助けに来たのは、どうやら子供の様だ。恐らくここに住んでいる孤児だろう。よく有ることなんだろうか? 手慣れている感じがする。 

 私は、子供の内の一人に抱き抱えられ、孤児院の中に入った。

 中には教会に有りそうな祭壇が有って、その両脇に中庭が有る。教会が本体で、慈善事業として孤児院を開いているのかしら。

 体を動かす気力が無かったので、首を回せず、余り良く見れなかった。

 私は中庭を抜けた先の、孤児院の中で、私は備え付けてあったのだろう赤ちゃん用の、木の柵で囲われているベッドに寝かされた。

 背中にしっかりと感じる布の感触に、私はそっと安堵した。

 

 助かった。


 その事実を受け入れるのに、私は随分と時間をかけてしまった。

 また、運の悪さのせいで何かが起こるかも、と思っていたけれど。

 そんなこともなく、私は助かった。

 ふと、横を見ると、木の柵の向こうに、私に贈られてきたあの子の姿があった。泣き疲れたのか眠っている。

 私は、私の思い通りに動かない口を懸命に動かして言った

 ごめんね、でも、ありがとう。

 実際は「ぅえんえ、えう、あいあおー」と言ったのだが。通じたのか、彼は寝返りをうってこっちを向いて。達成感を満面に写して笑っていた。

 私はその笑顔を見て心が緩み。疲れも相まって、眠ってしまった。




   §





 「ぐっすり眠ってるね、先生」

 「ええ、そうね」

 「そういえば、さっきの男の子はどうしたの?」

 「ああ、あの子は意識が無かったから、スープを飲ませて寝かしてるわ」

 「ふ~ん、それにしてもこの子達はどこの子なんだろう」

 「う~ん、やっぱりライザン家の子供だと思うわ」

 「ライザン家って、あのライザン家?」

 「ええ、つい最近子供が生まれたと聞いたし、倒れてた子の服も、ライザン家の従者の物だったから」

 「......無念だったろうね、自分の手で育てられなくて」

 「......そうね」

 「あぁ、気にしなくていいよ、僕はここに居れて幸せだからさ」

 「......ありがとう」

 「どういたしまして」

 「あ、リゼお兄ちゃん大変!」

 「ん、どうしたの? ミリ?」

 「あのね、倒れてたお兄ちゃんがね、ビクビクッってなってるの!」

 「えっ! ビクビクッって。......痙攣? ......あ、先生、あの子に何飲ませたって?」

 「え、スープだけど?」 

 「......それって、手作り?」

 「冷めたスープを飲ませるつもりはないわよ」

 「スクランブル!! スクランブル!! ミリ隊員、緊急措置として副隊長の権限を与える、ミッションは超戦略級大量殺戮兵器を、直に、大量に飲まされた罪なき市民の命を救う事。全能力を駆使し、院長が帰還するまで、保たせよ!!」

 「ッッッッ!! はいっ、リゼ隊長!! 皆ぁ! スクランブルよぉ!」

 「た、大量殺戮兵器って、酷いじゃない!」

 「先生、竜を一匙で殺す様な液体を、僕はスープと認めません!」

 「そ、そんな~~~」

 「ああ、院長はまだ帰って来ないのか、早く来てくれないと、いくら延命処置の訓練を沢山やってきた衛生兵でも、保たせる事ができないっ!」

 「たっだいま~」

 「あ、院長!」

 「んぅ? どしたの、リゼ君」

 「スクランブルです! 先生のスープを飲んだ子が一人居ます」

 「え、エルのスープを飲んだ!?」

 「はい、ここの前に倒れてた子で、意識が無いところ」

 「くっ、何て卑劣な、案内して! 直ぐ行くわ」

 「ふ~んだ、どうせ私のスープは超戦略級大量殺戮兵器ですよ~だ」

 「ほら、拗ねないのエル、行くよ」

 「は~い」




   §

 



 後に「殺戮料理人」として世界に名を馳せたエル・デルニ

 聖女の孤児院で育った子供のみで構成された部隊、通称「竜の牙」の隊長リゼ、副隊長ミリ

 やる事成す事万事幸運に恵まれた「幸運の女神」フィリナ・ライザン

 不死身と呼ばれる程打たれづよく、「殺戮料理人」の料理に打ち勝った最初の人物「剛健にして剛剣の不死者」ゼルエラ・リーゴット

 そして、女神の伴侶にして加護を与えられた神子、「守護帝」ルトデア・ライザン

 聖女の孤児院から輩出された、才ある者の中でも、特に抜きんでた者達。

 彼等が同じ時代に生まれた事は、他の時代ならば異常であったが、神子の時代と後に呼ばれる事となるこの時代では、些末な出来事として扱われた。

 

伏線をばら蒔いていく。

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