名付けと雛の謎
……まあ過ぎたことは仕方ないとして、ほんとどうしたものだろうかこの毛玉……ごほん、雛たち。
かなり広く作ったベッドの、転がり落ちないようにと作った縁の内側に五羽がぎっちりみっちり詰まっているような状態だ。
みっちり詰まりすぎて上から見たらモコモコした布団みたいに見えそう。
全員が全員、こちらに嘴を向けてピィピィ鳴いていた。
餌くれってか?
あ、それより名前つけてあげないと。
……わ、忘れてた訳じゃ無いんだからね!?
「え、エルミシア様どうしたんですか? 俺、なにかエルミシア様の気に触ること言いましたか……?」
「いや、自己嫌悪してただけだから気にしないで」
「自己嫌悪!?」
「うーん、名前どうしようかな」
「どうしようエルミシア様の言動が飛び過ぎて理解が追いつかない……」
イチロウ、ジロウ、サブロウとか?いやいや誰が次男だ長男だとか分からないし、そもそもオスかも分からないから止めておこう。全員メスの可能性もあるし。
こう、カウィールの時みたいにふわーっとアイディアが降りてきたりしないかなぁ……。
あ、そうだ、もういっそジェネラルモックの「ジェネラル」から一文字ずつ取ってつけるか。ちょうど五つあるし。
一応五羽とも鳴き声が違うからそれで見分けるか。
そうだなぁ、ピィピィと鳴くこの子は一番大きさもデカイし、ジェネラルの頭文字「ジ」で……
「『ジオーク』」
「ピッ!」
こっちの、昨日ピャッピャと鳴きながら火の玉を吹いていた子は「エ」をとって……
「『エカテリーヌ』」
「ピャピャッ!」
フクロウみたいにくぐもった声で鳴くこっちの子は「ネ」から……
「『ネイヴィ』」
「クゥー、クゥー」
プピープピーと鳴く……ってこれ本当に鳴き声? 疑問に思うような声で鳴くこの子は「ラ」から始まる名前にして……
「『ラキト』」
「プッピャー!」
あと最後の一羽は……
「ルから始めて……って、痛い痛い! つつかないでよ!」
「ビェッ、ビェッ!」
最も濁った声で鳴くこの雛は、大きさで言うと一番小さい。しかし、一番自己主張は激しいようだ。
なぜ自分に一番最初に名前をつけなかったのかと言わんばかりにつついてくる。
「ビェエッ! ビェエッ!」
「はいはい、お前の名前は今日から『ルーナ』だよ、っと」
名前を付けたからか、なんだか一羽ずつの見分けがつくような気がしてくる。
より一層可愛く思えてきて、もっふもっふな自分よりも圧倒的にでかい毛玉を撫でようとしたら羽に手が埋まった。
なんだと……!?
「肘まで埋まるとか……どんだけ毛、じゃなかった羽が長いの!?」
「プッピャァ!」
ドヤァッ、と言わんばかりの鳴き声に、一日でこんなに羽が伸びるなんて何事かと突っ込みを入れた。
「『ジオーク』に『エカテリーヌ』、『ネイヴィ』、それに『ラキト』と『ルーナ』……どっかできいたことがあるような……」
私が肥大化した雛と戯れている間、カウィールは悩ましげな顔で雛につけた名前を考察していた。
あ、なんかごめん……ただ単に思いつきで付けただけなんだけど。言いにくいなぁ。
そもそも、なんかカウィールは出会った時から私のやることなすことに全て深い意味があるような取り方をしている気がする。
夢を壊すようで悪いが、今の私は本能と気分の赴くままに生きているからそんなご大層なことは全くもって考えていない。
ほんと、カウィールは私に一体何を求めているのだろうか?
出会って十数日の私にはわからない。
「あ、こらっ、バッグの中勝手に漁っちゃダメでしょ!」
注意がカウィールの方に向いていたせいで、いつの間にか雛たちがバッグパックの中を漁っていた。
つついてバッグを開けた雛たちは、発見した保存食をその嘴にくわえてがぶりといった。
「ああっ! 備蓄食料が!」
「…………ペッ」
しばらく咀嚼のような行動を繰り返し、そしてあろうことか保存食を吐き出しやがった。
なんて勿体無いことを……!
私の言葉を理解しているはずなのに完全にスルーして、雛たちはまたベッドの上に戻っていく。
結局何がしたかったんだろうか。
食事か? それとも嫌がらせ?
カウィールもそうだけど、この世界の生き物は謎の行動が多いような気がする。
それにしても、本当にこの雛たちは何を食べて生きているんだろうか?




