VS魔術師&騎士
雛たちが何を食べるのかという結構重要な疑問を残したまま、吐き出した備蓄食料の片付けをしていたらなんかいきなり轟音とともに作ったばかりの家の屋根が半分消し飛んだ。
わ、わぁーお空が青いなぁー……ってなんでだ!?
昨日建てたばっかりの家なのにもう修理が必要とかどんだけだよ!
慌てて入り口の扉を開けると、外には七人の人間がいた。
密猟者たちと対峙した時と同じような恐怖に近いものが背筋をかすめる。
直感的に、ここにいる人々が密猟者たちとは比べ物にならないぐらい強いというのがわかった。
だが今回はその恐怖より、頑張って作った家が壊されたという怒りの方が先行している。
ふと目をやると人間の向こう側には、一部真っ赤に染まってるけど昨日私が張ったであろう風の防壁がある。
ちょっ、防壁があるのになんでこの人たち入ってこれているの?
私が「あれぇ?」と小首をかしげていたら、人間のうちの一人、いかにも魔術師です! といったローブを身にまとった女が何かを喚きながらこちらに向かって大きめの火の玉を放ってきた。
本当に状況が読めないんですけど!?
思わず家の中に引っ込んで扉を閉めたら、扉の上部とさらにその上の壁が火の玉によって消し炭にされてしまった。
「エルミシア様、外で一体何が……!?」
「わ、私にもよくわからないんだけど家が理不尽に壊されてるのはわかった!」
「流石にそれは中にいた俺でもわかりますよ!?」
これは所謂、《ねおきどっきり》とかいうやつなのか? それにしても心臓に悪すぎるだろ!
すぐさま扉の前に風の防壁をもう一枚付けて身を守る。
次の瞬間には扉を突き破って火の玉が飛んできたのでこの判断は正解だったようだ。
「おい何やってんだ! 今出てきたの子供だったぞ!?」
「『ファイアボウル』!」
「やめろよ! あの子に当たったらどうすんだ馬鹿!」
周りにいた騎士然とした男たちの制止も聞かず、女はこちらに向かってまた火の玉を放ってくる。
「馬鹿はあんたたちの方よ! 忘れたの? 『魔王』は子供の姿をしてるのよ!? ……それにこの禍々しい空気、人間の子供が放つようなものじゃないわ!!」
「!!!」
また出たよ『マオ』とやらの名前。あったばっかの頃もカウィールが確かそんなこと言ってたはず。何? 私に似てるの? なんなの?
その一言が発された瞬間、他五人の纏う雰囲気が変わった。
明らかに敵意のあるものに変貌したのだ。
その殺意のこもった目を見た瞬間、私はもう本能的に動いていた。
「『防極風』」
分散して家にかけていた風の魔法を解除し、カウィールの周囲に強力な防壁を成形した。
念の為の安全装置みたいなもんだね。
なんとなく頭に浮かんだ言葉を詠唱すると、風の防壁がより一層強化されたような気がした。
さらに飛んできた火の玉、水の玉を私の前に作った防壁で受け止め、さらに追加で風の魔法を使って相手に跳ね返す。
「っ、避けろ!」
「なっ!?」
跳ね返した魔法の諸々に気を取られている間に、私は家から出て騎士や魔術師たちとの距離を詰める。
なるべく近付いた方が、魔法も当たりやすい……って、あれ?
ある程度まで距離を詰めたときに、思わずポカンとしてしまった。
七人いた人間のうち、敵意よりも何よりも困惑をその顔に浮かべていた男以外の六人が小さなうめき声をあげながら地面に倒れているのだ。
まさか、さっきのやり返した魔法でこんななったのか?
「エルミシア様! 俺も戦います! ……って、もしかしてもうほぼ終わってしまったみたいですね……」
血相を変えて私のところまで走ってきたカウィールと、その後ろについてくる雛たち。
ああうん、本当にそうみたい。一人だけ立ってる男はこちらの様子を伺いつつ警戒を解いていない。
それでも私に向けてくる視線にあるのは、困惑と疑問が多分を占めている。
なんとなくだが、この男は他の六人と比べ物にならないぐらい強いのがわかる。
他の六人はサクッとやられてくれそうだがこの男はそう簡単じゃ無さそうだ。
退路を用意したら勝手に逃げてくれたりしないかな……という淡い期待を込めて家を取り囲んでいた大きな防壁を消す。
さあ、逃げてもいいんだぜ!? と、言おうとした私が見たのは……
「は……? なんで、外側にもこんなに人がいるの?」
防壁の向こう側になぜかまだ七人も人がいて、さらに言うならば目の前で対峙する男と同等かそれ以上の実力者がいるという予想外の現実だった。
まさかの墓穴を掘ってしまった。




