可能性は無限大
建築や土器、陶器作りに関連ある物事がありますが、あくまでもフィクションです。
さすがにここは可笑しいのでは?という部分がございましたら、その際は感想欄かメッセージお願いします。
人間が人間らしく生きるのに最低限必要なのは衣食住の三つだ。
衣はカウィールがどうにかしてくれていたし、今は手元に密猟者の遺留品である服が何枚かある。
食についても、この森は冬に近い季節だというのに今のところ多くの可食植物が存在していると分かった。
また、衣服同様にかなりの量の日持ちしそうな干し肉、干し魚をバックパックから見つけた。
少しずつ食べていけば、少なく見積もっても二月はいけそうな量だ。
仏になった彼らが無事成仏できるよう後で祈っておこう。覚えていたら。
そして最後、住。
なんで今の今まで思い出さなかったんだろうと疑問に思うぐらい、私は外での生活に何の疑問も持っていなかった。
そうだ、人間らしく生きるためには、まず家が必要だ。人間らしくとまでいかなくとも、せめて雨風雪を凌げる程度のものが欲しい。
少女からエルミシアになる段階でいろいろな常識が抜け落ちたような気がしてならない。
それにしても家か……。
今の私にも前世の記憶にも、家を建てるなんて特殊な知識は無い。山奥にある家と言えば、薄ぼんやりイメージが浮かんで来たり来なかったりする程度だ。
すっと手を前に出して、辛うじてイメージ出来る山小屋のようなものを脳内に浮かべる。すると掌の上に、薄赤い小さな家の模型のようなものが出来た。
……出来るかな、と思ってやってみたけど
実際に出来るとは思ってなかった。
いわゆる《すりーでい》映像のようなそれを見ながら、ここには窓がほしいな、扉はここにしよう、と考えればそれと同様に掌の上のそれも変化していく。
炎の魔法も風の魔法も、雑なイメージでもおおよそ形にはなっていた。
ならばと、形と大きさを明確にイメージした結果がこれだ。
原理とかよくわからないけど、脳内イメージをそのまま形にした『何か』が出来てしまった。
握り潰すように掌を閉じれば、それはパンっと音を立てて消えた。
「……魔法、なんでもありすぎでしょ」
なんか今後、不可解な事が起きても全部「魔法だから仕方ない」とかの一言で解決させてしまいそうで怖い。
まあそれはともかくとして、今ので『明確に』『細部まで』しっかり想像する事ができれば魔法はそれに答えてくれる事が分かった。どこまで答えてくれるかは、これからする事のついでに検証してみよう。
寝袋に入ったカウィールと雛、バックパックなどの周囲に、風で防壁のようなものを張る。
音は空気の振動によって起こると言われているから、風の防壁は防壁本来の機能に加え防音効果も付いている。さらに言えば中の空気は時折外のものと自動で換気されるが、ほとんど防壁内で循環しているため暖房効果もある……と思われる。
まあそんな感じのをイメージして防壁張ったから似たような効果はあるでしょ!
そして次にやったのは、地面に手をついて土で出来た家を想像する事。
残念ながら私には土の魔法属性は無かったようで、何も起こらなかった。
魔法属性は一人一つでたまに二つ持つ者もいるとカウィールから聞いてはいたけど、炎と風の魔法はイメージしたら両方簡単に使えてしまったから「一人一つか二つという固定観念のせいで他の魔法属性のものは使えない」っていうオチかと期待してしまった。実際は本当に適正のないものは使えないという事が今わかったけれど。
今度は風の力で土を削り、盛り上げ、形成していくイメージを作る。
今度は成功した。私の目の前には、土で出来た今にも崩れそうな小さめの小屋がある。
どうやら土の魔法は使えないけど、他の魔法の能力で代用は出来るようだ。
次にやったのは小屋の外側と内側から同等の圧をかけ、土を押し固めていく作業だ。
これがなかなか時間がかかった。何度も何度も、内側と外側のかける圧のバランスが崩れて壁に穴が空いてしまったのだ。
あまりにもよく穴が空くからイラっと来た。イラっときた瞬間に集中力が切れて小屋を支えていた風の魔法の効果が切れて、見れるようになってきていた小屋がただの土塊に戻ったりして、作業は難航した。
……もうそこらへんに穴掘って竪穴式住居だと言い張っちゃダメかな?
私だけだったらそれで満足して終了だろうけれど、今やっているのは風邪を引いたカウィールのための住居作りだ。
思い直した私は、もう一度一から土の小屋を作る作業に戻った。
漸く小屋が満足のいく形と大きさになった時には、太陽は真上に来ており、さんさんと陽の光を振り撒いていた。
もう昼だ。
カウィールにととってきた《ばなな》、もといナバだが、本人が寝ているから一本拝借して食べる。疲れた体に栄養補給だ。
一本だけのつもりだったのに、気付いたら四本あったナバはいつの間にかラスト一本になっていた。
どうやら私がいつの間にか食べていたみたいだ。無意識って怖い。
とりあえず一本残しといて、カウィールがまた食べるようだったら取りに行けばいいか。
そういえば未だにぷひぷひ言いながら寝ているあの五羽は、ご飯どうするのだろう。
少なくとも密猟者の襲撃があった夕方頃から今日の昼まで、何も食べていなかったはず。
もし私が用意しなくてはならないようだったら催促の一つでもしそうだし、これもまた謎だ。
まあ、今は気持ちよさそうに寝ているから放置で大丈夫か。
昼休みを挟んで元気を回復した私は、次の作業に取り掛かる事にした。
次の作業とは、小屋を炎で焼き固める作業だ。
土器や煉瓦は、窯とかで超高温で焼くとできると《てれび》で見た記憶がある。
ただの土で出来た小屋より焼き固めて強度のついた小屋の方がいいだろう。
そんな考えのもと、私はカウィール達のところに使っている風の防壁の応用として、内側で起きている事の影響を外部に出さないようにし、その上で焼き固めるための高温の炎を内部に作ることにした。
もちろん、火の熱さがどのぐらいになるかわからないから、自分にも風で作った防壁を纏う。防壁内部は意外と寒くなかった。防壁内と外では気温も変わってくるようだ。
そして私は、家を焼き固めるために高温の火を内部に放った。




