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 バッドエンドの向こう側

沢山のブックマークありがとうございます。


若干ホラー(?)注意

 魔王様に依り代として捧げられる最後の下準備として、五日間水だけでの生活を強いられた。食事をしなくても魔力を消費することによってある程度は生きられる。裏を返せば食事を与えずに放置すれば、魔力を消費して枯渇させることも可能ということだ。

 それを利用した村の大人たちの思惑通り、四日目には俺の魔力は枯渇した。

 かろうじて生きているような状態。一日中頭がボーっとしていて何も考えられない。

 生暖かい液体で身体を拭かれたような気もするし、何か変なものを食べさせられた気もする。けれど、何もかもが曖昧だった。








 漸く正気に戻ったときには、もう既に見たことのない場所にいて鎖に繋がれていた。

 暗く冷たい、何もない空間。ずっといた檻の中よりも、かなり広い。少し離れた場所には、外へと繋がる入り口が見えた。


 外の世界が見える場所に、今俺はいるのか。

 死んでしまう前に、名前を持たない「俺」という人間が消えてしまう前に、せめてもっとよく外の景色を見てみたい、と力の入らない身体に鞭打ってその入り口に近付こうとしたとき





 それら・・・はやってきた。



 人の形を取っているけれど、明らかに人ではない。黒い影が集まって形を成しているような、不気味なもの。大人と同じぐらいのものもいるけれど、地面をはいずりながら近付いてくるものや子ども程度の大きさのものが圧倒的に多い。

 顔は全員黒塗りなのに、開いた口だけがやけに鮮明に見えた。何かを呟いている。


 じわりじわりと近付いてくるそれらの言う言葉を理解したとき、どっと冷や汗が噴出した。 



『有罪』

『有罪』

『ゆうざい』

『きゃハハハはははァ』

『有罪』

『ころす』

『ゆうざい』

『お前さえ居なければあの子は……』

『有罪』

『ウフふふふひはハハ』

『しんでしまえばいいのに』

『有罪』

『羨ましいわ』

『有罪』

『絶対に許さない』

『ユウザイ』

『くるしいよぅ』

『イヒヒひひひひひ』

『ころせ』

『ああああぁぁぁそおおぉぉぉぼおおぉおぉぉぉ』

『有罪』

『有罪』

『ころすころすころす』

『なんと忌まわしいことだ……』

『あははハハハハはハ』

『痛いよお……』

『ころすころすころすころす』

『ころすころすころすころすころす』

『ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす殺すころすころすころすコロスころすころすころすころすころす殺すころす』



 低い声と高い声をごちゃ混ぜにしたような音。

 身体は凍りついたように動かない。


 影のうちの一つが俺の足に触れた。熱いような冷たいような、言い表せない温度熱。けれど気持ち悪いぐらいに、その指の感覚は生々しい。

 これ以上それらを見てはいけないような気がして、目をつぶった。

 何人もがぺたべたと触ってくる。それでも、決して開いてなるものかと俺は硬く目を閉ざしていた。これが魔王様降臨の儀式なのかまったく別のものなのかわからないけれど、確かに感じたのは身体の自由を奪うほどの『恐怖』だった。





 どのぐらいの時間が経ったのかわからない。もう何時間もたった気もするし、十分も経っていないような気もする。いつの間にか声も触られる感覚も無くなっていた。


 不意に、瞼の外から光を感じた。

 魔王様降臨の儀式は失敗して、朝が来たのか。朝日が差し込んできているのか。



 極限状態の身体と恐怖で痺れた脳が産み出した結論に、俺はなんの疑いも持たず目を開けてしまった。






『あなたのためにみんなころされたんだよ』




 目の前に、鮮やかな赤い目玉が二つ。黒い影が俺を取り囲んでいた。


 物凄い力で首を絞められたかと思うと、それはするりと俺の体内に入っていった。

 目の前が真っ赤になる。


 身体が熱い。呼吸をするのさえ辛い。高い笑い声だけが頭を支配していた。

  もう、この影たちに支配されて死ぬのだろうと思った時、それは目の前に現れた。



『っ、ぎゃあああああああああぁぁああ』


 まるで虫を払うかのように、その影を消していく幼い少女。消していくというより、取り込んでいる、という表現の方が適切かもしれない。少女の手に触れられた影は薄靄のようになって、彼女の身体にすいこまれていった。



 圧倒的な存在感。誰に問うまでもなく、理解した。




 この少女こそが、魔王その人なのだと。






「ねぇ、あなた、名前なんていうの?」



 美しい黒髪に、輝く深い青の眼。無条件に従いたくなる存在を崇め讃えるのは当然のことなのだと、納得してしまう程の風格。

 声を掛けられて、緊張のあまり首を振ることしかできなかった。

 無礼な事をしてしまったか、と思ったが彼女は気にした素振りも見せず続ける。



「そう、名前がないんだ。……ここに居てもそのうち死んじゃうだけだし、私と一緒に来ない?」



 何を犠牲にしてでも、この人について行きたいと思った。



「そうね、じゃああなたの名前は今日から『カウィール』ね」



 名前を付けるという行為は、それを自分の所有物にすることと同義だ。それとともに、名前はその存在が生まれた事をしめすものだ。

 故に魔王様への生贄たる俺は、魔王様の所有物になるために名前が無かった。


 それが今、彼女が俺に名前を付け、そして呼んだ。

 黒い、けれど暖かい靄のような彼女の魔力が俺の周りを包んで染み込んでいく。眷属を作る時に行われる儀式だと古い本で読んだ事がある。それに似ているなと頭の端でぼんやりと思った。

 生贄を眷属に召し上げるなんて、あるわけ無いというのに。


 暖かい微温湯に浸かるような感覚から、また意識が朦朧とし始める。けれどこれだけは言わなくては、誓わなくてはと乾ききった舌で言葉を紡いだ。



「俺の全てを捧げると、誓います」



 この方になら、生贄として殺されても、食べられても、何をされても構わないと本気で思った。


 俺の意識はそこで途絶えたのだった。





  *  *  *  *  



 この日、『名も無い依り代』は死んで『カウィール』という少年が誕生した。

取り敢えずホラー要素があるのはここで一旦終了です。

次回からサバイバルが始まります。

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