爆発は爆発だ。芸術じゃない
「……え?」
小屋の内部に燃え上がる火をイメージした瞬間、小屋を覆う防壁内が火の海と化した。巨大な火の玉といっても差し支えなさそうな見た目になってしまっている。
「なっ、どういうこと!?」
実際に燃え上がったのは数秒だけで、今の防壁内は煙と火力の落ちていそうな火で、落ち着いているように見える。だが……
「なんでいきなり爆発したの!? しかもあんなに苦労して形成した小屋が木っ端微塵じゃないか!」
炎と煙に包まれた防壁内が見えるようになったとき、私の目に映ったのはただの瓦礫の山になった小屋跡地だった。もはや小屋の跡形もない。
あんなに苦労して作ったのに……と肩を落とした。
それにしても、何が原因で爆発がおきてしまったんだろうか。土って発火するものだったっけ?
もしこれが木で作った家だったのなら燃えてしまうのはわかるけれど、使っていたのは土だ。私にはさっぱり分からない。
「……こんなことなら、最初から木で作っとけばよかったかもなぁ」
別に考えなしに土で家を作ろうと思ったわけではない。
木で家を作ったら、私だけでなく雛たちやカウィールの魔法でもうっかり燃やしてしまう可能性があったから土で家を建てようと思ったのだ。決して木で作ると材料集めや固定するための構造を考えるのが面倒くさいと思ったわけじゃない。ないったらない!
だがその結果がこのざまだ。
土が可燃物だったなんて知らなかった。少なくとも少女の記憶にはそんな情報はなかったから、この世界特有のことかもしれないけれど。
また土で家を造るにしても、木で造るにしても、この瓦礫と土の塊をどうにかしなくてはいけない。
あと、煙くさくなっていそうだから風の魔法で臭いを散らさなくては。
小屋だったものを覆っていた風の魔法を解いたとき、それは起こった。
「!?」
一瞬にして辺りが煙と炎に包まれる。防壁内で起こった爆発のような発火を、遥かに上回る炎量と煙量。
未だに私自身の防壁は解除していないというのに、熱と風圧で押される感覚がした。
なんだこれ。
防壁に遮熱と遮音効果を付けていなかったらどうなっていたか分からない。
まるで《えいが》や《あにめ》のワンシーンをみている気分だ。
身の危険は防壁のおかげであまり感じていないせいか、そんな感想を抱いた。
私は風の魔法を、湖があるであろう方向に使った。水を使って鎮火させるためだ。
イメージとしては、風に水を乗せて雨のように降らせる感じか。
なんとなくの感覚ではあるが風が水を捉えたのがわかった。
これを風で上空にまで持ってくるのは大変じゃないかな、と思うや否や、上から水が降り注いできた。
あれ?
確かに湖の水が雨のように降るイメージを持ったけれど、まだそれを風でどう対応するかは考えていなかった。
ということは、だ。
「私には水の魔法も使える……のか?」
おいおい少女よ、《ちーと》とかいうイカサマ性能が自分にないとか思ってたみたいだけど、一人で三属性とか充分イカサマみたいなもんじゃないか?
とりあえず消火活動は終了し、焦げ臭いだろう周囲の空気も辺りの風力を強めて湖とは反対の方向に流した。
小屋の跡地は、瓦礫すら灰になっていた。周囲も、そんな広くない範囲だけど焼け焦げた木々がある。複雑な気分だ。
「森に悪いことをしたな」というより「料理をしている途中で自分の指をちょっと切っちゃった」気分だ。料理とか今も昔もしたことないけど。
ともかく、この焼け焦げた跡地をカウィールに見られないうちに処理して小屋を建てなくては。
焦げ跡を見られたら怒られそうだし、建築途中を見られたら風邪なのに無理して「手伝います」とか言い出しそうだし。
焦げ跡についてはこれまた風の魔法を大活用して表面を削り、土製の小屋作りをするときに土を回収したせいで出来たへこみに押し戻した。
それでも残ってしまった部分は下の土と上の土の入れ替えをした。いわゆる天地返しというやつだ。確か《しゃかい》という授業の教科書に載っていた。
……はっ! そういえば《しゃかい》の授業のときに、木だけで造る木造建築物について習った気がする!
たしか寄木造とかいうやつだ。
それを思い出せれば、簡単に小屋……いや、家と呼べる規模のものができるんじゃないだろうか。
なんか希望が見えてきた気がする。特に絶望していたわけではないけど。
粉塵爆発とバックドラフト現象回でした。




