VS密猟者
魔素の流れを読む修行を始めてから早十日。
未だに私は、習得出来ていない。
方や三日前から少し気分転換にもなるだろうとカウィールが教えてくれるようになった護身術の方は、昨日の時点で手加減してくれているとはいえカウィールを投げ飛ばせる程度まで上達した。
カウィール本人は「俺の十年近い年月をたった三日で……」と言っていたけど、きっとあれは私に自信をつけさせるためだったのだろう。
まぁ、確かに身体能力の向上加減は異常だと自覚はある。
練習しても三段ジャンプはできなかったけど、その練習段階として壁ジャンプはできたしね。
ぶっちゃけ普通のジャンプでかなり高い位置まで飛べるみたいだから習得したところで使い道はないんだけどね。
そんな私は今、ふんふふーんと鼻歌を歌いながら鬱蒼とした森の中をスキップしている
。
休憩という名目で藍色の羽の雛たちに会いに行くのだ。
最初に発見した時は私の拳大の大きさだったというのに、たった一週間で大人の頭部ぐらいの大きさに成長していた。
なんだろう、初日に発見した鳥の巣の持ち主の推定の大きさといい雛たちといい、この森にいる鳥はみんなデカイのか。
大きさがあるからもふもふしやすくていいんだけど。
すっかりあれらに愛着が湧いてしまった。
雛たちのところまであとちょっと、という時に私は何か動く気配を感じて、木の後ろに隠れた。
素早く、でも音は立てずに気配の方へと木に隠れながら近付いていく。
「……ぁぁ…………っ、だが……」
「それでも……しか……モック鳥の……」
男の声だ。
複数人いる。
一瞬カウィールを生贄にした奴らがどうなったのか見に来たのかと思ったけれど、それにしては洞窟のあった方向と逆だ。
それなら今出て行って助けを求めれば私もカウィールも保護してもらえるのでは、と考えてちらりと木陰から男たちの方を見る。
人数は五人。
大きなバッグパックを背負っているのが二人。銃を持った猟師のようなものが二人。残る一人はいかにも《げーむ》や《あにめ》に出てきていた騎士のような鎧を纏っていた。
そして皆、髪の色は金か茶色だった。
それを見て思い出す。
私もカウィールも黒髪だ。
下手しなくても、不吉なものとして発見され次第殺されてしまう。
さっと全身の血の気が引いた。心臓が煩いぐらいに脈を打つ。
今更ながら不用意に近付いて行ったことを後悔した。
もしカウィールの方にも人が行っていたらどうしよう。
魔法や格闘術があるから大丈夫かも知れないけれど、それでも彼だってまだ十三歳だ。
大人が相手だと力で押し負けてしまうかも知れない。
カウィールのところに帰って、すぐにでも一緒に隠れなきゃ。
一歩踏み出そうとした時、足元でパキッと音がした。
あぁ、こんな時に限って枝を踏むなんて!!
「……!! 今、あの木の裏から音がしたぞ!」
「すでにここらへんはモック鳥の縄張りだ。雛がいるのかも知れない」
「あぁ……。モック鳥だとしたら雛だろうと魔物だ。気を抜くなよ」
「チッ……生け捕りが一番値段が付くってのに……最悪殺してでも羽だけは持って帰るぞ」
じりじりと男たちが近付いてくる。
どうしよう、本当にどうしよう。
逃げれるか?
逃げ切れるか?
分からない。
いくら足が速くなって体力があったとしても、それが異世界と少女の記憶にあった世界との根本的な身体能力の違いだったとしたらどうしようもない。
最悪、私の後を追ってきてカウィールまで見つかる可能性がある。
ならば戦うか?
それこそ無理がある。
一対一ならまだ隙をついて、という可能性があったけれど五対一で、しかも相手は武器を持っているとなればそれは不可能。
それでもカウィールまで巻き込むよりは、と木陰から出ようとしたその時。
「ピャッ!」
藍色の羽の雛が落ちてきて
ゴオオォォォォォォ!
鞄持ちの男二人を丸焦げに。
「…………え?」




