贄 惨
ぶ、ブックマークが200を超えただと!?
恐ろしくもありがたくて震えます。ぶるぶる…
虐待表情があります。独断と偏見による解釈であるため悪しからず。
考えに考え抜いた末、私は今夜のお布団になるはずだった鳥の羽を贅沢に使い、簡易式のソリみたいなのを作った。まぁ羽を重ねてその上に気絶しているカウィールを乗っけただけなんだけどね。勿論ソリを引き摺る馬代わりは私です。そしてカウィールが予想以上に軽くて私は心配です。体感的に持ってきた羽と同等の重さってドユコトー?
とりあえずズルズルとソリを湖の方に運んでいく。こっちの方向であっている……はず! うん、水の音もするからこっちで間違いないな!
木の根っことかが多いあたりではちょっと後ろから「うっ……」とか聞こえた気がしたけど気にしない。他に運ぶ方法が思いつかなかったから仕方ないよね。
湖に辿り着いたら、まだあの蛍みたいな光の塊がふよふよと浮かんでいた。さっきはあの光源はこっちの存在に気付いていないようだったけど、今は気付いたのか一匹、また一匹とこちらに近付いてきた。数え方は個の方があっているかもしれないけど虫っぽくしか見えないから匹で数えた。
かなり近くまで来てもその光源は本当にただの光の塊のようにしか見えない。触ろうとしたら躱された。ちぇっ。
私とカウィールを包囲するかのようにくるくると回るそれらのおかげで、私たちの周囲だけ昼間のように明るくなっていた。それのおかげで分かったのだが、今の私は森の中を何時間も駆け回ったから凄まじく汚い。泥汚れが特に酷かった。カウィールはあんな煙まみれな洞窟にいたのに殆ど汚れていなかった。
そういえばあの洞窟、あんなに煙みたいなのがたち込もってたにも関わらず、焦げ臭さも煙っぽさもなかったけどなんでだったんだろう?
まあ今更そんなこと気にしたところで何になるわけでもないし、私はカウィールが寝ている間に湖で汚れを落とすことにした。
私の着ていた服は、それこそ現代での使い古されたシーツの方が上等なんじゃないかと思うぐらいのぼろ布だった。
「…………うわぁ、流石に此処までとは予想外だったよ……」
少女の記憶にある、母親とは認めないーーつまりは自分に対して酷く当たってくるーーときの母親から受けた虐待は、思わず顔を顰めてしまうほどのものだった。当然そんな酷い虐待を受けた痕は残っていると思っていたが、此処までとは思わなかった。
何度も何度も同じ場所ばかり叩かれた右のにの腕は色素沈着しているのかただの痣とは思えないほど黒いし、左の太ももには熱湯をかけられた火傷痕がそのままで、まだ熱を持っていた。その他にも殴られた痕や治りかけの火傷痕、切り傷が上にあげた二つほど酷くはないけれど多い。
こうして直に傷痕を見ると、さっきまで感じていなかった痛みがじわじわと起こってくる。
そういえば母親に捨てられた時に強く背中を打ったから、その痕も痣として残っていそうだ。自分の背中を自分で見ることは出来ないから確認のしようがないけれど。
しかし、まぁ、それより何より
「パンツがないとかどういうことだ……!!」
常にノーパンですね分かりたくないです。
いや薄々気付いていたんだ。なんかスースーするなと思っていたんだ。でもそれはぼろ切れを履いているからだと、自分に言い聞かせていたというのに……まさか本当にノーパンだったとか。
もう私ただのロリコンホイホイじゃないか。ノーパン幼女とか変態紳士の喜ぶものじゃないか。私の貞節の危機!
……あ、そういやここ森の中で人殆どいないんだった。いるのも推定年齢十歳程度なカウィールだけだから、まぁノーパンだろうと全裸だろうと少女の記憶の端にあった伸縮性の強い布で出来ている《ぜんしんたいつ》だろうと問題無いか。
少女の記憶の中だけで存在するものには面妖なものが多い。有用そうな物も多いからそのうち活用出来そうだ。無駄な物も多そうだけど。
少女が前世でいた世界は如何に生活を豊かに、かつ労働力を削減できるかを重視した道具が多く開発されているみたいだな、と考えながら片足を湖に入れた。
「ひぅっ、つめた……く、ない?」
つま先が水に触れた時は凍りつきそうなぐらい冷たく感じたのに、足首辺りまで入れた頃にはそれを感じなくなった。
あ、あれー? この時期の水は絶対に冷たいだろうからそれを覚悟してたんだけどなぁ。
まあ冷たくないならそれに越したことはないし、と一気に肩まで湖に浸かる。因みにカウィールが寝ているところからは少し離れた川下(?)の方にいるため、あとで水を飲もうとしても私の体から出た汚れを含んだ水を間違って飲む、なんて心配はない。
それにしても、こうやって水につかるだけでも凄く汚れが落ちた気分になる。
頭まで浸かって五秒数える。お、魚だ!
前を通り過ぎて行こうとしたところを素手で掴めば、簡単に捕まえられた。ラッキー。
魚を先に陸に投げて、私も湖から出る。
入水中も私の周囲には光源がふよふよと浮いていた。その光源のうちの一匹が私の体の周りをくるくると回ると、びしょ濡れだったはずの私の体はあっという間に乾いていた。
「えっ」
な、なにが起こったんだってばよ……!?
思わず光源を二度見三度見四度見するけど
相変わらずふよふよと浮いているだけ。
どういうこと? と呟こうとした時に、叫び声が聞こえた。
「うわあぁぁあ!?」
どうやらカウィールが起きたらしい。
この光源が何なのかは後で考えよう。私はぼろ布をもう一度着て、投げ捨てた魚を拾ってからカウィールの方へと行った。
カウィールは木に背中を預け、怯え震えて光源を見ていた。
確かに人魂みたいに見えるけどそこまで怯えるほどか? と少し思ったけれど、そういえば彼は生贄みたいなことをさせられていたんだと思い出す。もしかしたら光源のことを自分の迎えか何かと思ったのかもしれない。
「大丈夫だよ、これ、私たちに攻撃してきたりなんかしないから。」
「え……? あ、あなたは……!!」
私を視認すると、カウィールはさっきまでの怯えは何処へやら、さっと表情を硬くして頭を垂れた。所謂土下座だ。肩は怯えていた時よりも震えている。
「お……わ、わたしは北のトゥゾンから生贄として捧げられた者です」
あぁ、やっぱり生贄だったか。トゥゾンとやらは知らないけど、多分どっかの町が村の名前なのだろう。
「この身は、全て貴方のものです……ど、どうか、わたしをあなたのいちぶに、し、してください……!」
あぁ、…………ああ?え?は?なんだって?